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きらきら星のまんまるオムレツ【🐈‍⬛×ひかりがひかる🐈】小説


《ひかりがひかる》
×
《黒猫亭の雨曜日》

(読んでくれる人いるかな..って
長くてなんか出す勇気がしぼみました
エッセイ添えようとして書いたら
余計長くなって消しました 
もういい加減賞味期限が
切れそうなので出します)


このストーリーは、コラボ小説です
今回は交互にストーリーを書きました

ジンジャー🐈がUさん
黒猫亭🐈‍⬛が私

うっかり長くなりました…
お時間あるときにどうぞ🐾



from 『ひかりがひかる』✍️U
ジンジャー…元ニンゲンの転生猫


おれは知った。
猫も悩むことを知った。
目下の悩みは、あの眼鏡の男のことだ。
やつのことは『アンケン男』と呼んでいる。
にゃんだあいつは。
気に入らない。
簡単に気に入ったらいけない気がしている。
猫も楽じゃないにゃ。

そんなことを考えていたら狭い額に雨粒がぽつりと降ってきた。

雨粒のおかげでおれは正気に戻る。
あたりを見回す。

(あれ、ここ、どこだ?)

GHをこっそり抜け出して散歩に来たのはいいが、悩んでいるうちに見知らぬ場所に迷い込んでしまったらしい。しまった。困った。おれはおもわず天を仰ぐ。

(にゃんて日だ!)

天を仰いだ視線の先に黒猫の看板がある。
びびびと第六感が働く。
看板の真下にある扉の前まで行き、開くのをじっと待つ。


from 『黒猫亭の雨曜日』✍️rira



雨の匂いがする。
扉の外に、なにかがやってきた気配がした。
扉を開けるのをじっと待ったが、なかなか入ってくる様子はない。

凪はそっと扉を引いた。
が、そこにはだれもいない。

おかしいな…

扉を閉めようとすると、ふと足元に猫がいることに気づく。茶トラの猫が雨に濡れそぼってこちらを見上げていた。

「これは、失礼しました。お客さま、さぁどうぞ、おはいりください」

凪は小さな客に丁寧にお辞儀をして、店内に促した。


扉が静かに開く。

古びた大きな扉の隙間から店員と思しき女性が顔を出す。磨きあげた黒曜石のような瞳と髪をしている。見上げていると、おれの存在に気づいた黒曜石の女性が口を開く。

「お客さま、さぁどうぞ、おはいりください」

黒曜石の女性は入店を促している。どうやら、おれのことを客だとおもっているみたいだ。ここって猫専用の店?

(んにゃ、わけ、にゃいか)

と訝しみながらも、びびびと第六感が働く。
おれは雨に濡れた体をひと振りして、まとわり付いた雨粒を飛ばしてから店内へと足を踏み入れる。マナーだ。

ここは彼女の好意に甘んじようではにゃいか。



凪はとことこと店内に入ってくる小さなお客に目を細めながら、窓際の席に案内する。

「当店は、人も猫も、あるいはそれ以外でも、すべての方がお客さまです。ただし、必要な方にだけ。どうぞそのままで、ごゆるりとお寛ぎくださいませ。ご注文が決まりましたら、お呼びください」

一礼してテーブルを去ろうとして、ふと凪は振り向いた。そうだ、この方は、気配は人間のようなのだが、どうやら人に変化はできないらしい。私はそのぷにぷにした肉球をじっと見つめ、

「よろしければメニュー表、開いておきますね」

と言った。


「…人も猫も、あるいはそれ以外でも」

彼女は確かにそう告げた。
黒曜石の瞳が電球の光を帯びて、その奥を透かす。瞳孔が三日月形に窄まる。

(お月さまだ)

おれは滑かに首を傾げる。
と言っても猫だからほとんどないのだけれど。反射的に右足で顔を洗う。おれってば、だいぶ猫に馴染んできてる。目の前に置かれたメニュー表を眺める。

(にゃんだこれは…)

知らないものばかりだ。ご注文が決まったら呼べと言ったが、これでは決められない。てか、そもそも、ここ、どういうシステムだ?人間の世界はややこしい。テンセー猫あるあるだ。おもわずため息を吐く。

にゃ〜。


「ねぇ凪、あそこの猫さん、注文きた?」

キッチンから小さな少女、陽菜がひょっこり顔を出す。クリっとした目、ふわふわの灰色の髪は肩まで伸び、和服にたすき掛けをして黒猫亭のエプロンを付けている。服装はそれぞれの好きなスタイルで、がこの店のモットーだ。 

