見出し画像

話せない美少年を拾ったら、執着されて逃げられなくなった

話せない美少年を拾った。

私だけに依存させるつもりだった。

数年後。

出ていって、と言った時、成長した彼は初めて口を開く。

「……他の男か」


「……ぅ」

死にそうな音。

使えそうだ。

掠れた吐息が聞こえた瞬間、振り返った。

道端に蹲る少年。

彼を見つけ、獲物探しのために踏み出した足を止め、慌てて駆け寄る。

16歳くらいだろうか。

少年はボロボロの黒い服を身にまとい、蹲って呻いていた。

泥にまみれても、長いまつ毛と整った鼻筋が目を引く。

漆黒の髪が彼の額に張り付いている。

「……」

血なまぐさい。

大丈夫か、と言う前に、手が動いた。

「!?……ぐぅ……!」

凄まじい力で押し返される。

「いた……っ!」

顔をひっかかれた。

私の顔が恍惚に歪む。

可哀想に。

助けられることも警戒しているんだ。

この子、私だけを見るようにできるんじゃないか。

「……痛いなぁ」

困ったように口角を上げながら、口元を拭った。

少年は暴れているが、手負いだ。

若い女の私でも、家に連れ込めそうだ。

「ぅ……はぁ……っ!」

息を乱す彼を、簡易的な空き部屋に彼を押し込む。

彼は抵抗するが、体力の限界なのか、その場に崩れ落ちてしまった。


チャプ……。

少しして、あたたかいお湯に濡れタオルを部屋に運んだ。

「自分でできそうなら、やって」

彼は切れ長の目で私を見たあと、少し手を伸ばしてから、ひったくるようにタオルを取った。

「名前は?」

「……ぅ」

話せないのか。

少年は何度も口を動かすのに、吐息や掠れた音しか出ない。

「ジル、って呼ぶよ。私はミナ」

ジルは不服そうにしつつ、汚れた腕などを拭き始めた。思いのほかスムーズだ。

骨折などはないらしい。

「出血が止まらなければ、私に教えてね?」

切れ長の目が細められ、ぎろりと睨まれる。

この子、気になるなぁ。

怪我もだし、反応も。

ある程度拭き終わったところで、彼の口の中に指を入れた。

「がっ……!んぐ……!?」

突然の行動に、ジルの切れ長の目が見開かれる。

正常な組織の感触がする。

……損傷はない。

心因性か。

ガブリ。

「いた……!」

指に歯型がついた。

ジルが肩で息をしている。

顔は真っ赤だ。

反応、面白い。

痛いなぁ、と困ったように言ったあと、部屋を後にした。


「ご飯だよー」

雑炊とスープを作り、ジルの部屋に置いた。

食べようとはしない。

しかし喉を鳴らしながら、トレイを見ている。

「冷めちゃうよ?」

ジルは飛びかかった。

凄まじい勢いで手を使って口に運んでいる。

警戒しているのに、目が輝き始めた。

「スプーン使ってごらん?」

ジルはう、と唸って私を睨む。

「デザートつけようか」

デザートと言われた瞬間、喉を鳴らし、不満そうにしつつもスプーンを使ってたどたどしく食べ始めた。

ご褒美にプリンを出すと必死に食べ進め、もう無いのか、と言わんばかりに私を見続けていた。


『孤児院での重労働』

ジルとの共同生活が始まって暫く経った。

ジルを知ろうと調べたら、出自が明らかになった。

両親はおらず、孤児院に引き取られたものの、児童に過酷な労働をさせる場所だったらしい。

命からがら逃げ出してきたようだ。

話せないのは、やはり精神的ショックのせいか。

……誰も頼れないのか。

ますます丁度良い。

……でも、気持ちもわかる。


ジルは1人だ。

外に出て良い、と言っても、警戒しているようで外にも出ない。

かと言って私にも甘えない。

「時間潰したくない?」

手遊びや読書に誘う。

最初は無視したり抵抗していたが、私のしつこさに負けたようだ。

おずおずと手遊びをしたり、文字の読み方を私から教わっていった。

飲み込みが早く、すぐに私に勝つようになった。

本を読むスピードも上がっている。


「ジル、今日も図書館?」

ジルは18歳になった。

さらに端正な顔立ちに、いつの間にか肩幅も広くなっていた。

ジルは切れ長の目でじっと私を見つめたあと、静かに頷いた。

「私も行こうか」

首を振る。

「友達と?」

少し目を逸らしたあと、

頷く。

ジルはやはり私に甘えない。

失敗だったかも。

でも、私が風邪を引いた日は、決して図書館に行かずにずっと家にいる。

優しい子には育ったようだ。


効くかわからないけど。

「……私だけに甘えてくれたらいいのになぁ」

ある日、料理をしながら、ふと呟く。

ピタリ。

リビングで本を読んでいたジルが、ページをめくるのを止めた気配がした。

「……」

パラリ。

ページをめくる音。

少しして、また読書を再開したようだ。

……失敗。


手放した方が良いかな。

数年かけてもだめだったなら、次のターゲットに。

……あれ?

手が震える。


「ジル、出ていって」

私に依存しないターゲットに用はない。

自由に生きれば良い。

……そのはずだ。

だから、ジルが20歳になった日、そう言った。

「……」

私の手料理を食べていたジルが、からん、とスプーンを落とした。

「……男か」

!?

どす黒い、低い声。

ジルが、初めて話した。

ジルが立ち上がり、私の背後に立つ。

「もっと良い奴がいたか」

「他の男と生活する気か」

「許さない」

私の喉が、張り付いたように動かない。

背筋が粟立つ。

「昨日は帰宅がいつもより12分遅かった……誰と会っていた」

なんで知ってるの……!?

誰とも会ってない。

ジルの誕生日ケーキを選んでただけ。

上手く声が出ない。

「弱い俺の方が良いと思ったんだ」

「だけど、こんなことになるなら……もっと早く話せばよかった」

ジルは、厚い胸板を私の背中に近づけて、椅子の背もたれに手を置く。

「もう外には行かなくていい」

「……っ」

耳元に低い音が響いた。

ゾク、と背筋に震えが走る。

「……」

ジルが私から離れた。

カチリ。

「……!」

内側から、鍵が閉まる音がする。

視界が滲む。

私の顔は、怯えか、微笑みか、

きっと、崩れた顔をしている。


ーー

スキ、コメント、フォローいただけると励みになります。

続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひ教えてください。

次の1本はこちら。

初めての方はこちら。