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kishibe
【毎週ショートショートnote】こざかしい落下|祝日.美男子.眺め|ショートショート
祝日の午後、空は雲ひとつない。
彼は駅前のビルの屋上で、ポケットに手を突っ込んでいた。
“美男子”という言葉が似合うのは、だいたいが他人の評価だ。
本人はただ、「寝ぐせを直すのが面倒な人間」くらいに思っている。
眼下では、人々が小さな箱(スマホ)を覗き込みながら歩いている。
どの顔も、どの歩幅も、まるで同じテンポ。
——美しい眺めだ、と彼は思った。
そのとき、ポケットの中のコインがひとつ、
ひょい、と手元をすり抜けて落ちていった。
金属音が、風に混じって小さく響く。
「……おいおい、落ちるのは俺じゃないぞ。」
思わず苦笑する。
けれど、その瞬間。
彼の中で“こざかしい何か”が崩れた。
仕事も、恋も、見栄も、
全部“落ちないように”握りしめていた指が、ふっと緩んだのだ。
彼は深呼吸し、空を見上げた。
風が頬をなで、太陽がまぶしくて、
世界が、ほんの少しだけ優しかった。
その日の彼は、何も変わらなかった。
——ただ、下を見ない代わりに、空を見上げるようになった。
了

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