「りんごの木」「てんでんこ」と大震災@#14生きた教科書を読む
リスクコラム中井です。
今回は、東日本大震災です。なお日常が戻らない被災地にお見舞い申し上げながら、二つに絞って書きます。「りんごの木」と「てんでんこ」です。
■海辺に幸せの記録
2011年3月26日土曜日、取材で福島県南相馬市に向かいました。ずっと海岸まで、建物は薙ぎ払われ、人影も見えません。
泥に埋もれた収穫カゴに、一冊のアルバムを見つけました。幼稚園の運動会写真がファイルされています。白組帽子を被った女の子。Tシャツジーンズ姿のお父さん。手をつないで入場行進しています。幸せの記録です。心臓をぎゅっと握られたような感じがしました。
「頑張って走らなきゃ」って感じで、やや緊張した園児らの写真に出会ったあの日から、15年がたちます。当時は、原子力発電所の事故を主に取材していたので、見えない巨大なリスクとの闘いでした。
いま、リスクコラムと称してnote投稿を始めて2か月。やはり、東日本大震災はテーマとして避けて通れません。
■社外秘の検証レポート
少し前に都心のオフィスビル管理の仕事をしていたころ、「東日本大震災の教訓」という社外秘文書をバイブルにしていました。
3・11当時の先輩たちによる失敗検証レポートです。館内オフィスワーカーの避難をどうするか?という判断が時系列で詳述され、成功例でなく失敗例の分析だったのでとても貴重でした。
ビル災害対策マニュアルの管理には、悩み続けました。
① 真面目に作ると膨大な量になって覚えきれない
② コロナ対策などアップデートが常時必要になる
③ 費用対効果のバランスを常に求められる
木を見て森を見ずに陥って、人命最優先がおろそかにならないか……。実はいまだに、難問だと感じます。
■最強マニュアル「てんでんこ」
その点からすると、三陸地方に伝わる防災の知恵「てんでんこ」は、災害対策の最強マニュアルだと思います。
津波が来たら、てんでバラバラに高所に逃げる。
簡単明瞭な言い伝えを守ることによって、東日本大震災で多くの命が救われたと記録されています。メッセージの貴重さが大震災で再認識された形です。(☞欄外①ご参照)
災害に限りませんが、うまくリスク管理するには、システムとマニュアルをどう仕立てるかだと思います。だれもが簡単に覚えられて使えるシステムやマニュアル。要素をバンバンと削ぎ落として、「てんでんこ」のような象徴的な短文メッセージを残す。それが、一つの理想型です。
■石原都知事「君はりんごの木を植える」
例えば、手元に東京都総務局人事部編「職員ハンドブック2012」があります。震災翌年に、各種マニュアルを研究するために買った一冊です。
パッと開いたページの文字を数えると40文字×34行=1360文字で、本文639ページの分厚さです。
グラフあり、地図あり、数式あり、組織図あり……昇任試験に出るとなれば必死に勉強するかもしれませんが、難解なので私には無理だろうなとため息をつきました。
でも、私は運が強いので、買った価値は十分ありました。石原慎太郎知事(当時)の手になる巻頭言「職員諸君に期待する」の中に次のような一節を見つけたからです。
<「たとえ地球が明日滅びようとも、それでも君はりんごの木を植える」という気概を持って頑張っていただきたい>
東日本大震災直後であることも意識して、将来に希望と使命感を持てという激励引用なのだと読み取りました。「てんでんこ」に通じるような、リスク管理の秀逸メッセージではないでしょうか。(☞欄外②ご参照)
noter試用期間中みたいな私ですが、あす現実化するかもしれないリスクにひるむことなく、「りんごの木」を少しずつ植えていければと思っています。
◆ ◆ ◆
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。子や孫の世代に後ろ指をさされないように、また、頑張ります。 <了>
【欄外①】岩手県のHPに解説文があります。13_teigen.pdf
【欄外②】調べてみると、「たとえ地球が明日滅びようとも、それでも君はりんごの木を植える」というメッセージは、石原知事が作家開高健に教えられたのだそうです。さらに源流を遡ると、多少表現が変わりますが、16世紀ドイツの学者マルティン・ルターに行きつくようです。noteで「りんごの木を植える」と検索したら、関連投稿も探せました。
*保護猫ロクの祈り「あした天気になあれ」

