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【せりふ三題噺】香水つけてる?|間欠泉.サロン.炭酸水|ショートショート


タイトル: 世界で一番やさしい香り

「香水つけてる?」

旅人にそう聞かれ、私は首を横に振った。

ここは、全世界の香りが集まると言われる「風のサロン」。

花の香りも、雨の匂いも、焼きたてのパンの香ばしさも、風が少しずつ運び込み、大きな水晶に閉じ込められている。

サロンの奥には、透明な泉があった。

近づくと、水がぷくぷくと泡立つ。

「これは炭酸水ではありません。」

案内役の妖精が微笑む。

「誰かの幸せな記憶です。」

泡が弾けるたび、懐かしい景色が浮かんでは消える。

初めて手をつないだ日。

母に抱きしめられた夜。

友達と笑い転げた放課後。

どれも、ほんの一瞬だけ香りになって漂っていた。

突然、大地が揺れた。

サロンの外では、七色の間欠泉が空高く噴き上がる。

そのしぶきは風に乗り、世界中へ降り注いでいく。

「香りは、ここから旅立つんです。」

妖精はそう言った。

「悲しい人には勇気の香りを。」

「寂しい人には懐かしい香りを。」

「幸せな人には、その幸せを忘れない香りを。」

私は自分の袖口に顔を近づけた。

そこには何の香水もついていない。

けれど、どこか懐かしくて、心がほどけるような香りがした。

もしかすると、それは誰かが遠い空の下で笑った記憶が、風に乗って届いたものだったのかもしれない。



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