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【宿運のアポスタシア】 第1話 創作大賞漫画原作部門


あらすじ

神が率いる天使軍と悪魔軍が戦う、『天魔大戦』が繰り広げられる世界。戦争は長期化し、人間界にも影響が表れ始める。

神を熱心に信仰する帝国、アンドレアに暮らす少年ティトも熱心に神を信仰してきた。しかし、神に家族を見殺しにされたことにより、信仰を捨て、神を恨むようになる。そして大逆罪任として国に命を狙われることに。

全てを失い絶望の中、少年はとある裏組織と出会う。彼らは悪魔と契約を結び魔力を得た『魔人』で、少年と同じく『神に背く者』の集団であった。少年は魔人から力を得て、国家転覆を目論み、天魔大戦を悪魔の勝利で終結させるという組織の目的のため、魔人と共に神に立ち向かうことを決意する。


【補足】物語の大まかな設定

帝国アンドレア

神を厚く信仰する帝国。西欧風。神への信仰の強さが国の強さに繋がると信じているため、神に背く人間に非常に厳しく、たとえ子供でも死刑にする。
悪魔軍へ宣戦布告を行い、『天兵』を天魔大戦に参戦させたことによって、戦争の影響が人間界にも現れ始める原因になってしまい、国民は徴兵や重税に苦められる。

唯一神 シヴェリナ ・女性の見た目  (作中では 神 と略されて書かれる)
アンドレアの民が信仰する神。天使軍を率いる。
アンドレアの優秀な兵士に神の力を与えて『天兵』を創り、天界へと上がらせ悪魔と戦う戦力に加えている。
アンドレア国民全てに加護を与えられるほど強大な力を持つが、弱い人間には興味なく見殺しにするといった残忍な面をもつ。

天使
神に仕える存在。神の力を使い、悪魔と戦う。
人間が神の力を得た存在である『天兵』を指揮する。

天兵
人間の兵士の中で実力が認められた者は『天兵』に任命される。神から直々に神の力を与えられ、天界に登り、直接悪魔と戦う権利を手に入れる。天兵になれるのは極わずかの選ばれた者だけなので、人々の憧れの的である。

悪魔
神に背く存在。魔力を使い、天使と戦う。
人間からは神に背く悪しき存在だと言われるが、神のやり方に不満を持つ者の集まりであるだけで、悪者ではない。
選ばれた者に加護を与える神とは違い、人間との関係としては契約を重んじていて、どのような身分の者にも代償さえ払えば力を与え、結んだ契約を決して破ることは無い。合理主義的な性格の持ち主が多い。

『天兵』に対抗する手段として、密かに人間と契約を結び魔力を持つ『魔人』を創造し、アンドレアの国家転覆を目論む裏組織を造らせた。

魔人
アンドレアの国家転覆を目論む裏組織『アポスタシア』を運営する集団。
『魔人』は普通の人間と契約を結ぶことによって自身の魔力を分け与え、人間を魔人へと変化させることができる。魔力との適応力は人によって違うが、鍛えることによって魔力を向上させることは可能。
組織のボスと5人の実力者『五英大魔王』を中心に構成されている。

魔人の見た目はほとんど人間と変わらないが角と尻尾、瞳孔に十字架が刻まれ、尖った爪や耳を持つといった特徴がある。


キャラクター

主人公 ティト・アレイオス
12歳 男
たれ目下がり眉、青く透き通る瞳。色白で華奢。金色の長い髪を雑にくくってまとめている。羊のような角、ワニようなしっぽをもつ。

家族想いで優しく、少し気が弱いが、芯がしっかりしていて本当に大切なもののためにはを命をもかける覚悟が備わっている。

貧乏な家庭だったが両親、兄、妹と幸せに暮らしていた。
優しく家族想いな人柄だが、神を厚く信仰し、全てを神に捧げて生きてきたにもかかわらず家族を見殺しにされたことに絶望し、背教の世界へ踏み入れることになる。

