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テニスの錦織圭に学ぶビジネスの勝ち筋

はじめに

2026年5月1日。通勤途中の満員電車の中、スマホに流れてきたニュースを見て、「ついに来たか、、」と思いました。近い内にその日が来るであろうと思っていた、テニスの錦織選手が今シーズンでの現役引退を表明したためです。

私は錦織選手と同世代です。彼の存在を知ったのは20年以上前の中学生の頃でした。当時テニス雑誌の片隅に載っていた「ソニー副社長だった盛田氏が設立したファンドの支援を受け、13歳で単身渡米してフロリダのIMGアカデミーで修行をしているテニス少年」の小さな写真がすべての始まりでした。

13歳という年齢は子供と大人の境界線にあり、精神的にも繊細です。そんな多感な頃に、言葉も通じない、体格の勝る選手が集まるサバイバル環境へ飛び込み、厳しい条件を毎年継続して達成せねばファンドから即支援が打ち切られ、帰国となる。それがどれほど過酷で、どれほど孤独な挑戦であるか。

置かれていた環境は異なるのですが、私自身も11歳で渡米して13歳で帰国するというアメリカでの生活経験がありました。多感な時期の数年間、言葉や文化の異なる環境で過ごした日々は、改めて振り返ると自分にとって大きな財産だと言えるのですが、当時は子供心に強烈なストレスでもありました。

実体験として痛感したことですが、米国生活に本当の意味で心身が馴染むためには年齢は低ければ低いほど好ましいです。少しでも年齢が上がると、言語の壁やコミュニティへの適応の難易度は跳ね上がります。だからこそ、13歳という、まさにアイデンティティが形成されかける年齢から渡米した錦織選手が、どれほどのプレッシャーと孤独の中で戦っていたのか、私は自分のささやかな経験を重ね合わせ、深く思いを馳せずにはいられませんでした。

錦織選手が米国に渡った13歳の時、逆に私は日本へ帰国し、以前住んでいた地元に戻りました。そこでは、渡米前に所属していた少年野球の元チームメイトたちが当時大流行していた『テニスの王子様』ブームに乗って、こぞってテニスを始めていました。地元の中学校は公立としては珍しく、コートが3面もある硬式テニス部があったことも、この流れを後押ししていました。昔の仲間たちが楽しそうにラケットを振っているのを見て、私も誘われるようにテニス部に入部し、その後本格的にテニスにのめり込んでいきました。

ただ、いざテニスを始めると、格闘技のような必殺技が飛び交う『テニスの王子様』の世界を実現するためには、この狭い地球の物理法則だと難しいことにすぐに気付きました。むしろ現実の世界で本物の大男たちと泥まみれになって戦う同世代の錦織選手の方が何倍もリアルで、私はファンになり、錦織選手に関する報道やコラムをチェックするようになりました。特にテニスライターの内田暁さんの記事は毎回緻密で選手の心の内側に寄り添うような文章に惹かれ、以下錦織選手を特集した書籍も拝読させていただきました。

また、当時の錦織ファン=錦鯉(にしきごい)なら誰もが知る伝説のブログ「錦織圭を鼻血が出るまで応援し続けるブログ(通称:鼻血ブログ)」も私の日常の一部でした。時差のある海外ツアーを深夜や早朝にテレビやネットにかじりついて観戦しつつ、Xやブログの掲示板で実況を追いながら、18歳でのツアー優勝、全米オープン準優勝、そしてアジア人男子初の世界ランキング4位等の偉業にリアルタイムで触れられたことはファンとして幸せでした。

現在、私はとあるスタートアップで働いている1人のビジネスパーソンです。日々変化が激しい市場において、どうやって自社の提供する価値を社会に届け、勝ち筋を見出し、再現性を持たせるかを模索する毎日を送っています。そんな1人のビジネスパーソンの視点から、錦織選手のキャリアや戦術を改めて考えたとき、彼が残した軌跡は、単なるスポーツの感動ドラマにとどまらず、「資本力、技術力、ブランド力ですべてに勝る『プラットフォーマー(巨人)』に対し、私たちのような後発がいかにして風穴を開け、立ち位置を築くか」という、現代のビジネス戦略そのものであることに気づきました。