「いや、お客さまはまだ迷っておられるようだよ」

「なんか、こまってるみたいだよ?あたし、ちょっといってくるっ」

「あっ、陽菜!」

陽菜は窓際のテーブルに駆けていく。

メニューとにらめっこをしている猫を見つける。にゃんこが悩んでる…ぐりぐり撫で回したい…衝動をぐっと抑えて、テーブルにひょこっと顔を出した。そして首を傾げる。

「猫さん、こんにちは!あなたは…猫さん?なにか、おこまりでしょうか?」



目の前に、ぽこ、と顔が現れる。
灰色のふわふわな髪におおきな猫目。一瞬、洋猫かとおもったら違った。人間の顔だった。それにしても、見たことのない髪の色をしてる。外人さんみたい。けど、この店のエプロンをしてる。じゃあ、お店の人か。ぽこ、と現れた彼女が言う。

「猫さん、こんにちは!あなたは…猫さん?なにか、おこまりでしょうか?」

(おれは…猫か。でも、普通の猫…じゃないよなぁ)
(これって説明してわかること?…じゃないよなぁ)
(あー、こんなときゆきこさんが居てくれたらなぁ)

悩んでいても仕方がない。だから、おれは、言う。
というか、鳴く。おおきな猫目に向けて、ダメもとで。

ふにゃ〜。
(はらへった〜)



「猫さん、おなかすいてるの?」

陽菜はそのガラス玉のようなくりんとした目をじっと見つめた。

だって、陽菜も猫なのだ。
猫語くらいわかる。

でも、陽菜たちは人間に変化するから何でも食べられるけど、普通の猫がなにを食べるのか、陽菜はよく知らない。キャットフード?にぼし?陽菜の大好きなホットケーキは、食べられるのかなぁ。

そこで陽菜はハッと気づく。

猫の手でどうやって、
ナイフとフォークを持つのかな?

手を丸めて?いっそ爪にはさんじゃう?陽菜はにゃんこがナイフとフォークと格闘してるところを想像して、クスクスと笑った。視線を感じる。

「なにが食べたい?陽菜が持ってきてあげるっ」

 

「猫さん、おなかすいてるの?」

もしかして、もしかしてだけど、この人にも通じてる?ゆきこさんみたいに?おれの知らない間に猫専用の翻訳機ができたのかもしれない。そうかもしれない。でも、違うかもしれない。けど、そうなのかもしれない。

頭のなかで同じ場所をぐるぐる回っていたら、猫目の彼女は、クスクスと笑い出した。

「なにが食べたい?陽菜が持ってきてあげるっ」

猫目の彼女は陽菜さんというらしい。
ここは陽菜さんの言葉に甘えてみようか。にゃんだかそれはとてつもなく良い考えな気がしてきた。猫的直感、びびび再び。

おれは叫ぶ。というか鳴く。

にゃにゃにゃにゃ!
(オムレツ!)



「オムレツ、かしこまりしましたっ」

陽菜はパッと顔を輝かせる。
猫さんも、陽菜たちとおんなじの食べれるんだ!

「ご注文、うけた、ま、わりました、しょうしょうおまちくだ」

凪の真似をしてたどたどしくなんとか言い終えようとお辞儀をしたその時、陽菜はテーブルの端に頭をぶつけた。ガン、と大きな音がして、その拍子に陽菜の頭に、猫耳がぴょこんと飛び出る。

「いたた….あっ、みみ…!」

陽菜はあわてて両手で隠そうとして、はたとにゃんこと目が合う。数秒の沈黙。陽菜はえへへと笑った。

「猫さんと、おそろいだね!そうそう、陽菜たちも、猫なの。だから、猫さんがお話してることも、ちゃんとわかるんだよ」


陽菜は猫耳をピクピクと動かして、ふわふわとした灰色のしっぽも出してみせた。

「そぉだ、あと、お飲みものは何にしますか?」


(通じてるにゃにゃいか!)

無性にうれしい。だって、ゆきこさん以外で初めて通じる人がいたから。うれしくて、かぎしっぽのふるふるが止まらない。

ふるふるふる
ふるふるふる

陽菜さんは、おれの注文を聞くとまるで呪文のような言葉を唱えた。かとおもうと、頭をテーブルに盛大にぶつけた。

大きな音が店内に響きわたる。

次の瞬間、おれは目を疑った。
だって、陽菜さんのあたまに猫の耳が現れたから。おれが見ていることに気づいた彼女は、さらに驚くことにしっぽも出してみせた。耳も、しっぽも、動いている。

(え、え、なに、なに、テンセー猫って流行ってんの?聞いてないんですがー!)