『魔人』になり、世間側からすると神を殺し国家転覆を目論む悪役となったが、主人公の目的は
・天魔大戦のような天界での争いを二度と人間界へ持ち込ませないようにすること。
・神を盲目的に信仰し、人々の言論の自由や宗教の自由を奪う国家を根幹からひっくり返すこと。
といった、正義感が強く理にかなった目的であって、悪人になった訳ではない。

魔人 アルバ・フォルネウス
3200歳 男 (見た目はイケおじ)
茶色の長い髪に尖った耳、ギザギザの歯にワニのような尻尾をもつ。
赤色の瞳で中に十字架の模様がある。

黒いハットを被り、マントを身につけた魔人。非常に背が高く足が長い。
主人公を魔人にし、主人公の師匠における存在となる。

実は『五英大魔王』と呼ばれる五人の実力者の一人で魔力を使いこなす達人。冷酷そうに見えるが案外面倒見がよく、カリスマ性がある。

魔人 ガージャ・バフォメット
14歳 男
鹿の頭蓋骨を常に被っている。白く長い髪。

決して他の者に素顔を見せない少年。ティトの親友になる。
前の魔人の師匠が死に、殺されそうになっていたところをアルバに助けられ、アルバの弟子として生きることを決める。実力は師匠にも認められるほど。
魔法を扱いバリアを張ったり、魔物を召喚したりできるが、長槍で戦うのを好む。しっぽを扱うのが非常に上手く、大きな戦争ではしっぽで銃を扱って戦う。

↓キャラクターイメージ
ティト ガージャ

〇3話以降の設定
・主人公は数々の困難に立ち向かい、仲間を得て信頼を得る。
時には仲間との別れ、裏切りに合うこともあるがそれを乗り越え成長していく。

・長男と連れ去らた妹、主人公は死んだと思っているが生きていて、将来2人とも天使軍で重要な役職についていることが判明する。魔人として天魔大戦に加わった主人公は、長男と妹と敵対することになる。


〇伝えたいメッセージ
・世間的に悪と言われている者でも、絶対に悪い者とは限らない。彼らは、世間一般と考え方が違うだけで、自分なりの信念を持って抗っているだけなのかもしれない。

本文 第1話  【神に見捨てられた少年】

○アンドレア帝国 主人公が暮らす村

「俺達には神の御加護を受けられるから大丈夫だよ。」
そう言い残し、兄は村を去った。
あれからもう2年が経つ。神様、どうか兄に御加護を。

ティト達が暮らす帝国、アンドレアでは、唯一神『シヴェリナ』が熱心に信仰されている。そして今、天界ではシヴェリナ神率いる天使軍と、突如現れ神に背き反乱を起こした悪魔軍との戦争…『天魔大戦』が繰り広げられている。戦争は長期化し、人間界をも巻き込むようになった。
ティトの兄、ルーベルは、徴兵制度により大戦に参加することを義務付けられた。あれからさらに戦況は厳しくなったようで、便りの数は少しずつ減っていき、もう半年以上届いていない。

手紙が半年届かないと戦死したとみなされるが、兄はきっと無事だ。なぜならアンドレアの全ての国民は神の御加護を受けられるのだから。


ティトは土だらけで汚れた手をとめ、広大な畑にぽつんと立ち尽くし、物思いにふけっていた。

「何をボーっとしている!!働け!!」

遠くからでも十分に聞こえる地主のガラガラした怒鳴り声でハッと我に帰る。

「ご、ごめんなさいっ!!」

慌てて農作業を再開する。強い日差しと戦いながら地主と出来るだけ目を合わさないように黙々と作業を続ける…。ノルマが終わった頃には夕日が沈みかけていた。骨が浮き出るほどやせ細ったボロボロの体をオレンジ色の光が照らす。

