【青ブラ文学部】聖書の裏側|エッセイ
聖書には、表向きの物語と、その裏側に沈んでいる気配がある。
私が惹かれるのは、いつもその“裏側”の方だ。
英雄の影、涙の理由、語られなかった名前。
どんな聖句にも、光が当たらなかった誰かの物語が眠っている気がしてならない。
ヘロストラトスの名誉――。
エフェソスの神殿を燃やし、禁じられてもなお歴史に名を残してしまった男。
彼のことを知った時、私はただの愚行として切り捨てることができなかった。
「忘れられたくない」という衝動は、人の心の深いところに潜んでいる。
私自身も、誰かの記憶の片隅に残りたくて、それで必死に生きてきた日があったから。
もちろん、彼の行いは褒められない。
だけど、もし人が完全に孤独だったら、
ああいう形でしか存在を証明できないこともあるのかもしれない。
聖書の裏側にも、名前を持たない人たちがたくさんいる。
何かを壊すことではなく、何かを残したくて生きた人たちが。
そんな考えに沈んだ夜、
私の頭の中でふいに「アメージング・グレース」が流れた。
あの曲は、私にとって“赦し”ではなく、“帰る場所”に近い。
一度も行ったことのない場所なのに、なぜか懐かしい。
私が失敗した日も、人をうまく愛せなかった日も、
その旋律だけは、私を責めずに受け入れてくれる。
聖書の裏側に沈む声も、
ヘロストラトスの歪んだ願いも、
結局は同じところへ向かっているんじゃないかと思う。
――「存在したかった」。
ただそれだけ。
アメージング・グレースが優しく響くと、
私の中の棘がゆっくりと溶けていく。
名前が残るかどうかなんて、もうどうでもよくなる。
私は今日を生きている、その事実だけでいい。
光の表側ではなく、
祈りの裏側にひっそり立ちつくす私にも、
いつか自然に射す光があると信じながら。
了

*下記企画に参加させて頂きました
☆次の作品はこちらです↓↓↓
前回の作品はこちらです↓↓↓
悠・恵 日常・ほのぼの↓↓↓1
最後までお読みくださり、ありがとうございます😊すず
いいなと思ったら応援しよう!
読んで下さりありがとうございます!励みになります!