おれの驚きと混乱をよそに、猫の…猫耳の陽菜さんは、何を飲むかと訊いてくる。おれはその勢いに飲まれておもわずぽろりとこぼす。

うにゃっ
(お水)



「ふふっ、お水ですね。かしこまりましたっ」

陽菜はにゃんこのかぎしっぽが左右に大きく振られているのを見て、思わず笑みをこぼした。

「ではでは、少々お待ちください!」

陽菜はぺこりを頭を下げる。今度はぶつけないように、テーブルからちゃんと離れたところから。

陽菜はキッチンに戻ると、凪に注文を告げる。

「凪!猫さん、オムレツ食べたいって。あとね、お水飲むって!」
「ありがとう、陽菜。はい、陽菜もちゃんとお水飲んで」

凪は、興奮してる様子の陽菜に水を入れたグラスを差し出す。

「あの猫さんは、人間にならないのかなぁ…」
「うん、化猫族ではないみたいだね。でも、完全な猫かというと、微妙なところだな」
「ふーん…あっ、そだ。猫さんにアレ試してみよーよ」
「アレ?」
「ほら、凪が前に作ってたやつ。この店の中なら人間語を話せるっていう」
「まあ、陽菜が必要だと思うなら、出してごらん」
「ありがとっ!」

陽菜は、再び猫の座る窓際に走っていく。
いや、今度はそろりそろりと。

「おまたせしましたっ」

というと、テーブルに水を入れたお皿を置く。
その隣には、小皿になないろの金平糖が置かれていた。

「あのね、これ食べると、人間の言葉が話せるよ。このお店の中だけだけど…。ねね、食べてみて」

陽菜は、透けるように煌めく猫の瞳をじっと見つめた。



陽菜さんという人は、走ったり、歩いたり、しゃがんだり、まわったり、わちゃわちゃと忙しない。ホームにはいないタイプだ。お水と一緒に出された小皿にはいろんな色の金平糖が置かれていた。

「あのね、これ食べると、人間の言葉が話せるよ」

(にゃんだと?!)
(人間の言葉がはにゃせる…だと?!)

それが本当なら、今一番欲しい秘密道具だ。おれは、星空のように煌めく陽菜さんの瞳をじーーーっと見つめる。陽菜さんは瞬きもせず見つめ返してくる。ま、いっか、ここは騙されたと思って食べてみよう。

小皿の上の黄色の金平糖を舌先で転がしてから、口に頬張る。

がりがりがり、
がりがりがり、

ごくん。

「ねえ、おれの言ってることわかる?」



「すごいすごい!ほんとにしゃべってる!すごい!」

先ほどまでにゃーにゃー聞こえていたにゃんこの声が、とたんに人間の声になった。少し高めの、子供みたいな声。どうやら男の子だったみたい。

陽菜はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。仕舞っていたはずの尻尾が飛び出て、左右に大きく揺れている。

「猫さんから人間の声が聞こえるって、なんだかふしぎだね」

陽菜はうれしそうに笑う。

「ね、猫さんのお名前、聞いてもいい?」


まじかー。
これ、まじのやつかー。

どういう仕組み?
こんなのってあり?

ま、いっか。

おれ、あまり深く考えないタイプの人。
だって、考えた時点で不自然じゃん。

陽菜さんはうれしそうに言う。
「ね、猫さんのお名前、聞いてもいい?」

猫さんの名前か。
「ジンジャーって呼ばれてる」

まじかー。
ちゃんと、しゃべってるー。すげー。



「ジンジャーくんかぁ、かわいいお名前だね!」

なないろ金平糖の効果なのか、なんとなく表情まで見えるよう。今は目を見開いて、驚いてる。そんな気がする。陽菜はテーブルにひじをついて、にゃんこのそんな様子を面白そうにニマニマと眺めていた。

「ね、せっかくだから、オムレツができるまで、もっとなにかしゃべってみて?ジンジャーくんのなか、何か詰まってる気がするよ。どこからきたとか、悩んでることとか、いいたいことととか、なんでもいいよっ」


もっとしゃべってみてと陽菜さんは言う。

あー、じゃ、やっぱ聞こえてんだ。
おれ、いま、ニンゲンの言葉(というのはなんだかおかしな話なんだけど)しゃべってんだ。

楽しそうにする陽菜さんにニンゲンの言葉を放つ。

「ねえ、これって、どういう仕組み?
 なんで、おれ、しゃべれてんの?
 てかさ、お姉さん、だれ?
 なんで猫のみみとしっぽがあるの?」
 


陽菜は目をぱちくりさせた。
ジンジャーは言葉が話せることにすっかり興奮しているようだった。嬉しくて仕方ない様子に、陽菜は満足そうに頷く。

「そうだよね、ジンジャーくんには、何が何だかさっぱりだよね」

といって、陽菜は少し首を傾げる。

「うんとね、陽菜たちは、化猫族なんだよ。猫だけど、人間にもなれるの。ジンジャーくんは、ちがうのかな?