「ふん、やっと終わったか。」

地主はお金が入った袋を足元に乱暴に放り投げた。地面に落ちた袋を慌てて拾う。中には…パン2個分程しか買えない、わずかな量のお金しか入っていない。一日中働き続けた報酬がこれっぽっちなんて、あまりにも割に合わない。

「これだけ…。」

ティトが漏らした小さなつぶやきを、地主は聞き逃さなかった。

「お前みたいな怪物を雇う奴が他にいると思うか?!働かせて貰ってるだけ感謝しろ!!」

地主は顔を真っ赤にして怒鳴り散らかした。ティトはうつむいて、黙りこむ。そして左目をそっと手で覆い、唇を噛み締める。目を合わせないように早口で「ありがとうございました。」と告げて地主の元を去った。声は悔しさで震えていた。

人気のない道のりを一人歩く。途中、小さな泉を見つけ、覗き込む。泉は少年の青く美しい瞳を映したが、同時に見たく無いものも映し出した。
ティトの顔は、事故が原因で左目から左頬にかけた部分が壊死し、広範囲が黒く染まっていた。左目はえぐれていて、全く見えない。人々はティトの顔を見ると驚き、怪物だと差別するようになったのだ。
ティトは左目を誰かに見られないように隠しながらとぼとぼ歩き、古ぼけた小さな家に帰った。

「ただいま」

扉が開く音に気づくと、妹のルミが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「お兄ちゃん!おかえり!!今日は大きなお魚が釣れてね、すごく高くで売れたんだ!!」

ルミは目をキラキラと輝かせてティトを見つめた。早く話を聞いてほしそうにうずうずしている。妹の瞳は、なんの差別の心もない、純粋な喜びを表している。
ルミはたったの6歳。しかし、とてもしっかりもので家計を支えるために魚を釣り、果実を集め、それを市場で売ることによってお金を稼いでいる。彼女には申し訳無いが、顔の怪我により差別されるティトは高い給料を貰える仕事につけないため、ルミの収入も生活に必要なものだった。

ルミは金色の髪に透き通るように美しく青い瞳を持つ。愛嬌があって、家族想いで、自慢の妹だ。ティトが苦しむ時はいつも元気づけてくれる、心の支えだった。
ティトは優しく笑って話を聞いた。辛い感情が浄化されていく…

今日の夕飯はカッチカチのパンと木の実。とても質素だが、食べるものがあるだけ有難かった。
手を合わせ、強く祈る。神様、今日も食事をありがとうございます。
味のしないパンと酸っぱい木の実を食べながらルミは口を開く。

「今日でルーベルお兄ちゃんが天魔大戦にいっちゃって2年だね…お兄ちゃん、大丈夫かなぁ…」

心配そうに長男、ルーベルの写真を見つめる。寂しそうな目をみて、いてもたってもいられなくなったティトはこっそりと自分の木の実をルミの皿にいれる。彼女はこの木の実が大好物なのだ。ルミは全く気づいていないようだった。

「大丈夫だよ、ルミ。僕たち人間には神様がついているから。」

ティトの家族は、先祖代々、人一倍神を熱心に信仰してきた。生まれてこの方、神の教えを破ることなく生きている。どれだけ貧しくとも貢ぎ物を捧げ、豪雨が降ろうが強風が吹こうが必ず決められた日に教会へおもむき、祈りを捧げた。
全ては神の御加護に感謝を伝えるためだ。シヴェリナ神は全ての人間に御加護を与えて下さる慈悲深いお方だ。今生きているのも、こうやって食事を頂けるのも、全て御先祖様達が厚く神を信仰してきたおかげ。神は悪魔から我らを守ってくださっている。

ずっとずっとそう信じて、疑ったことはなかった。そして厚く神を信仰し続けていれさえすれば、きっと兄は無事帰ってこれる。妹を学校に行かせてやれる。そして自分の…顔の怪我は治る。

