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失恋から始まった『星野リゾート全制覇』超節約OLが旅に400万費やした理由(宣伝会議 第52期 編集・ライター養成講座卒業制作)

本作品が「第52期 編集・ライター養成講座」にて【審査員特別賞】をいただきました。
お忙しい中快く取材に答えてくださったOLのミカさん、星野リゾートさん、そして、ともに支え合った仲間たちに心より感謝いたします。

今やリゾートホテルの代名詞ともいえる「星野リゾート」。「星のや」を始めとする6つのブランドを展開し、徹底的なホスピタリティと非日常を感じる空間づくりで、特別なひとときを味わわせてくれる。その分価格も、決して安くはない。

そんな星野リゾートの国内外全施設を、400万かけて制覇した女性がいる。OLとして働きながら超節約生活を送り、今年2月、見事全制覇を成し遂げたOLのミカさん(以下ミカさん)だ。

普段のお昼は玄米おにぎり持参、コンビニも利用せず、ヘアカットは前髪だけ。しかしながら、星野リゾートに滞在しても部屋で漫画を読むのが基本スタイルで、観光もめったにしない。

なぜ彼女はそこまでして星野リゾートに通い、「何もしない旅」を続けたのか。ミカさんのインタビューを通して「節約と旅」という対照的なライフスタイル、お金との向き合い方を探っていく。

「ミカちゃんよりも、面白いコンテンツが世の中にはあると思った」人生を変えた元カレの一言


(ミカさんのInstagramより)

ミカさんが星野リゾート全制覇を決めたのは、元カレのこんな一言がきっかけだった。

「ミカちゃんよりも、面白いコンテンツが世の中にたくさんあると思った」

当時ミカさんは33歳。気持ちを切り替えようと、できる限り楽しいことをしたが、どうしても気持ちを切り替えることができなかったという。

そんな中、数年前に宿泊した「リゾナーレトマム」での経験を思い出し、「リゾナーレ小浜島」を訪れることにしたそうだ。

「本当は海外へ行きたかったんですが、コロナ禍真っ最中で。そこで、海外旅行に使うお金を星野リゾートに使うことにしたんです。星野リゾートなら、海外のリゾートホテルのクオリティを国内で感じられる」


SNSの写真とは違い、実際のミカさんは落ち着いた雰囲気。星野リゾートの話になると表情が緩むのが印象的だ

こうしてひとり沖縄へ。広々としたリビングと、静けさに包まれたプライベートビーチ。どこまでも続く海を目の前に「星野リゾートに毎月行きたい。なんなら全部行きたい」と感じたという。

「星野リゾート全制覇するしかない」ミカさんが壮大なチャレンジを決めた瞬間である。

しかしなぜ、数あるリゾートホテルの中で星野リゾートだったのか。

「海外のリゾートホテルもいくつか利用したことがあるんですが、お気に入りのブランドのホテルは、どこに行ってもクオリティが同じなんです。星野リゾートにも同じことを感じました。それに、全国各地にあるから毎回新鮮さを感じられる。クオリティは担保されつつ、毎回楽しめるのがいいなと思ったんです」

こうして、星野リゾート全制覇の道を歩み始めたミカさんは、次々とホテルを予約。早ければ来年分まで予約していたという。

「お金を払ってしまっているから、行かないわけにはいかない。頑張るとか頑張らないではなく、始まった流れに乗っていった感じでした。クレジットの明細を見て一瞬息の根が止まることはありましたけど、逆に『気を引き締めて働かないとな』と思いましたね」

笑いながらそう語るミカさん。そもそも、彼女をここまで夢中にさせた星野リゾートとは、どのようなホテルブランドなのだろうか。

1泊10万越えも。星野リゾート6つのブランド

1914年、軽井沢の「星野温泉旅館」から始まった星野リゾート。創業100年を超える今では、誰もが知る有名ホテルチェーンとなった。

2017年には海外初施設となる「星のやバリ」を開業。現在は国内74施設、海外5施設を運営し、さまざまな旅の形を提供している。

特徴的なのは、高級リゾートから都市型ホテルまで複数のブランドを展開している点だ。以下にそれぞれの特徴をまとめてみた。

【星のや】

星のや京都(ミカさんのInstagramより)

