Photo by
nanadays
【せりふ三題噺】行ってませんね|新幹線.花びら.レモンスカッシュ|ショートショート
タイトル:倒置法のホームで
「行ってませんね」
そう言われたのは、
新幹線のホームだった。
発車ベルのあとに、
やわらかく舞い込む花びら。
春の終わりみたいな光景なのに、
なぜか時間は止まっていた。
「……何が?」
聞き返すと、
彼は少しだけ笑う。
「君の時間」
意味が分からないまま、
手にしていたレモンスカッシュを見下ろす。
泡が、ゆっくり上がっていく。
普通なら、もう発車しているはずの新幹線は、
そこにあるまま動かない。
「ここ、少しだけ順番が違うんだよ」
彼はそう言って、
線路の向こうを指さした。
言葉の順番。
出来事の順番。
全部が、ほんの少しだけずれている。
「倒置法みたいなもん?」
思わず言うと、
彼はうなずく。
「結果が先に来ることもある」
風が吹く。
花びらが、逆に舞い上がる。
落ちる前に、戻るように。
「だから」
彼は、少しだけ真面目な顔になる。
「行ってませんね、になる」
まだ行っていないのに、
もう戻ってきたみたいな言い方。
その違和感が、
妙にしっくりくる。
「じゃあ、これから?」
そう聞くと、
彼は肩をすくめた。
「どっちでもいいよ」
ホームの空気が、少し揺れる。
レモンスカッシュの泡が、
弾ける前に戻る。
まだ始まっていないのに、
どこか懐かしい時間。
私は一歩、前に出る。
動き出すのは、
きっとこれからなのに。
もうどこかへ行ってきた気がするのは、
この場所のせいなのかもしれない。
了

*下記企画に参加させて頂きました*
☆次の作品はこちらです↓↓↓
前回の作品はこちらです↓↓↓
最後までお読みくださり、ありがとうございます😊すず
いいなと思ったら応援しよう!
読んで下さりありがとうございます!励みになります!