「そうだよね…」

ルミを元気づけようとしたが、曇った表情はあまり変化しなかった。


そう思うのも無理は無い。実際、父親は大戦で、母親はルミが3歳の頃に流行病でこの世を去っている。当時、天魔大戦での戦況が悪化し、アンドレアは国民に大幅な増税を行うようになった。巨大な神殿を建設し神を祀り、天使軍の勝利を祈るためである。以前は普通の生活をおくれるくらいお金はあったが、増税により生活は困窮し、家族は食いつなぐのが精一杯となった。住み慣れた家を売り払い、遠く離れた土地で古ぼけた家に住んだ。しばらくして、母親は病に倒れた。薬を飲めば治る病気だとされていたが、あまりにも高価で手に入れることができなかった。

自分達には神がついているから大丈夫だと母は言った。そして、自分の薬代よりも神への貢ぎ物にお金を使って欲しい願った。

神殿の建設のためにたくさんお金と祈りを捧げたのだから、神様は必ず救って下さると。兄は母を看病し、ティトは神殿建設の仕事に携わり毎日毎日朝から晩まで死にものぐるいで働いた。そこで事故にあい、顔の半分が壊死して黒く染まってしまったのだが、これは母の病気の身代わりになったのだと信じた。神のために全てを捧げたのだ、主は絶対に母を救ってくださる。

しかし母はまもなく、病気が急速に悪化し亡くなってしまった。
お金さえあれば、あの増税さえなければ、神殿なんて建てなければ、母は助かったかもしれないのに…ティトは深く傷つき、そして心の中に小さな疑いが生まれた。

神は本当に全ての人間に御加護を与えて下さっているのだろうか。

しかし母は死の間際、こう言い残した。

「私が死んでも…決して神様を疑わないで…あなた達に病気がうつらなかったのは神様が守ってくれたからなのよ…。そして何よりも大切な、あなた達に、出会えたのも…。」

母は最期の時も信仰を大切し、神を決して疑わなかった。だから、ティトは自分もそうであらなければならないと思った。これは神が僕らに与えた試練なのかもしれない。
信じ続ければ、きっといつか救済の時が訪れる。
それまでどれだけ辛くとも、耐えよう。そう思った。

そう思っていたのに。




◇◇◇

その日は、薄暗い雲が立ち込める、なんとも気味が悪い空色だった。

ティトとルミは教会へ向かっていた。
今日はティトが大嫌いな…村人の集会があった。いつも半年に1回定期的に開かれるのだが、今日はなにやら重要な用事があるようで、緊急で召集がかかった。

3年前、住み慣れた村からここに引っ越してきたので、この村には親しい人がほとんどいない。なにより顔の怪我が原因で怪物だと酷い差別を受けていたため、誰もティトの家族とは仲良くしようとしなかった。
12歳のティトには会議での発言権はないし行きたくなかったが、絶対参加しなければならないルールなので仕方ない。

教会に着くと、いつもと違ってなんだかものすごく空気が重い。みんな暗い顔をして黙り込んでいる。ティトとルミは端っこのほうでひっそりと会議が終わるまでやり過ごそうと思った。

1人の村人の男がティトとルミの到着に気がつくと、張り詰めた表情がぱっと緩み、安堵の表情を浮かべてこう言った。

「生きてたんだ!!」

その声が聞こえた途端、周りにいた人々がぱっと振り向き、ティトとルミの姿を見つけるとみんなそろって安堵の表情をつくった。そして2人を歓迎した。

……?
おかしい。
いつもティトを見る度、虫けらを見るような目で病気がうつるから近寄るななどほざくのに、今日はまるで大戦で大手柄をあげて生還した兵士のように迎えられた。