なんで話せるのかはね、この金平糖作ったのは凪なんだけど、陽菜たちには生まれつきそういう力を持ってる猫がいるの。それで、その力を困ってる誰かのためにほんの少しだけ使って、その人の流れをちょっとだけ綺麗にしてあげるの。それでね、ジンジャーくんには、その金平糖だったの。陽菜、あんまり説明うまくないんだけど、わかるかなぁ?」



少しだけ首を傾げた陽菜さんから出る言葉は、まるで外国の言葉のようだった。

バケネコゾク
ニンゲンニモナレル
ヒトノナガレヲキレイニ

頭のなかで三回ずつ繰り返してみた。
だめだ、さっぱりわからない。こまった。
ほら、おれって、勉強はちょっと、あれだからさ。

「ごめん、よくわからないや。
 けど、こんぺいとうを食べたら
 喋れるようになったんだよね?
 じゃさ、
 これから、ずっと、ニンゲンの言葉を
 しゃべっていられる?」

そしたら、ゆきこさんがいなくても、直接、ひかりと喋ることができる!なんなら、眼鏡のあいつとだって喋ることができる!

おれは期待に胸をぷくくと膨らませる。



「そっかぁ、せっかくしゃべれたんだもん、もっともっとたくさんおしゃべりしたいよね…」

化猫族の、ちょっとだけのおまじない。なぜなら、それ以上の力を使えば、命を削ることになってしまうから。陽菜はチラッとキッチンのほうを振り向いた。

「陽菜たちのちから、いっぱいは使えないんだ。金平糖のききめは、このお店の中だけなの。ごめんね」


ジンジャーの期待あふれる目に、陽菜はしゅんとうつむく。耳がしょんぼりと下を向いていた。



_金平糖のききめは、このお店の中だけ。

チャラリー、鼻から牛乳〜。
ともやがいたら、小粋なステップが始まるところだ。

そっか、ここにいるときだけか。

膨らみかけた胸は、しゅるしゅるしゅると萎んでいく。
萎んでいくのはおれの胸だけじゃなく、陽菜さんもだった。
あ、そっか、おれががっかりしてるからか。

「あ、大丈夫!
 おれ、ニンゲンの言葉、喋れなくても
 わかってくれる人いるから!」



「そっか、よかった。きっとその人は特別な人なのかもしれないね。ジンジャーくんも、人間の言葉がわかる、特別な猫さんだもんね」

陽菜はほっと胸を撫で下ろす。

猫の言葉がわかる人がいる…

ということは、
その人も陽菜たちとおなじなのだろうか…

いや、と陽菜は首を横に振る。
猫だって人間の言葉がわかったりするのだ。猫の言葉がわかる人間がいたって、ちっとも不思議じゃない。

それに。

特別や不思議が溢れてることは、なにもおかしいことじゃない。みんな見ようとしないから気付かないだけなんだ、と以前凪が言っていた。その時は、よく意味がわからなかったけど…

ふと気づいて、陽菜は立ち上がる。

「あっ、そうだ!ジンジャーくんのオムレツ、もうできたかな?見てくるね!」

陽菜はくるりと背を向けると、パタパタと走りキッチンへ戻っていった。



特別な猫。
そっか、やっぱ、おれって特別なんだ。中身は変わんないんだけどな。ミタメって、大きいんだな。

なんでだろう。
なんでみんなミタメをあんなに気にするんだろう。クラスの女子なんて、髪の毛ひとつでキャーキャー騒いでたもんな。

おれはおれだけど、ミタメは猫だ。
それって、やっぱり違うのかな。違うか。違うだろ。違うな。違う。でも、中身はおれだ。それは違わない。

陽菜さんはバケネコだって言ってた。
バケネコってことは、猫が人間にばけてるってことなのかな。それって、どんなだろう。おれと違うのか。違うんだよな。けど、

なにが違うんだろう?

陽菜さんたちも、やっぱり、笑ったり、怒ったり、泣いたりするよな。おれもそう。人間だったときもそうだし、いまもそう。テンセー猫やバケネコじゃない猫も同じなんじゃないかな。知らんけど。そんな気がするんだ。

「オムレツ、もうできたかな?見てくるね!」

しばらく考え込んでいた陽菜さんは、思い出したかのように言葉を残して、その場を立ち去っていった。

バケネコが、オムレツを。
想像したら急におかしくなって、おもわず吹き出した。



「お待たせいたしました」

凪がテーブルに行くと、小さな猫が一人でくっくっと笑っていた。肉球を口に添える仕草がまさしく人間のそれと同じで、凪はクスッと笑う。

「こちらは、《きらきら星のまんまるオムレツ》です。お味は昔ながらのシンプルなオムレツですが、中にお星さまが入っているので、ぜひ見つけてくださいね。猫も人も化猫も、同じこころを持った者同士。満ちても欠けても、そこに変わらずあるもの。そんなイメージで作りました」