星野リゾートのラグジュアリーブランド。「その瞬間の特等席へ」をコンセプトに、圧倒的な非日常体験を提供する。

船やジープなどそれぞれの施設コンセプトに合わせた送迎が用意され、レセプションが日常と非日常の境界線に。スタッフの制服やサービスも、その土地に合わせてデザインされている。

基本、2泊以上の連泊を前提としており、1泊10万(食事代込み)を超えるところも多い。

【界】


界 秋保(ミカさんのInstagramより)

「王道なのに新しい」をテーマにした温泉旅館。

「温泉」「ご当地楽(ご当地体験)」「日本旅会席(郷土料理)」「ご当地部屋(伝統工芸を取り入れた客室)」4つのこだわりで、その土地ならではの魅力を伝える。

料金相場は、一人当たり3万円前後。18歳~29歳限定割引プランや70歳以上対象の定期券も用意されている。

【リゾナーレ】

リゾナーレ八ヶ岳(ミカさんのInstagramより)

体験型リゾートホテルブランド。子ども向けのアクティビティやキッズ用品にくわえ、世代別の食事メニューも充実している。

カフェやレストランが多彩なのも特徴。ビアガーデンやハロウィンなど、シーズンごとにイベントも行われる。

料金相場は一人当たり3万円前後と、界と同程度。

【OMO】

OMO5東京五反田(ミカさんのInstagramより)

「テンションが上がる『街ナカ』ホテル」がコンセプト。その街をこよなく愛するスタッフが地域と連携し、とっておきの楽しみ方を提案する。

各数字はランクを意味し、1がカプセルホテル、3がシティホテル、5がブティックホテル、7がフルサービスホテルの位置づけ。24時間利用できるオープンスペースや、ナイトイベントも用意されている。

価格は一人当たり4000円程度(素泊まり)~。

【BEB】

BEB5土浦(ミカさんのInstagramより)

「居酒屋以上、旅未満」をコンセプトにしたカジュアルホテルブランド。朝食・チェックアウトは遅れてもOK、飲食物持ち込み推奨など、ルーズな滞在を魅力としている。

24時間利用できるカフェラウンジには、電子レンジなどもあり、持ち込みの食事やお酒を楽しむこともできる。

価格は一人当たり4000円程度(素泊まり)~とOMOと同程度。29歳以下限定の割引プランも用意されている(グループ全員29歳以下が対象)。

【LUCY】

LUCY尾瀬鳩待 (ミカさんのInstagramより)

山ならではの楽しみ方を提案する山ホテルブランド。食料品などが購入できるラストコンビニも併設され、ハイクグッズのレンタルも行っている。

熊鈴作りや星空観察など、山ならではのアクティビティもあり、山登り初心者から上級者まで山の魅力を満喫できる。 

価格は一人当たり12000円程度。素泊まり・夕食付きプランが用意されている。

高級旅館からカジュアルホテル、山岳ホテルまで。 旅の目的や過ごし方に合わせて選べるブランド展開こそ、 星野リゾートの魅力だといえるだろう。

4年間で400万円。星野リゾート全制覇を支えた超節約生活

1泊10万を超える施設もある星野リゾート。全施設制覇という目標を可能にしたのが、徹底的な節約生活だ。


(ミカさんのInstagramより)

平日のランチは玄米ごはん、味噌汁、野菜ジュース持参。飲み会は1次会で帰り、コンビニもスタバも利用しない。待ち合わせ時間に早く着いた時も、決して喫茶店には入らなかったという。

みじめになったり、辞めたくなったりしたことはなかったのだろうか。

「年齢的にも十分おしゃれや外食を楽しんだので、それほど苦にはなりませんでした。無駄に流れていたお金をひとつずつ削っていった感じです。つらかったのは、大好きなネイルができなくなったことくらいです」