「お兄ちゃん、いつのまに友達ができてたの!!」

純粋なルミはなんの疑いもなく村人達の歓迎を喜んだ。
絶対におかしい。絶対になにか企んでいる…。でも、ほんの少し、ほんの少しだけ、希望を持ってしまった。普段の行いが認められた…?兄が大戦で大きな成果をあげ、英雄になった…?有り得そうなシチュエーションを何通りか考えた。神が僕らをついに認めて下さったのか、今までずっと熱心に神を信仰してきたのだ、報われる日がきてもおかしくないのではないか。

心の中、ほんの少しの希望を持ったまま、会議は始まった。
そしてティトはすぐに村人達の歓迎の意味を理解した。


「大天使レリエル様から神のお告げを伝え得た。神は…この村から少女の生贄を必要としている。」

長老がこの言葉を言い終わる前に、ティトは全てを理解した。
そして頭が真っ白になった。

こんなに残酷なことがあるだろうか。生贄は、村人達が最も高貴で神に捧げるのにふさわしい人物が村人による投票で選ばれると規定されている。しかし、たとえそれがどれだけ名誉な事だとしても、自分や友人の娘を喜んで差し出す者なんている訳がない。

彼らは…全員、生贄という犠牲をあの悪魔の子の妹に押し付ければいいと思っている。だからあの時、「生きてたんだ」など嬉しそうにほざいたのか。

「どういうこと?」

ルミはなにも理解出来ていないようだった。そもそも、生贄の儀式なんて100年に1回あるかないかくらいのとても珍しい儀式なのだ。存在自体を知らない人だっている…ルミがその内の一人だ。そのような不運がなぜ、今、この村に訪れたのだろうか…。

このままでは、ルミは殺されてしまう…ティトは逃げられないか辺りを見回した。村人達はティトが逃げださないように警戒しているようだった。周りには屈強な兵士が4、5人…12歳のやせ細った少年が6歳の少女を連れて走って逃げるのは不可能だ…。生贄の選挙が行なわれている最中に逃げ出すのは神に背いたとして大罪に問われる。

人々は投票を始めた。みんな全く悩む様子もなくさっさと紙に名前を書いて箱に入れる。結果はもう全員が分かりきっている。彼らが何をしているのかつゆも知らないルミは不思議そうに人々をながめている。

………。ティトはなにもすることができなかった。ただ黙って拳を強く握りしめ、唇を血が出るほど強く噛み締めた。また自分はなにも出来ないのか、また、家族が奪われてしまうのか。

長老は結果を発表した。聞くまでも無いだろうが、やはり選ばれたのはルミだった。
ある村人は安心したように、自分の娘の頭を撫でている。誰もティトの心に同情する者はいないようであった。
ルミは、心配そうにティトの顔を覗き込んでいる。ティトは何も言えなかった。ただ繋いだルミの手をぎゅっと握って立ち尽くした。

その後、ティトとルミ、村人達は神殿へ向かわされた。神殿にたどり着くと、もう儀式を始める準備はとっくに出来ているようだった。もう、今すぐ儀式は行われるようだ。きっとこれは生贄になった者が逃げ出さないようにするための策なのだろう。
生贄を捧げる台には、たくさんの花や鳥の羽が飾られている。その場所はまるで神に踊りを捧げる華やかな舞台のように見える。ルミの目にはそう写っているのだろうか。

長老はルミに真っ白で、輝く装飾がたくさんついた衣装に着替えさせた。金色の整えられた髪と青い瞳が似合い、美しい以外なんの言葉にも表せない、神聖な存在がそこにあった。似合う?と問いかけニコッと笑う妹を見た。またしてもなにも言えなかった。

もう、これしかない。ティトは心の中で密かに覚悟をきめた。





長老が祈りを始める。村人達も跪き、祈りを捧げている。ルミは台の上に立ち、村人達の祈りを不思議そうに眺めている。ティトも共に祈った。しばらくすると、一人の天使が神々しい光と共に天界から現れた…。

大天使レリエル…大きな翼を除けば見た目は人間と見た目はほとんどかわらない。しかし大きさは普通の人間の2倍くらいあり、威圧感はものすごく、臆病な人間は気を失う程だといわれている。

