技術のホンダには”科学”が無かった4

ホンダが本来進むべき方向はどうなのか?

三部社長は、工学部出身で利潤追求に関しては優れているのかもしれません。しかし、ここでは、工学や利益追求産業ではなく、基礎科学だけの観点から、ホンダの未来を見た場合、どういう方向に進むべきか、私なりに勝手に推測します。
◆ホンダが2040年までに、ガソリン車を廃止し、電気自動車(BEV)、水素自動車(FCV)に全振りすると、発表していましたが、突然、BEV製造中止を発表し、損害が2兆5千億円にも上る見通しとなりました。充電設備や配線施設ができない地球上の大多数の国では、HEVこそ正解なのですが、そのあたりが、全く理解できてないのは、正直言って驚きです。
まして、日本というハイブリッド車(HEV)先進国であるにもかかわらず、そのHEVを捨てるという選択肢は、当面ないはずなのですし、ましてエンジン車を捨てるという判断は、あり得ない選択をしてしまったといえます。

◆科学的には、まず利用するエネルギー担体のエネルギー密度から考えます


BEVに使用する「リチウムイオンバッテリー」、ガソリン車に使用する「ガソリン」、FCVに使用する「水素」、参考までに温暖化をせず、高効率にエネルギーを取り出せる「原子力」のエネルギー密度の比較表を見てください。リチウム電池1㎏で発生できるエネルギーを1とした場合、ガソリン、水素、原子力などは1㎏で何倍エネルギーを生み出すことが出来るかということを一覧にしたものです。


エネルギー密度の一覧

上記の表から、最高性能のリチウムイオンバッテリーを採用した際の、他のエネルギーを採用した場合とで、エネルギー密度を比率してみると、
リチウム:ガソリン:水素:原子力=1:40:110:267000
となります。この表からは、物質の1㎏あたりで利用できるエネルギーはどの位なのかを比較することができるのです。
すると、リチウムを使用するBEVは重さの割に利用できるエネルギーが少なく、同じ重量ならば、ガソリン車の方が40~80倍もエネルギーを生むし、水素を利用するFCVになると100~200倍以上も、エネルギーを生むのです。そういう意味で、ホンダが、次世代としてFCVを選択したことは間違っていません
余談ですが、航空機においてはもっと興味深く、水素燃料の飛行機を開発しようとする動きもあり、実際にJALは開発に注力しています。
低温に弱いガソリンよりも、安定している灯油系ジェット燃料のエネルギー密度もガソリンとほぼ同じですから、水素の方が約3倍も効率が高いのです。
例えば、大型旅客機の場合、機体重量が約250tなのに対し、燃料が満タンで260~270t、登場人員400人でも重量は30t程度、荷物を合わせても数十tにしかなりません。つまり総重量の半分近くを燃料が占めるのです。ですから、もし現在の灯油系燃料を水素に代替できると、同じ飛行機に180tも余計に人や物を積載することが出来ますから、水素ジェットエンジンの開発は、航空機の歴史を塗り替えることになるかもしれないのです。
トヨタは水素エンジンを開発しています。水素自動車MIRAIは、水素を電気分解して直接エネルギーを取り出していますから、エネルギー効率は素晴らしいです。しかし、水素をガソリンエンジンと同じように燃焼させると、電気分解方式のエネルギー効率の50%になってしまいます。
マスコミや一般人は、なんでわざわざ効率の悪い、水素を燃焼させるエンジンなんか開発しているのかと訝るわけですが、我々は、将来の航空機、ドローンを制覇するエンジン特許を狙っているな、と気付くわけです。
それなのに、航空機を作っているホンダが、トヨタ会長の「エンジンを一緒に磨きましょう」という申し出を断った瞬間、未来の航空機エンジンは、トヨタに寡占されてしまう可能性が出てくると考えるのが普通の考え方です。
航空機でも、水素エンジンは、ウクライナ紛争以来戦闘の中心となっているドローンの世界も塗り替えられえる可能性を秘めています。現在イラン攻撃で多用されている軍事用爆撃ドローンMQ-9 は、長距離型MQ-9Bだと、航続距離片道4000㎞の灯油エンジンですが、機体重量2.2t、兵器装備1.7tで、満タンの燃料は2.7tになります。これが、もし水素エンジンに置き換えられるとすると、燃料が0.9tになり、兵器が倍以上積載できるか、燃料タンクを増やせば、航続距離が片道8000㎞ということになります。日本を飛び立ってドバイやオーストラリアのパースまで往復できます。恐らく最初に、予算が潤沢な軍事から水素飛行機が生まれるかもしれません。軍事で最先端技術が開発されると、スピンオフで民生用に技術転用がされます。
例えば、アメリカのスペースシャトル機内で、飲用水や尿便が機内に飛び散った際に、無重力環境では水分が360°拡散し、回線がショートしたりする危険が出てきます。その際に、大きなシートで液体を包んで完全に吸着するシートが開発されました。シートの中には水分を吸収するとジェル化するポリアクリレート系高分子ポリマーの粒子がたくさん含まれていますが、この特許技術を、ある会社が日本に導入して開発されたのが「女性用生理用ナプキン」です。従来のような圧縮綿とは比較にならないほど大量の液体を吸着して漏れなくしてくれる技術ですから、特許料20%という超強気の契約でした。この特許を導入した人物と私は特許開発を組んでいたこともあるので、軍事開発技術の民間転用の可能性を痛感した記憶があります。因みに、社員10名足らずのこの会社に入る特許料は、毎年なんと54億円でした。最初から軍事を捨てて考えると、大きな技術開発はできなくなる危険性が大なのです。他にも自動車周辺の特定の技術開発に特化すべき方向がたくさんあります