そう語るミカさん。「電波少年にあこがれていたんですよね。玄米ご飯食べながら、星野リゾート全制覇するって、ちょっと電波少年ぽいじゃないですか」と小さく笑う。

80弱という施設数も、ちょうどよかったそうだ。

「絶対に無理でもなく、やろうと思えば行ける数字。一瞬では達成できないから、数年かけて楽しめる。受験と同じです。受験ってすごくつらいけれど、目標があるから頑張れるし、毎日が充実してる。何もないままだらだら30を過ぎてしまった自覚があったので、目標ができたことで人生にハリがでました」

そんなミカさんに、星野リゾート制覇を始めて2年が経った頃、TV局から取材の依頼が舞い込んだ。そのことも節約生活の励みになったそうだ。

「自分がしていることがバラエティ番組になるのがすごく嬉しくて。『傍から見たら面白いんだ』と気づいたのも取材がきっかけです。それまでは、『予約したから節約しなきゃ』と思っていたので」

しかし、ミカさんの面白さは「節約×星野リゾート全制覇」という点だけではない。独特の旅スタイルも、一般的なイメージとはかけ離れていた。

観光よりも部屋で漫画。独特の旅スタイル

星野リゾートに宿泊する時は、スーツケースに大量の漫画を詰め込んでいくミカさん。

滞在中は、ひたすら部屋で漫画を読み、観光といっても近所の銭湯やマッサージを利用するくらいだ。


(ミカさんのInstagramより)

しかし、なぜ漫画なのだろう。

「『漫画を全30巻読む』って、意外と家でできないことじゃないですか。

星野リゾートに行くと、毎回ここに住みたいと思うんです。住む=リラックス。私にとって、星野リゾートはリラックスしに行く場所なんです。そのために欠かせないのが、漫画なんです」

そう話すミカさんは、漫画代だけは節約しないという。読み終わったらフリマサイトで売り、新しい漫画を購入するのも、ミカさんらしい。

もうひとつ、スケジュールをしっかりと組むのも、ミカさんの旅の特徴だ。チェックインは15:00、夕食は17:30、朝食は7:30、チェックアウトは12:00と徹底している。

「日常ではやることがたくさんあるから、旅先では予定をできるだけシンプルにしたいんです。空いた時間は全部漫画を読めばいい。景色のいい部屋が多いので、漫画と景色、同時進行で楽しめます」

シンプルイズベスト。ミカさんは生活だけでなく、旅先での時間も自分にとって必要なものだけを残していた。

星野リゾート全制覇が教えてくれたこと

2026年2月、海外5施設も含め、見事星野リゾート世界制覇を成し遂げたミカさん。星野リゾート制覇を始めたことで、自分にとって無駄なものが分かるようになったという。

「今考えると、昔は節約についてそれほど考えていなかったと思います。まあいいかなという感じで、スタバに行ったり、コンビニに寄ったりしていた。ブランドものにも興味がなかったので、贅沢をしている自覚がなかったんです。

でも、よくよく考えたらお昼休みに一人でスタバに行く必要はないし、コンビニも毎日のように寄る必要はないなって。今は『誕生日だからスタバに行こう、いいスイーツ買おう』みたいな感じになりました」

そう語るミカさんは、今でも節約生活を続けているという。

「星野リゾート制覇は、まだ完全に終わってはいないので。ほかにもやりたいこともあるし、今はもっと極限の節約生活をしています」

2026年、新たに国内に7施設を開業する星野リゾート。ミカさんはすでに、予約できるところはもう予約してあるそうだ。ミカさんと星野リゾートとの追いかけっこはまだまだ終わりそうにない。

星野リゾートに惹かれ続ける理由

ほかのホテルもある中で、ミカさんはなぜ、これほどまでに星野リゾートに惹かれ続けるのだろうか。

「星野リゾートは、クオリティが一定で、どの施設を利用しても間違いがないんです。

中でも感動するのがおもてなしの心。4年の間にほかのホテルも利用しましたが、接客は星野リゾートには叶わないと感じました。

「施設が古い」という口コミも見ますが、リノベーションであることをわかって利用しているからそれほど気にはなりません。星のやを利用してもOMOを利用しても、スタッフさんの対応はしっかりしているので、がっかりしたことはないです」

