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【せりふ三題噺】見なかったことにして|花粉.サワラ.堤防|ショートショート


タイトル:堤防に立つ春のお化け

春の堤防は、少しだけむずがゆい。

風に乗ってくる花粉で、
くしゃみが止まらない。

「最悪だ……」

鼻を押さえながら歩いていると、
海の匂いが混ざってくる。

サワラが釣れる季節だ。

釣り人がぽつぽつ並ぶ中、
ひとりだけ、じっと海を見ている人がいた。

いや、人……というより。

「……お化け?」

思わず声が漏れる。

透けてる。

風に揺れるみたいに、
少し輪郭が曖昧だ。

その“それ”は、ゆっくり振り向いた。

見なかったことにして

あまりにも普通の声だった。

一瞬、思考が止まる。

「え、無理でしょ」

反射で返すと、
お化けは少しだけ困った顔をした。

「じゃあ、花粉のせいで見えてるってことにして」

「そんな都合いい?」

堤防の向こうで、
誰かがサワラを釣り上げた。

歓声が上がる。

現実の音が、ここだけ少し遠い。

お化けはまた海を見る。

「春ってさ」

ぽつりと言った。

「一番、戻れないことを思い出す季節なんだよね」

風が吹く。

花粉が舞う。

目が少しだけかゆい。

「だから、たまに出てきちゃう」

その声は、
少しだけ寂しそうだった。

私は鼻をすすって、
空を見上げる。

くしゃみがひとつ出た。

その間に、
お化けはもういなかった。

残っているのは、
春の風と、
少しだけやさしい違和感だけ。



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