レリエルはルミの前に降り立った。

ルミはいきなりの展開に驚き、ぽかーんと突っ立っていた。
村人達は天使をその目で見られているのにとても感動しているようだった。深々と頭を下げ、涙を流す者もいた。

レリエルは村人達の祈りに目もくれず、とっとと生贄を天界へと持ち帰ろうと、ルミに手を伸ばした。

今だ。

ティトは、光のように素早く駆け出した。
そして、レリエルの腕と、ルミの間に入り込み、ありったけ腕を広げた。

レリエルは無礼で薄汚い人間の子を睨みつけた。あまりの威圧感の強さに頭に激痛が走る。しかしティトは決して怯むことなく、レリエルの目から視線をそらさなかった。
そして、レリエルがなにか言おうと口を開こうとする前に、ティトは大声で訴えた。

『私達、アレイオス家は、先祖代々、主であるシヴェリナ様の教えを大切にし決して破ることなく生きてきました。日々祈りを怠ることなく、貢ぎ物を捧げ、父と兄は大戦にその身を捧げて戦い、母は自分の命よりも主への信仰を大切にしていました。
しかし父は戦死し、母は重税に苦しみ病に倒れ亡くなりました。そしてこの私も、神殿建設の事故により、顔半分を失い、怪物だと差別され人間として生きることができなくなりました。』

『主は、教えを守り抜く全ての人間に加護を与えるとおっしゃいました。しかし私達アレイオス家は、皆御加護を与えられず悲惨な死を遂げています。どうか、この私に慈悲を与えてくださるのなら、妹の代わりに、この私を生贄として、殺してください!!』

少年は小さくとも勇敢に立ち向かった。自分よりも遥かに大きく、遥かに格上の存在の前に立ち塞がり、妹を守るために命を捧げると誓った。村人達は2人の圧力に負け、気を失ったようにへたりと座り込んで動かない。

確かに少年は勇敢であった。しかし運命というものはそれ以上に残酷だった。
2人はしばらく睨み合うと、レリエルはゆっくりと口を開いた。

「そなたは何を勘違いしている。なぜそなたらのような下民が神の加護を受けられると思っているのか。」

……え? ティトは彼が何を言っているのか分からなかった。

「神は人間の中から優れたものを選び出し、そのものにのみ御加護をお与えになる。神の御加護というのは選ばれし者のみが享受できる特別なものなのだ。そもそも、人間が神のために戦って死ぬなんて当たり前のことだろう。祈りや貢ぎ物ごときで神の御加護を得ようなんて笑わせる。」

目の前が真っ暗になった。


そして膝から崩れ落ちた。なにも言葉を発することができなかった。ただ、目からこらえきれなかった大粒の涙がぼろぼろとこぼれた。

なんだったんだろう。 これまでの人生。

父が死んでも、母が死んでも、ただいつか神からの救済が与えられると信じて、全てを捧げてきた。しかしティトが信じていた神は決してそんな慈悲深い神ではなかった。

ああ、そりゃそうだろう。とっくにわかっていたはずだった。神は一度も僕らを助けてくれたことなんてない。奪われて、奪われて、奪われた。
何もかも間違っていた。僕は、ただ盲目的に神を信じ救いを求めるあまり、失敗から学んだり、柔軟な考えが出来なくなっていたんだ。祈るのは楽だ。全て神様に任せっきりにすれば、ただ待っているだけで良かった。いつ救いは訪れるのかと、待ち続けるのは楽だった。

レリエルはティトを頭のてっぺんから足先まで眺め回して、こう言った。

「そなたは私のような大きな存在にでも立ち向かった。その勇敢さは認めよう。だが生贄はそなたにはつとまらん。この少女の生贄が不可欠なのだ。その代わりに、力を与えてやろう。この力を使いこなし実力が認められたら『天兵』になることができる。この地位まで上り詰めることかできたら、神はそなたに眼差しをお向けになるだろう。そして、神の御加護を受け、天界に登る権利を与えられるのだ。そして、共にあの忌々しい悪魔どもと戦おうではないか。」

「冗談じゃない!!!!誰がそんな神なんかのために!!」

ティトは溢れんばかりの怒りをぶつけた。何が天兵だ。なんで僕になにも与えてくれなかった奴らに協力しなければならない!!!!