◆地上の移動は空気抵抗から考えてみる


一方で、自動車の消費エネルギーは、空気抵抗と同じく、速度の二乗に比例しますから、時速50㎞に比べ、時速100㎞なら、同じ距離を走ると消費エネルギーは4倍になります。これがアウトバーンの巡航速度時速140㎞なら約8倍、時速200㎞巡行なら16倍もエネルギーを消費しますので、リチウムは、あっという間に”電池切れ”を起こしてしまうのです。さらに気温が氷点下になるとリチウムは効率が2/3~1/2まで下がるので、冬場は最悪です。それゆえ、EU各国がBEVに全振り、という決定は「経営者全員の頭がおかしくなった」というしか、言いようがありません。
上記のデータを見ると、リチウムは、低速で、加減速が多く、減速時にチャージ(充電)ができる市内走行に、向いていることがわかります。しかし、高速走行が多くなると、リチウムは俄然不利になります。例えば、日産のe-powerのように、ガソリンエンジンは発電専用にし、リチウムバッテリーだけで駆動するタイプの車も、市街地ではそこそこ燃費は良くても、高速走行が多くなると、燃費的メリットはありません。2013年には、BMWは、シティコミューターとして、バイクのガソリンエンジンを搭載したコンパクトなe-power車i3を作りましたが、高速走行の多い大型車種には採用していません。BMWは昔から新しい技術を使う企業でしたから、EV技術に関しては冷静であったように思います。
トヨタは、エンジン+リチウムをコンピューター制御でコントロールし、最高の燃費を得る仕組みですが、ホンダはリチウム+走行エンジン+発電用モーターの組み合わせで運動性能と燃費を両立させています。つまり、ホンダは、ハイブリッド車は、高速走行と山登り時などの負荷が高い時には、”エネルギー密度が高いガソリンエンジン駆動が不可欠”であることを知っていたはずなのです!
それだけに、なぜ三部社長がBEV特化という”大愚行”をしたのか、不明!なのです!
今後は、HEV生産に戻り、なおかつ、軍事にも使用可能なレベルの開発、本筋の環境問題を解決できる技術開発の方向に向かうのが、正解だと思えるのです。基礎科学から見ると、ホンダが、未来に向けて取り組む開発はいくつも見えているのですが、残念ながら、”技術”だけから見ると、何をして良いのかわからないのではないかと思うのです。

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