1本の電話で物件が決まり、そして未来が始まった
※すでに第1章までお読みいただいた方へ:冒頭のみ、第1章までと一部重なりますが、ストーリーを通して読めるように再掲載しています。
プロローグ
家を買って、リノベしたい。
そう思い始めてから、書籍や雑誌を30冊以上読みあさりました。
でも、そこに登場するのは、たいてい夫婦や家族の風景ばかり。
「シングルマザーで、家を買おうとしている人」の姿は、最後まで見つけられませんでした。
シングルマザーが、自分ひとりの意思で家を買い、限られた予算や条件の中でも、「好き」を詰め込んだ空間をつくっていく─
そんなリアルなプロセスが、もっとあってもいいのでは、と思ったのです。
誰も教えてくれなかったその道のりを、自分の言葉で残したくて―この記録を書き始めました。
ここからは、私の物語です。
生涯家賃≒3,000万円!?
家を買うなんて、考えていませんでした。
フルタイム勤務で残業続き。
ひとりで子育て。
今日を回すだけで精一杯で、将来の住まいについて真剣に考える余白などどこにもなかったのです。
「このまま賃貸で暮らしていくんだろうな。」
―ぼんやり、そう思っていました。
子どもが小5の冬。
年末にいつものように家計簿をつけていたとき、ふと寿命までの家賃総額をざっくり計算してみたら―約3,000万円!?
「家が買えるじゃない・・・。」
数字を見た瞬間、頭の中でカチリと音がしました。
「消えていく家賃」で終わらせるより、「残るもの」に変えたい。
そう思ったとき、真っ先に浮かんだのは子どもの顔でした。
子どもに“居場所”を残すという考え方
フルタイム+子育て生活で体力はすり減り、健康診断の要・経過観察は増えるばかり。
疲れも年々蓄積していき、回復に時間がかかる・・・。
小学生の子どもを前にして考えたくはないけれど、もし私に何かあったとき、持ち家があれば最低限の『住む場所』は残せる。
住宅ローンの団体信用生命保険(団信)で、万一の時は残債がカバーされる。
そしてもうひとつ湧き上がった想い。
「せっかく買うなら、好きなものを詰め込んだ家にしたい。」
「うん、家を買おう。私たち、きっともっと幸せになる。」
そう決めた日のうちに、私はリノベーション会社に問い合わせメールを送っていました。
心はもう決まっていたのです。
10年住んだマンションを売った話
30代で購入した新築マンションは、離婚後に私ひとりの名義になりました。
子どもと暮らし続けること10年。
思い切って売却したところ、購入時より高く売却できたのです。
エリアの物件価格上昇という“運”も味方しましたが、不動産会社に任せきりにせず、自分でできる限り動いたことが結果に結びついたと感じています。
高く売るために行った売却活動については、別の記事を出す予定です。
終わらない物件探しの旅
前の家を無事に売却し、賃貸生活を経て、次の住まい探しが始まりました―ここからが長かった・・・。
校区を変えたくなかったので希望エリアは狭く、予算も限られています。
朝晩の日課は不動産ポータルサイトでの物件探し。
500件以上検索して「これはいいかも」と思えた8件を内覧。
厳選した物件なのに、いざ現地に足を運ぶと「何か違う…」。
夜中に物件サイトを更新してはため息、内覧しては落胆、また検索…。
気づけば1年半が過ぎていました。
何度もくじけそうになりながらも、
「それでも、好きな家をあきらめたくない。」
その気持ちだけで続けていた頃、一本の電話が鳴りました。
運命の電話
「B不動産のIと申します。ご希望のエリアで物件が出そうなんです。今も探していらっしゃいますか?」
平凡な平日の夕方。一本の電話が、停滞していた時間を一気に動かしました。
(※B不動産は別記事「未公開物件を手に入れる方法」に登場予定です。)
「はい!探しています!」
私は思わず声を弾ませました。
Iさんは続けます。
「以前はご案内できず申し訳ありませんでした。前任者の〇〇から『このエリアで良い物件が出たら、りりこさんに必ず連絡するように』と引き継ぎを受けていたんです。」
物件の詳細を尋ねると、住所・間取りは希望通り。築23年も許容範囲内。
ただ、価格は大幅に予算オーバーでした。
「この価格じゃフルリノベは到底無理…。」
そう思いながらも、1年半の探し旅で嫌というほど学んでいました。
このエリアで理想に近い物件を、自分の予算内で見つけるのはほぼ不可能だ、と。
「紹介した物件の売却はまだ確定ではありません。決まったらご連絡します。」
電話はそう告げて終わりました。
胸が高鳴った夜
初めて、不動産会社のほうから連絡が来た・・・!今までとは違う……そう感じました。
私は電話を切るとすぐにネットでマンションの売却情報を探しました。まだ掲載されていません。
写真で見る外観は悪くない。しかも今住んでいる賃貸からも徒歩5分。
「これは…もしかしたら…」。
その晩、子どもを誘って自転車で現地へ。
写真以上に外観は好みで、マンション前の静かな空気が心地いい。
マンション内には入れないので、駐輪場やインターホン前をそっと覗きながら―。
夜にうろうろきょろきょろ、ちょっと怪しい人だったかもしれませんね。