「ふん、ならせいぜいこの私に逆らった罪に追われて死ね。知っているだろうが、この国で神に背いた者はたとえ子供だとしても死刑になるからな。」

そう言い残すと、レリエルは飛んできたハエのごとくティトの体を払い飛ばした。
ティトの体は宙を浮き、2、3メートル程後ろに吹き飛ばされた。
そしてルミの体を乱暴につかんで飛んで行った。
レリエルの体はものすごい速さで遠ざかってゆき、あっという間に見えなくなってしまった。
夕焼けはティト影をはっきりとうつした。2つの影はいつも仲良く手を繋いで並んでいたが、今はたった1つの影が寂しそうに立っている。




◇◇◇

それからはおぼろげな記憶しかない。どうやらあの後狂ったように涙を流しながらひたすら走り続けていたみたいで、今、ティトは自分がどこにいるのか、あれから何日経ったのか見当もつかない。とっくに日は沈んでいて、空は漆黒に染まっている。ただ行くあてもなく知らない街をさまよった。今足を止めると、心の中にある感情が堪えきれなくなって爆発してしまいそうだ。

もうどうなってもよかった。ティトには帰る場所がなかった。家も、思い出も、わずかなお金も、全て置いてきてしまった。
なによりも信じるものを失った。なににもすがることができないのは、こんなに苦しいことなのか。

後ろに1人、さっきからずっとティトの後をつけている者がいる。そいつは姿を隠す気はないらしく、堂々と道の真ん中を歩いている。少しずつ距離が近くなっていくのがわかった。
もうなんでもよかった。殺すなり、さらうなり、好きにしてくれ。どうせ僕には生きる目的がないのだから。

そんなことを思い浮かべていた瞬間…一度のまばたきの合間、に、そいつは…背後から一瞬にしてティトの目の前に現れた。

ティトは驚かなかった。恐怖も感じなかった。生きる気力はとうに失われていたから。

「お前が例のティト・アレイオスだな。」

低く邪悪そうな声。黒くて大きな帽子に大きなマントを被っていて、顔もよく見えない。身長は2メートルは余裕で超えている。そしてそれは…ただ者じゃない雰囲気を放っていた。

ティトは下を向いて、無視した。

「お前があの天界をも揺るがした大逆罪人か。お前の噂は国中に広まっているぞ。なんせ大きなことをやってのけたものだ。あの大天使レリエルの前に立ち塞がり、儀式を中断させ、さらには奴の誘いに怒鳴り断ったなんてなぁ。あいつは他の大天使と比べても抜きん出て顔がこわいやつなのに、お前ときたらただの下がり眉のチビじゃねえか。」

謎の男はさぞ愉快そうに話している。

「治安部隊はお前の身柄を大罪人として追っている。お前、捕まったら死ねると思ってるだろ。だがな、人間はお前が思うよりもっと残酷でな、まあ、死より重い罰ってものがあってだな、たとえばな…」

男は物騒な単語をバラバラと並べている。どうやらティトの境遇を嘲笑いにきたらしい。捕まえるなら早く捕まえればいいものを。

「お前になにがわかる。悪魔め。」

「おお、この私をも見破ったか…!お前は私が思っていたよりもはるかに優れた存在なのだな。まあ、正確に言うと『魔人』なのだが。」

……?? 見破った? ティトはこの鬼畜な男を悪魔と例えて言っただけなのだが…。

男はついに帽子を外した。高い鼻に茶色の長い髪、そして…尖った大きな耳に赤黒く十字架の線が入った瞳孔…そしてなによりも、頭には4本の大きな角が生えている。非常に整った顔立ちをしているが、人間では無いということはひと目でわかった。

