【宿運のアポスタシア】第3話 創作大賞漫画原作部門

それから、ガージャと1ヶ月ほど、ティトが目覚めた小屋で生活していた。魔人としての生活に慣れるため、毎日自分と奮闘していた。


まず、手の使い方だ。爪が鋭利すぎてものを触る時穴を開けたり壊したり、力が入りすぎて色々握り潰してしまったりした。この前はつい、食べようとしていたリンゴを握りつぶして粉砕させてしまった。絶妙な力加減でものを持つのが本当に難しい。


また、ずっと遠くで鳴いている鳥の種類を当てられるほど耳が良くなり、10メートル離れた場所にある小説が難なく見れるくらい視力が良くなった。しかし入ってくる情報量があまりにも多すぎて、脳がすぐ疲れ切ってしまう。

ガージャが言っていたのだが、魔人は普段は聴力や視力を普通の人間と同じくらいに調整して、戦いの場面など、必要に合わせて解放しているらしい。


なにより1番大変なのは、しっぽの扱いだった。これが本当に厄介で、思ったように動かすのは至難の業だ。なかなか言うことを聞いてくれなくて、油断していると棚に置いてあったものをすべてしっぽで叩き落としてしまったりする。


「あー、難しすぎるよ、これ。しっぽが全く言うことを聞かないんだよ!!」

ティトは恨めしそうにゴツゴツした自分のしっぽをこつんと叩いた。
しっぽはティトを嘲笑うように、意思に反してくねくね動く。

「慣れるまではきついよなー。まあ俺までのレベルになったらここまでのことはできるんだけど。」

そう言うと、ガージャはティーポットの取っ手にしっぽを巻き付け、手に持っているコップに見事に茶を入れてみせた。

「まあ俺はしっぽを使って戦うくらいのしっぽマスターだから、こんなことまでできるんだな。まあ、さすがにここまでの技術はいらないんだけど。」

しっぽマスターというかわいい単語がいかつい見た目のガージャから発せられたことにひっそりとにやけつつ、ティトはしっぽを動かす練習を続けた。


「こんなに日常生活に手こずってるくらいなのに、ほんとに戦ったりできるようになるの?」

「まあ、みんな結構初めは手こずるぞ。適正体質だと、練習せずとも普通の魔人くらいには戦えるやつもいるし、極僅かだが初めから魔法を扱える奴もいるらしい。
師匠はお前を適正体質だとみなしていたが、どうやら違ったみたいだな。」

ガージャはニヤッと笑みを浮かべてティトを煽った。僕はあとから覚醒するタイプだから、と根拠の無い言い訳をして場を取り繕った。






そして、ガージャは、外に出てみないか、と提案をした。そういえば、あの日目覚めてから一切外に出ていない。

「全然気にしたこと無かったけど、ここってどこなの?」

「ここか?お前が住んでた街からだいぶ離れた山奥だよ。なんでったって、俺たちアポスタシアは秘密の存在だからな。組織の存在がバレたら大変なことになる。」

そう言うと、ガージャはさっさと扉を開けて外に出た。ティトも後を追って外に出る…。
久しぶりの外出は、とても気持ちの良いものだった。美しい三日月と星々が空に浮かんでいる。魔人になったからか、暗くとも普通に周りが見える。
そよ風が体のそばを通り抜け、森林の香りは心を潤した。静かで暗い夜だから、ほとんど脳に情報が入ってくることなく、開放されたような気持ちでいられた。

「こっちに来い、ティト。面白いものを見せてやるよ。」

そういうとガージャは、小屋の広い庭を歩いていく。わくわくしながら、後を着いていく。庭にある1本の大木の前で立ち止まった。珍しい鳥の巣でもあるのかなぁと、木のうろを覗いたり、枝を眺めたりした。

「今から30秒間、木の方を向いて、目をつぶって、耳を手でおおって、絶対にここから動かないでくれ。」

なにかのサプライズだとすぐにわかった。こんなわかりやすいサプライズなんて、可愛いなぁと思いながら、ガージャにはわからないふりをした。今日ってなんかの記念日だっけなど考えながら、ゆっくりと、声に出して秒数を数える。


「20」

10秒経ったら、後ろでゴンッと鈍い音が聞こえた。耳を塞いでいるのでなんの音までかはわからないが、もしかしたら想像しているよりもっと壮大なものを用意してくれているのかも。ドキドキする心臓の音を抑えて、また数え始める。


「10」


バチバチバチっと激しい音が聞こえた。花火だろうか。もう待ちきれなくて、早く振り返りたいけど、我慢我慢。

「5」

なんだか後ろでせわしなく動き回っている気配がする。30秒では足りなかったのかな?