「この物件、期待できるかもしれない。」心はすでに高鳴っていました。
はやる気持ちを抑えつつ「とにかく不動産会社からの連絡を待とう。」と自分に言い聞かせ、眠りにつきました。
このとき私は「顧客リストに残っていた」、「紹介する価値がある人と判断されていた」という事実が少し誇らしく、嬉しかったのです。
夕陽が決断をくれた
数日後、Iさんから連絡。
「売却が確定しました。内覧されますか?」
前のめりで即答です。
「仕事が終わったら、すぐ伺います!」
夕方、現地で待ち合わせ。
(こっそりエントランスまでは覗きに来ていましたが)今日は堂々と部屋に入れます。
エレベーター前の共用部は思った以上に広く、凛とした雰囲気がありました。
部屋に到着。
前居住者はすでに退去済み。
約60㎡のコンパクトな3LDKはきれいに片付けられていました。
残されたカーテンや、部屋の隅にまとめられた掃除道具から、なんとなくですが、前居住者が丁寧に暮らしていた様子がうかがえたのです。
これまで内覧した8件では感じられなかった「ここなら心地よく暮らせる」という直感。
その感覚が全身を包み込みます。
終の棲家のつもりで購入するけれど、この立地・物件なら将来、売却したくなってもさほど値が下がらず売却できそう。
そんな計算も瞬時に働きます。
最後に足を踏み入れたのはリビング。
カーテンを静かに開けると、空一面が夕陽に染まり、穏やかなオレンジが部屋いっぱいに広がりました。
その瞬間、はっきり思ったのです。
「ここだ。この場所で暮らしたい。」
予算との攻防
「1年半も物件探している私がここまで住みたいと思うんだから、決めてもいいよね。」
でも同時に、「予算オーバーだよ…」という現実が迫ります。
普段は優柔不断な私が、内覧して30分もたたないうちに「決めよう」と思えたのです。
どうしよう・・・。問題は価格です。
Iさんに正直に伝えました。
「この物件、とても気に入りました。購入したいです。でも予算より700万円ほど高く、リノベ費用も考えると厳しい……。
売主さんに値下げ交渉をお願いします。ただ、この価格のまま他の方が購入したら……。定価購入を受け入れる2番手の方に購入されるのは避けたいんです。私を購入候補の1番手にしてください。住宅ローンの事前審査は終わっています。自己資金〇〇円は明日にでも用意します。」
言いながら、自分でも驚くほど必死でした。
それだけの想いがありました。
その部屋は地球上でただひとつです。
同じ間取りの部屋はあったとしても、その場所で、その階数で、
そこから見える景色はひとつとして同じものではない。
内覧さえ叶わなかった過去の経験や、リノベーション経験者に聞いた「タイミングがホント大事。自分は物件見た日に即決した。」といった話などで、購入の意思表示をはっきりと示すこと、自分に支払い能力があると伝えることの大切さが身に染みていたのです。
帰宅して、少しだけ冷静になりました。
夫婦なら話し合って決めるでしょう。離婚前の新築マンション購入時、私もそうでした。
でも今は一人。
「その場で決めて良かったの?」「この先ずっと支払っていける?」―不安はありましたが、不思議と「きっとどうにかなる」と腹をくくれたのです。
そして契約へ
数日後、Iさんから朗報。
「売主が200万円の値下げに応じてくれました。」
そこから契約までは驚くほどスムーズに進みました。
子どもに「ようやく家が決まったよ。あの自転車で見に行ったマンションだよ。」と報告すると、「ふうん、わかった。」とあっさりした返事。
でも、初めて自分の個室が持てることに嬉しそうな表情を見せました。
こうして、1年7か月に及んだ私の物件探しは幕を下ろしました。
その後
リノベ、引越しを経て、購入から2年。
この家で暮らす穏やかな日常を味わいながら、あの日の決断を心から「よかった」と思っています。
予算の関係でフルスケルトンのリノベは諦めたけれど、立地・管理・構造など“マンションそのもの”の価値を優先し、専有スペースは既存を活かす方向に。
間取り変更は最小限に抑え、そのぶん床や設備など、暮らしの印象を決める部分に集中して投資しました。結果として、無理なく、自分たちらしい家が完成しました。
マンション購入はゴールではなく、むしろスタート。
住宅ローン、リノベ会社選び、プラン調整、設備や素材の選択、引越し…。想像以上に判断、決断の連続。
日常の仕事や家事育児と並行しながら、濃密で慌ただしい5か月を全力で駆け抜けました。
迷う日もあったけれど、そのたびに「ここは削って、ここにこだわる」と選んだ時間が、今の暮らしを支えています。
この家に帰るたびに思います。
―あの夕陽のリビングで感じた直感は、間違っていなかった。
この家との出会いと決断は、私の人生でひとつの大きな節目でした。
でも、ここからが本当のスタート。
次の章では、リノベーション編をお届けします。
リノベーションの流れ
リノベ会社はどう選んだ?
予算を抑えて理想を叶えるには?
そして、たったひとつの後悔とは―
続きも読んでいただけたら嬉しいです。
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