「私の名は、アルバ・フォルネウス。私が所属する裏組織『アポスタシア』は人間が悪魔と契約して成る存在、『魔人』で構成された秘密組織だ。私達の目的は、この腐った帝国を内側からひっくり返し、この何十年も続く天魔大戦を悪魔軍の勝利で終結させることだ。」


「もうわかっていると思うが、お前には素質がある。ここで私はお前と契約を結びたい。居場所、仲間、力…お前が望む物全てをやろう。その代わり、お前は人間としての自分を捨て『魔人』となり、『アポスタシア』で私達と共に悪魔の勝利に貢献してくれ。組織には、お前のような勇敢な存在が必要なのだ。」

ティトは握り拳をぎゅっと握って言った。
「悪魔は人間を娯楽で殺すような悪いやつらだ。お前はどうせ僕を裏切るに決まってる。」

「まだそんなことを申すのか、教えてやろう…。悪魔はなによりも契約を重視する。どのような身分の人間であろうとも、契約を結び、それに見合う代償を差し出せば、悪魔は必ずその願いを叶える。そして彼らは1度結んだ契約は絶対に破らない。
それに比べて神はどうだ?表向きは全ての人間を救うと言うが、実際は価値のある人間にしか見向きもせず、小さい子供の小さな願いにすら眼差しを向けようとしないのだ。」

アルバはそのまま続ける。

「そもそも、悪魔という呼び名は神の視点からの『悪』であるだけで、決して悪い者ばかりではない。奴らは自分なりの信念をもち、神の考えに異論を唱えた元天使達なのだ。お前も、そういう面では、彼らに似た部分があるのではないか。元天使達が、絶対的な神という存在に異論を唱えたように、お前も信念をもって大天使という絶対的な存在に異論を唱えたのだ。
お前が知っているであろう悪魔の悪行の数々は、この国の偉いやつが、お前たちの思想を統制するために作ったたわごとに過ぎないのだ。」

アルバは真剣な眼差しでティトを見た。その眼には、軽蔑や嘲笑といったいつもティトが人々から受ける感情は、微塵も感じなかった。

「お前は神や天使に見捨てられた。だから次は、悪魔を、私達魔人を、お前自信の力を、信じてみてはくれないだろうか。」

嗚呼、運命というのはこんなにも予測できないものなのか。神を信仰し全てを捧げてきたティトに、今度は正反対の立場の悪魔を信じろというのか。

でも…なんだか嬉しかった。自分と同じように神に抗った者が存在したなんて。怪物のように汚れたものとして扱われ、信仰を踏みにじられたティトは今、悪魔に必要とされ、信じて欲しいと頼まれている。

まあ、なんにも残ってないし、これ以上失うものもないし、いいか。

ティトはアルバの手を握った。アルバの半分もみたない小さな手だった。
なんだか、少し満たされたような気分になった。

「それでは、契約成立ということで。」

アルバは…ニヤリと笑う。尖った歯がむき出しになった。
これから、僕はどんな人生を歩むのだろうか。

「アルバ、それで、僕はいつ魔人になるの?」

「ああ、すぐだ。今すぐ、だな」

アルバは自分の手のひらを眺め、目を細めた。彼の指の爪は剣みたいに長く鋭い。もう片方の手で僕の肩をがしっと抑えた。
それから……





気づくと、アルバの腕はティトの胸部分を貫通していた。
地面には大きな血溜まりができている。




…騙された。



第2話

https://note.com/preview/n028e6cd4e22f?prev_access_key=044f79c5f1990f4422e0e03dbc7ad4f3


第3話

https://note.com/preview/n053e4f3fee08?prev_access_key=df2802f339abcd3afcf4fa4314be5c55


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