こんなエピソードがある。2022年、栃木県の「界 川治(現在は運営終了)」に友人と宿泊したときのことだ。夕食時、お品書きには「鰆の土鍋ご飯」と書かれていたが、ミカさんのテーブルには「ローストビーフとフォアグラの土鍋ご飯」が並べられていた。グレードアップもしていないのに。

(ミカさんのInstagramより)

実は2週間前、同じ栃木県にある「界 鬼怒川」を利用していたミカさん。その時の情報をもとに、スタッフが気を利かせてくれたようだ(鬼怒川と川治は同じ土鍋メニューだった)。

何もミカさんが特別なわけではない。施設ごとに違うルームキーや、ご当地ならではの湯上りドリンクなど、おもてなし精神は随所に現れている。


(ミカさんのInstagramより)

星野リゾートが大切にしているのは、「地域らしさを顧客に届けること」だという。マニュアル化された均一的なサービスではなく、その土地の歴史、伝統、食文化などを感じてもらうこと。そのためにスタッフが自ら学び、細部にまでストーリーを落とし込んでいるそうだ。

最後に、ミカさんにとって星野リゾートとはどんな存在なのかを聞いてみた。

「インフラに近いです。携帯代や電気代のように、星野リゾートの宿泊費もあって当たり前のものなんです」

もはや星野リゾートが日常の一部になっているミカさん。誰かにとってのコンビニが、ミカさんにとっての星野リゾートなのかもしれない。

ミカさんの旅行スタイルと重なる現代の旅の傾向

一見すると、ミカさんの旅行スタイルはかなり独特だ。しかし、滞在自体を楽しむスタイルは、現代では珍しいものではなくなっている。

星野リゾート担当者にも、最近の旅の傾向を聞いてみた。 

「かつての『名所を効率よく巡る旅』から、『あえて予定を詰め込まず、泊まることを旅の目的にする』ケースが増えていると感じています。星のや、界、リゾナーレブランドの施設においては、チェックインからチェックアウトまで施設内で過ごされる方が多く、OMOやBEBブランドにおいては施設外を含めてホテルを旅の拠点として楽しまれている印象があります」(星野リゾート担当者)

観光を詰め込むのではなく、温泉に入り、その土地ならではの食事を楽しむ。何もしない時間を味わうことこそが現代の旅の醍醐味なのだ。

そして、変化しているのは、旅先での過ごし方だけではない。お金の使い方もまた、ミカさんの価値観と重なりつつある。 

2025年の国内旅行消費額は26兆7,845億円、うち宿泊旅行消費額は21兆7,211億円と、いずれも過去最高水準。1人1回あたりの旅行単価も4万8,359円と同じく過去最高水準だ。

参考:旅行・観光消費動向調査 2025年年間値(速報)及び2025年10-12月期(1次速報) | 2026年 | 報道発表 | 観光庁 

物価高が続き、節約志向が高まる一方で、自分にとって価値ある体験にはお金を使う。そんな消費行動が広がっている。

「私どもが届けたいのは、物質的な豪華さではなく『心が豊かになる、時間と体験の贅沢』です。 その土地でしか出会えない美しい景色や食事、そして何よりも、大切な人とただ心地よく過ごす時間。

効率やスピードが求められる現代だからこそ、あえて時間を贅沢に使い、心に深く残るような『一生モノの旅の記憶』を、これからもご用意できればと思っています」と星野リゾート。

「心が豊かになる、時間と体験の贅沢」。それは星野リゾートが届けたい価値であり、ミカさん、そして現代に生きる人たちが旅に求めるものなのだろう。 

(ミカさんのInstagramより)

noteで連載していたミカさんの「星野リゾート全制覇」の記録が、2025年の創作大賞・朝日新聞出版賞を受賞。書籍化され、2026年6月17日に出版された。
失恋をきっかけに始まった4年間・400万円の挑戦。前代未聞の旅行×節約エッセイ集を、旅のおともにぜひ。

▼ミカさんの最新情報はnoteから



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