といって凪はナプキンを添えると、その上に銀色に光ったスプーンを置く。

「そうそう、この顔は陽菜が描いたんですよ。あっ、お客様、気づかずに申し訳ありません。その肉球、いや手で、スプーンはお持ちになれるのでしょうか…?」


「きらきら星のまんまるオムレツです。
 中にお星さまが入っているので、ぜひ見つけてくださいね。」

きらきら星だって!
オムレツを持って来た女の人が言った。
さっきの陽菜さんて人よりも落ち着いている。
オトナだ。
じゃあ、この人もバケネコなんだ。

「顔は陽菜が描いたんですよ。」

 
顔?
オトナのバケネコのオムレツの人が言った。
たしかにオムレツに顔らしきものが描いてある。

(…な、なんだ…こ、これ…)

おれは学校の怪談を聞いたときのようにビクッとなる。
くま?にしてはヒゲがながい。
いぬ?にしては顔がまあるい。
うさぎ?にしては耳がみじかい。

(はっ、ま、まま、まさか…)

間違えたら、たぶん、失礼な気がする。
でもこうゆうのは確かめないといけない。だって、
聞くははずいなう、聞かないは超はずいなう。
ということわざがある。気がする。
おれは、上目づかいでおそるおそる訊いてみる。

「これって、ね、ねこ?」


「もうっ、ジンジャーくんてば!」

陽菜は頬をぷっくり膨らませて、むくっと立ち上がった。ジンジャーがどんな反応をするか、テーブルの下にこっそり潜んでいたのだ。

「これはジンジャーくんのお顔だよ?だってほら、お顔はまあるいし」

陽菜はジンジャーのすぐそばに移動すると、まじまじとその顔を観察し始めた。


「ピンと伸びたおひげでしょ?」
と言って、ジンジャーのヒゲをつんとつつく。


「三角山のおにぎりさんなお耳に」
と、今度はぴくぴく動いている猫耳を撫でる。

「それにそれに、クリッとしたまんまるおめめ!ほら、そっくり!」
といいながら、ジンジャーの目をじっと覗き込む。

まんまるなフォルム…
ふかふかと滑らかな茶色と白の毛並み…
もふもふしたい…

陽菜はふるふるとかぶりを振る。
でもでも、お客様だから我慢しなきゃ…



似てにゃい、とおもった。
もしかしてだけど、
もしかしてだけど、
うんにゃ、もしかしなくてもだけど、
陽菜さんはお絵描きが下……上手じゃないんだとおもった。

だけど、ここはテンセー猫の名において命ずる、おれ、ごまかせ!

「そういわれると!
 なんか、すげー、見えてきた!
 これ、もう、まんま猫!
 いや、むしろ、猫まんま!
 オムレツなだけに!
 あは、あは、あははー」

陽菜さんは大きな目でおれを見ている。
これ、たぶん、あれだ、おれが嘘ついてるかどうか調べるやつだ、あ、ウソハッケンキだ。やばいよ、やばいよ、バレたら、あれだ、バケネコ界のルールで、呪いとか、暗黒魔法とか、禁断の術とか、そういうのかけられるパターンだ。テンセー猫のおれ、二度目のピンチ!
どーする、おれ、どーするぅ?!

とりあえず、目を逸らそう、うん。



陽菜は目を凝らして、ジンジャーをじっと見ている。

むむむ…
なんだか、ウソくさい。

にゃんこだけど、にゃんこじゃないというか。
人間じゃないけど、すごく人間ぽいというか。
お兄ちゃんがとりあえずその場をしのごうとごまかす笑い方にそっくりだった。

陽菜、見かけは子供だけど、中身はオトナだもんねっ。ちゃんとわかるもん。

「ジンジャーくん….?あっ、目そらしたっ!」

凪がくすくすと笑っている。

「陽菜、その辺にしてあげないか?猫くんもお腹が空いてるだろう。そんなにじっと見られたら食べにくいぞ」

「だって、凪ぃ…」

陽菜は頬をぷうっと膨らませて不満そうにしている。

「申し訳ありません、お客様。こちら引っ込めますので、ごゆっくりお召し上がりください」

凪はそう言うと、陽菜をひょいっと抱き上げてキッチンへ戻っていった。



目を逸らしたけれど、陽菜さんは目を逸らさない。それどころか見事なふくれっ面をしている。ピンチ継続&黒魔法確定な気がする。そんな気がしている。おれ、このまま、ホームに帰ることなく、ここで、テンセー猫からバケネコに変えられてしまうんだ、きっとそうだ、そうに違いない!