「3、2、1……0!!

ティトはつい嬉しさが溢れ出てしまって、満面の笑みで後ろを振り返った。
そこには…ケーキと、シャンパンと、クラッカーと、鳥の丸焼きと、『アポスタシアへようこそ、ティト』と書かれた看板が……!!!






いや、違った。

そこには、傷だらけの鹿頭の少年と…翼を持った余裕そうな表情の男が、激しい戦いを繰り広げる光景が広がっていた。

どういうことだ…?

ガージャはティトの様子に気づいたようだった。

「ティト!!何があってもそこから出てくるな!!こいつはお前を攫うのが目的だ。
…すまない。何日か前から俺たちの様子を伺っている奴の気配がしていたから、お前を囮に、罠を仕掛けてとっ捕まえてやろうと思ってたんだが…こいつは想定してた奴よりずっと強かった…まさか、『天兵』がこんな山奥に来て、こんな姑息なマネするなんで、全く、予想外だぜ…」

よく見ると、ティトは紫色の円形の膜に覆われていた。どうやら、これはガージャの魔法で造られたバリアらしい。地面には、魔法陣の模様が紫色の光を放って表れている。

ガージャは攻撃をかわしつつ、長槍で攻撃を受ける。
天兵が杖を一振すると…無数の光の矢がガージャめがけて降ってくる…!!

雨のように降りそそぐ光の矢を、ガージャは素早い身のこなしで避ける。避けきれない矢は長槍で受け流す。夜を飛び交う鴉のように、マントを翻し空に舞う。

「まだそんな戯言をいう余裕があったのだな。こっちも舐められたもんだ。お前みたいな魔人伝いで魔力を得た奴が、神の視線を集め、神から直々に力を与えられた私に敵うはずがないだろう?
その金髪の少年を渡すのなら、お前は見逃してやる。さっさと武器を地面に置け。」

「んなことするわけないだろ、ばか。俺たち魔人は契約を重んじるからな。俺の命なんざ、ティトを差し出す代償に足りるわけないだろ。契約不成立だ、俺は死んでもこいつを離さねぇ。」

ガージャは長槍を天兵に見せつける。年季の入った槍。所々に細かい傷が入ってる。きっとずっと昔から使ってきたのだろう。

「ふん、ならば自分の愚かな発言を悔いるがいい!!」

天兵は杖を高く持ち上げた。5本の光の剣が表れ、ハヤブザにも負けないスピードでガージャめがけて襲ってくる!!

「ワンパターンなんだよ!お前の攻撃!!」

ガージャはかわすことなく、全ての剣を自慢の長槍で見事に受け流した!!
ガージャはドヤ顔でティトの方を向く。

「ガージャ、後ろ…!!!」

受け流したはずの剣が、背後から迫ってきている!!この光の剣は、たとえ受け流されても、軌道を変えて獲物を追跡し続けるみたいだ!!

予想外の奇襲にガージャはバランスをくぐす。4本の剣はなんとか受け流したが、5本目は…柄の部分を貫いた。長槍は、真っ二つに割れた。

「まずい…」

ガージャは逃げ回ることしか出来なくなった。マントを翻し、ただひたすらに飛んでくる剣をかわす…しかしどれだけかわし続けても、剣は獲物を刺し殺すまで止まらない。
だんだんと息が上がってきているのがわかる。さっきと比べて確実に動きが鈍くなっている。

ガージャはティトの方を振り向く。目で圧をかけてくる。「こっちに来るなよ」と念押ししているようだ。だが、さっきのように、声を出す体力はもう残されていないらしい。

「こんなところに突っ立って、仲間が死ぬのを眺めていられるわけないだろう!!!」

怖かったが…ティトはバリアから飛び出した…!!!そして、ガージャに向かって飛んでゆく剣を素手で捕まえて、粉々に砕いてやった。

「おま…来るなと言ったのに…まあ、大天使にも刃向かったお前のことだからこうするだろうと内心わかってたけどな。」

ガージャは溢れる喜びを隠しきれていなかった。日常生活もままならないティトだったが、戦いなら力を調節しなくていい。アルバは、過去にティトは適切体質を持っていると発言していた。もしかしたら…ここで本領発揮出来るかもしれない!!!

「お前のためにバリアを張ってたから、魔法が使えなかったんだけどな、もう必要なくなった。俺の100%の魔力を見せてやるよ!!!」


天兵は汚れたものを見る目つきで僕らを見下している。


もうこれ以上、僕から…なにも奪わせない。



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