Photo by
190318start
【せりふ三題噺】待っててね|アップグレード.名札.夜桜|ショートショート
タイトル:夜桜に名前を預けて
夜桜の下で、名札を外した。
名前があると、戻らなきゃいけない気がしたから。
「待っててね」
そう言って、彼女は笑った。
アップグレード、という言葉が頭に浮かぶ。
この世界では、
人の感情も、記憶も、
少しずつ更新されていく。
痛みは薄く、
悲しみはやさしく、
選びやすい形に整えられる。
それが正しい進化だと、
誰もが信じている。
でも、彼女は違った。
「全部、残したいの」
夜桜の花びらが舞う。
狂おしいほど好きだった時間も、
うまくいかなかった言葉も、
消えずに残ってほしいと願っていた。
「だから、行ってくる」
アップグレードの先には、
もう戻れない領域がある。
そこに、自分の“元のまま”を取りに行くのだと、
彼女は言った。
名札を、私に預ける。
その重さが、
やけに現実だった。
夜は深く、
桜は静かに揺れている。
「待っててね」
もう一度、同じ言葉。
今度は少しだけ、
泣きそうな声で。
私はうなずいた。
名前を握りしめて、
ただ立ち尽くす。
もし戻ってきたとき、
彼女が変わっていたとしても。
それでもきっと、
また好きになると思った。
夜桜は、
何も言わずに散り続けている。
了

*下記企画に参加させて頂きました*
☆次の作品はこちらです↓↓↓
前回の作品はこちらです↓↓↓
最後までお読みくださり、ありがとうございます😊すず
いいなと思ったら応援しよう!
読んで下さりありがとうございます!励みになります!