うう…
さようなら、ひかり…
さようなら、ホームのみんな…
短い間だったけど、世話になったよう…
おれ、みんなのこと、忘れないよう…
ありがとう、
ありがとう、みんな…
元気で暮らせよな…

猫生を諦めかけたその時、

「申し訳ありません、お客様。こちら引っ込めますので、ごゆっくりお召し上がりください」

女神の声が聞こえた。
女神は陽菜さんを、猫でもつまみ上げるように軽々と抱き上げて、キッチンの方へ戻っていった。

おおー!
おもわずおれは猫の手でガッツポーズをする。なにこの奇跡の逆転満塁ホームラン的な展開は!
これで心置きなくふわふわのオムレツを食べられる。

やったー!

おれは行儀良く「いただきます」を言うと、かぎしっぽでスプーンを持ち、オムレツをひと匙すくう。猫舌センサーで熱くないのを確かめてから、口へほうる。

おおおおおおーっ!
ふぁっふぁっじゃないかーっ!!

オムレツは、口に入れるとすぐに溶けてなくなった。こんなの初めてだ。おれの記憶にあるオムレツは、もっと硬くて、ゴムみたいな食感だった。それが、なんと言うことでしょう!黒猫のシェフさんの手にかかると、白魔法をかけられたみたいに、やさしくておいしいふぁっふぁっオムレツに変身するじゃありませんか!これは、まさに、ふぁっふぁっの宝石箱にゃ〜。

おれは夢中でオムレツを食べる。無心でふぁっふぁっを貪っていたら、とろけた黄色いソースできらりとひかる星をみつけた。

あ、きらきら星、みっけ!
これ、ひかりにも食べさせたいなぁ。

そんなことをおもっていたら、いつの間にか、おれはふぁっふぁっオムレツをぺろりと平らげていた。猫だけに。げふー。



はふはふさせながら夢中で食べているにゃんこ。
その背後からそろりと近づく、小さな影がひとつ。

「ジンジャーくん、ごめんね。凪に叱られちゃった。お客さまに心地良く過ごしてもらうこと、それが大事なんだ、って」

食べ終わったのを見計らい、陽菜は声をかけた。
でもジンジャーくん…
陽菜は思わずくすくす笑う。

人間の言葉を話せるのが嬉しいのか、思ってること全部口に出してるんだもの。ふぁっふぁの宝石箱にゃ〜、だって!ふふ。だってあのオムレツは、凪の魔法がかかってるもん、おいしいに決まってる。

それにしてもホントに人間みたい。実は、陽菜たちとおなじ化け猫だったりして。あ、なんだか目がキラキラしてる!お星さま食べたからかな?

「それでね、これ、おわびというか、陽菜が作った猫さんのお菓子なんだけど、ちょっとだけ元気になるおまじないが入ってるんだ。よかったら食べてみて?」

といって、猫の形をしたお菓子を乗せたプレートを、ジンジャーの前にそっと置いた。



目の前のプレートの上には、猫の形をしたお菓子が置いてある。

こ、これは…
ど、どこからどうみても…
ね、猫!!

なぜかホッとする、おれ。
ギリ、猫生、ゾッコー。

_ちょっとだけ元気になるおまじない
 と陽菜さんは言った。

元気になるおまじない?
ちょっとだけ??

元気って、元気なんじゃないのかな?
ちょっとだけ元気って、元気なのかな??

おれって、ほら、運動は得意なんだけど、ベンキョーとかアタマの方は、アレだからさ、なぜか聞いことをすぐに理解できないんだよね。モッチー先生にもよく注意されたもんな。何度も言わせんなーって。でも、何度も言ってくれるのがモッチー先生なんだよなぁ。あ、ほらねこんな感じで、脱線ばっかりなんだ。で、なんだっけ?

自分のあたまのなかで迷子になりかけたおれを連れ戻してくれたのは、テーブルに置かれた猫の形のお菓子だった。

そうそう、
ちょっとだけ元気になるおまじないのお菓子だ!

おれの場合、考えても迷子になるだけだから、食べてみた方がはやい。

てなわけで、猫のお菓子に顔を近づけて、鼻先センサーで危険物ではないことを確かめてから、ほおばる。

ガリガリガリガリ
ガリガリガリガリ

ガリガリガリガリ
ガリガリ
ガリ

ごっくん。



ジンジャーくんには、言葉をわかってくれる人がいるらしい。それに、オムレツを知っている。スプーンの使い方も心得てる。だから野良猫ではなく、飼い猫だということ。きっと帰ればあたたかく迎えて暮れる家があるのだろう。陽菜にとって、この黒猫亭のように。

陽菜の家族は、ちゃんとお父さんとお母さんと、お姉ちゃん、お兄ちゃんがいた。だけど化猫族の能力をほとんど持たない陽菜は、彼らにとって家族でも何でもない、ただのコマに過ぎなかった。

学校にもろくに行かせてもらえず、有力な巫女として名高い姉のお世話をずっとさせられていた。唯一お兄ちゃんだけが可愛がってくれたっけ。でも、お姉ちゃんの恋人が呪いを受けて、それをなんとかしようとしたお姉ちゃんが代償を陽菜に…..

