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ラブカ奇譚|毎週ショートショートnote


春の雨は、柔らかくて心地良い匂いがする。

だけど今日の雨は冷たくて重い。久しぶりに部屋から出た僕は、春に嫌われているかのようだ。

満開の桜並木を通り過ぎ、街外れのこじんまりとした水族館に入る。深海魚を主にした館内は薄暗く閑散としていて、だからこそお気に入りの場所だった。今日は珍しく日本で飼育されるようになったラブカを見に来た。

僕が食い入るように見ていると、

「きみ、ラブカ好きなの?」

いつのまにか隣に男の子が立っている。

「うん、好き」

「どこが?」

「闇に潜んでるとこ。グロテスクな外見なとこ。僕と同じだもん。どうせなら、僕もずっと海の底にいたかったな」

「じゃあ、とりかえっこ、しようよ」

彼はそういうと、僕に右手を差し出す。
僕はよく分からずにぎこちなく右手を出し、握手をする。


次の瞬間、僕は昏い闇の中にいた。
どうやら水槽の中のようだ。目の前のガラスの向こう側から、『僕』がこちらを見ている。『僕』は僕ににっこり微笑むと、光の差す出口のほうへ歩いていった。


「って話が、噂の『ラブカ奇譚』。みんなこういう話好きだよな」

「こわっ、それホントなの?」

「ナイナイ、あるわけないじゃん?そんなファンタジー」

「だよねー」

トオルはにっこりと微笑むと自分の席に着く。
ありえないことも起こり得るのがこの世界なのだと、心の中で呟いた。

552字
久しぶりの毎ショ参加
オーバーしすぎた..


┏○ ペコリ


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