我が家に30年語り継がれる「すいか事件」
呪いたいくらい人を恨んだことはないし、孫の代まで祟られるようなことをしたこともない(と思う)。
怨念系のホラー映画やドキュメンタリーは、開始5秒でチャンネルを変えるタイプだ。
子ども時代は「あなたの知らない世界」が何よりも怖かった。
そんな私でも、ひとつだけ忘れられない出来事がある。
今でも家族の間で話題になる「すいか事件」だ。
私が小学生のころ、夏休みになると母の故郷である能登半島に帰省していた。
名古屋で暮らす母方の祖父母を拾い、夜通し車を走らせ北陸の地へ。
年に2回は事故を起こす母親にハンドルを持たせるのがよほど心配だったらしく、父親が6時間ほどぶっ続けで運転していた。
1週間ほどの、海辺の町でのバカンス。
泊まるのは、祖父母が数年前まで暮らしていた海まで1分の家。
ボロボロで今にも崩れそうだったけれど、それも「夏休みのおばあちゃんち」っぽくて特別感があった。
朝になれば海へ行き、おなかが空けば家に戻り、ご飯を食べたらまた海へ行き、日が暮れたらまた家に帰る。
そんな海と家を何度も行き来するだけの1週間を過ごし、毎年恒例の朝市に寄ってから帰路につく。それが能登から名古屋に帰るまでのいつもの流れだった。
そんなある年のこと。
親戚のおばさんが、帰り際にまん丸のスイカを2個くれた。
車のトランクにはお土産を詰めたクーラーボックスと、段ボールの中でころがる2個のスイカ。
ひとつは抱えるほど大きく、もうひとつはひとまわり小ぶり。それでも十分立派で、丸ごとのスイカなんて買ったことないもんだから、私も弟もテンションが上がっていた。
ところが、である。
これまたボロボロな祖父母のアパートに着き、トランクから荷物を下ろそうとしたまさにその時。
「こっちもらうでな」
と祖母が手にしたのは、大きい方のスイカ。
当たり前のようにスイカを抱え、すたすたとアパートに向かう祖母に、私と弟だけでなく、父もその場にフリーズ。
実の娘である母でさえ、「えっ……」とあっけに取られ、しばらく言葉が出なかった。
ぱたんと閉まるドアを見届け、静かに車に乗り込む父。
車の中は、まるでお通夜のように静まり返っている。
しばらく車を走らせたあと、父がぽつりとつぶやいた。
「……なんの迷いもなかったな」
誰も返事をしなかった。
その年の夏休みの思い出は、海でも朝市でもなく、「一番大きいスイカを持っていったばあちゃん」に全部持っていかれた。
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