ううん、今はそんなこと考えちゃダメだ。
陽菜はふるふると首を横に振る。

過去はもうどうでもよくて、
いやどうでも良くなんてないけど、
とにかく陽菜の居場所は今ここにある。

今度こそぜったい、誰にも奪われないように、
大切にするんだ…

ガリガリとお菓子を食べているにゃんこを見ながら、ふと思いついたことがあった。この店に来るには、なにかそれなりの理由があるはずなのだ。でも、それは陽菜たちが口に出すことじゃない。だから、こう聞いてみることにした。

「ジンジャーくんにとって、大切なものってなぁに?」



「ジンジャーくんにとって、大切なものってなぁに?」

ひとりで首をふるふる降っていたかとおもっていた陽菜さんが、さっきとは打って変わって真剣な顔で聞いてきた。おれの大切なものを。おれの大切なもの、そんなの決まってる。

「決まってる。
 ひかりだよ。
 ひかりが大切。
 世界で一番大切。
 もう、これ、絶対。
 絶対の、絶対!
 てか、
 絶対の絶対の絶対!!」

陽菜さんの目を見て、迷うことなく答える。
おれの答えを受けて、陽菜さんの耳はぴくりと動く。

「じゃあさ、
 陽菜さんの大切なものって、なに?」

おれは陽菜さんの目を見て、まっすぐに聞く。
おれの視線を受けて、陽菜さんの耳がも一度ぴくりと動く。



大切なもの…

ジンジャーくんにとって、それはひかりさんという人。決して揺るがないその意思に、圧倒的なパワーを感じた。

正直、聞き返されるとは思っていなかった。
ここに来た人はみんな、話を聞いて欲しい人だから。それが陽菜の役割であり、存在価値でもある。

大切なものはすぐ奪われる。
だから、作ろうとしなかった。
それに、いい子じゃなかったら大切にしてもらえないって知ってるから。
みんなが好きなのは、いい子の陽菜でしょ?

涙が落ちそうになって、奥から猫のお菓子を持ってきて、ひと口かじる。ほんのり体があったかくなる。大丈夫、今の「あたし」ならちゃんとわかるはず。

「あたしの大切なものは、凪といるこの場所。凪は、あたしがいい子じゃなくても、ここにいていいって頭を撫でてくれる。あたしに役割を与えてくれる。だから、この場所をずっと守るの。凪にとってもこの場所しかないから」

陽菜はそこまでいうと、大きく深呼吸をした。

思ってることをちゃんと口にするのは、すごく勇気がいる。だから、おまじないの力を少し借りた。こうすると陽菜はもとの年齢に戻れる。ほんの少しの時間だけ。

「大切なものがちゃんとわかってるジンジャーくんだから、きっと大丈夫だよ。気づいてた?なんのおまじないも魔法もなくたって、とっくにジンジャーくんの体の中には、きらきらのお星さまが入ってるってこと」

陽菜はジンジャーの瞳を覗き込む。
あ、タイムリミット。
瞳の中で、また6歳のあたしに戻っていくのが見えた。



正直、陽菜さんの言葉は難しかった。
だって、おれ、猫だし、猫になる前は小学二年生だったし、何度も言うけど、ほら、おれって勉強、苦手だったから。けど、

陽菜さんが真剣に話しているのは、わかった。大抵のおとなは、おとなってだけで、こどもには向き合わない。向き合おうとしない。それは、どこかで、おとなが上で、こどもが下っておもってるから。でも、おれは、おもう。

なんで?

なんで、おとなが上でこどもが下なんだ?
背が高いから?
勉強ができるから?
お金を稼ぐから?
ホーリツで決められているから?

おれは、そのどれも違うと感じる。だって、考えても答えがでないことって、たくさんあるから。それをおとなは忘れちゃうんだ。おとなになるってことが、それを忘れちゃうことなら、おれはおとなにならなくて良かったっておもう。そりゃ、もっと、ひかりのそばに居たかったけど、そばでひかりのことを、ずっと、守っていたかったけど、、、でも、こうやってテンセー猫になって守ることができてるんだから。

ひかりのこと大切なのは変わらない。

陽菜さんにとって、凪さんといるといるこの場所、がそれにあたるんだな。すごい伝わる。だって、おれに届いたもんね、この辺に。おれは、ふかふかの毛で覆われた胸のあたりをみる、みる、あれ、み、み、みれない、、、

オー・マイ・キャット!

届いた胸のあたりはみれなかったけど、ちゃんと伝わってる。おれは陽菜さんに、言う。

「じゃあ、おれたち、一緒だね!
 大切なものがある仲間だ。

 仲間っていいよね、
 うれしいことが倍になるし、
 つらいことが半分になる、
 そんな感じしない?

 おれはするよ。

 だから、これからさ、
 もし、めげそうなことがあったら、
 陽菜さんのことをおもいだすよ。
 陽菜さんも大切なものを守ってること
 
 そしたら、おれ、
 がんばれる気がする。

 きょうは、ここに来れてよかった。
 ふぁっふぁっのオムレツ食べれたし、
 仲間に会えたし、
 それに、ねこの絵もみれたしね。
 
 だから、
 ありがとうと、ごちそうさまだよ!」

 おれ、そろそろ、帰らなきゃ。
 ひかりがまってるから。」

おれは、ぺこりと猫の頭をさげて、ひょいと床に下りる。すた。そのまま凪さんの足元へ行き、ふかぶかと頭を下げる、猫なりに。

さて、どうやって帰ろうか。



凪はジンジャーの前でかがんで、その瞳を覗き込む。そこに見えたものとは..

「ジンジャーくん。きみの抱えている荷はきみだけのものだ。誰も代わりには背負えない。だけど、一緒に泣いたり、笑ったりすることはできる。それで乗り越えられる夜もあるだろう。

迷うことがあったら、またここにおいで。ここは、必要な人にいつでもどこでも開かれるから」

といって凪は微笑んだ。

「ジンジャーくん!陽菜も、つらいときにはジンジャーくんのこと思い出すね。ちっちゃくて、ふわふわで、面白くて、でも体をギュッとして、いっぱいいっぱい頑張ってる猫さん。また遊びにきてねっ。だって、仲間だもんね…また猫さん、描いてあげるね!」

陽菜はジンジャーと握手をする。
ふかふかの肉球がくすぐったい。


その時、ふと現れた黒い影。

いや、元店長である、黒猫のマスターだ。

「きみ、帰り道は分かる?」

ジンジャーは、ふるふると顔を横に振る。

「家の近くまで送っていってあげるよ。ちょうど雨も止んだところだ」

ジンジャーと黒猫は、凪が開けたドアの隙間からするりと外へ出ていく。雨上がりの眩い日差しが二匹を包みこむ。まるで、その行く先のこれからを示すかのように。

「あーあ、行っちゃった」

陽菜はジンジャーがお気に入りだったらしい。
しょんぼりとため息をついた。

ここは、必ずしもいつも来れるとは限らない。
だから例え仲良くなったとしても、また会えるとは限らないのだ。そういう場所だから、陽菜たちは安心していられるのだけど…

「あの子、魂の形は人間みたいだ。なんで猫なのかはわからないが…もしかしたら、また別の形で会えるかもしれないね」

と凪は陽菜の頭を優しく撫でた。
ふわふわの髪がこちらを向き、凪にぎゅっと抱きつく。

中身とか外見とか何も問題ではない。
どこからきて、どこへいくかも。
それぞれが何を抱えているかさえ。

ただ今この瞬間に繋がれたこと、
同じ何かを共有したひととき。
いつか振り返った時に心温まる何か。
それを重ねていくことで進める道がある。

出会いとともに予感する別れに
慣れる日など来ないだろう。

「陽菜、何が食べたい?」
「えっとね、オムレツと、茶トラにゃんこのココアラテ!」

黒猫亭の看板から灯りが消え、街から存在を消す。また次の雨曜日、新たな客がそのドアを開けるその時まで。



(終)

あとがき

12000字を超えた長いお話、
読んで頂きありがとうございました。 

交互に書くのは楽しいのですが、会話のラリーのように長くなりますね。おふざけもありつつ、添えられたメッセージを受け取ってもらえたら嬉しいです。ふるふる、何回出てくるでしょう笑

多忙でご体調も優れない中にも関わらず、最後まで書き上げてくれたUさん、本当にありがとうございました。生き生きとしたジンジャーが面白おかしく、時に真面目に語る姿、愛らしい猫のしぐさに毎回楽しませてもらいました。

ありがとうございました🐾


Uさんの最初で最後のストーリー⭐️
ひかりがひかる

ジンジャーはこのお話の中で、鍵となる存在です。ここに出てくる、目を逸らしたくなるような傷を持つたくさんの人々。それは、ファンタジーではなくすぐ隣にある現実です。大小あれど、このストーリーの中にきっと自身と同じ傷を見つけることでしょう。静かに心落ち着けながら、よかったらぜひ読んでみてくださいね。

画像はすべてAI作成です
少し前からのことだけど
ちょっと言葉の鎧に
疲れたかもなので
しばらく真面目に書くかも
暑いからかなぁ

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