ここからは、一人の同世代ファンとして、そして日々現場で戦うビジネスパーソンの一人として、今シーズン限りでコートを去る錦織選手から学べる「3つのビジネスの勝ち筋」を自分なりの言葉で紐解いていきたいと思います。

前提 - プロテニスという市場の制約条件

まず、本題に入る前に、プロテニスという市場がどれほどシビアなレッドオーシャンで、そこで体格に劣る日本人がトップ層を長年維持し続けることがどれほど「異常な難易度」なのかを、ビジネス風味に整理させてください。

テニスは、一度コートに入れば一切の外部コーチングや援助を受けることができません(一部を除く)。すべてのショット、ポジショニング、戦術変更は、1ポイントごとに選手自身がリアルタイムで意思決定しなければならないため、ある意味で完全な「自己責任」のビジネスと言えます。また、その市場規模と競争構造は、一般的な産業と比較しても厳しい環境下にあります。

1. 10億人の巨大市場

テニスは世界で4番目にファンが多いスポーツであり、スポンサーや放映権の関連ビジネスを含めると非常に巨大な市場を形成しています。2020年には、サッカーやバスケのスター選手を軒並み抑え、テニスのロジャー・フェデラー選手が、Forbesが選ぶ世界で最も稼ぐスポーツ選手に選ばれました。

2. 1年で実績がリセットされるランキングシステム

プロテニスの世界ランキングシステムは、SaaSビジネスで言うところの「チャーンレート(解約率)が毎年100%になるサブスクリプションモデル」です。プロのランキングポイントは、過去1年間の大会成績で計算されます。つまり、「前年の全米オープンで準優勝して大きなポイントを獲得した」としても、1年後の同大会が始まるとそのポイントは消去され、ゼロとなります。 つまりランキングを上げるためには、前年に稼いだ実績と同等あるいはそれ以上の成果を毎年、毎週、コンスタントに生み出し続ける必要があります。

また、どれほど過去に素晴らしい実績を残したとしても、怪我で数ヶ月離脱すればポイントは失われ、ランキングは下がります。常に価値提供し続けなければ市場でのポジションを失うという、極めて厳格な評価システムな中、錦織選手は10年以上トップ100をキープし、最高4位まで上り詰めました。

錦織選手のランキング推移

3. 一発勝負のトーナメント方式

プロテニスの大会は毎週開催されます。そして、「一度負ければその週の挑戦が終わる」トーナメント方式です。 企業の事業計画のように「第1四半期の遅れを下期でじっくりリカバリーする」といった時間的猶予はありません。

毎週時差がある異なる国、異なる気候、異なるサーフェス(芝、クレー、ハード)に適応し、体調不良があろうがその日の目の前の相手に勝たなければその週での挑戦は終了となります。その結果次第で自身の収入が決まる世界であり、トップ100に入らなければ十分な生活はできないと言われています(以下の書籍に一般的なプロテニスプレイヤーの内情が描かれています)。

この厳しい制約条件の中、錦織選手はいかにして独自の「勝ち筋」を築き上げたのか。ここからはその具体的な戦術を紐解くと同時に、ビジネスに置き換えた際のエッセンスに関して自分なりの言葉で述べさせていただきます。

戦術①ドロップショットによる『引き算の意思決定』と『戦略的な揺さぶり』

錦織選手のプレーの中で、テニスファンを魅了し、同時に対戦相手を大いに揺さぶったのがネットの手前にボールを落とす「ドロップショット」です。

ここで、まずは長いラリーの中で放たれるドロップショットの妙技を実際の映像でご覧ください。緊迫した場面だからこそ、この意外性のあるショットが、どれほど効果的に作用するかがよくお分かりいただけるかと思います。

ただし、錦織選手の真骨頂は上記の映像では語りきれません。上記は(錦織選手が18歳の時に初めてプロテニスツアーの決勝に進み、当時世界12位だった格上相手選手に1セットダウンとリードされながらのショットなので)十分すごいのですが、極めつけはその後試合終盤に見せた以下ショットです。

これは先ほどのドロップショットを見せ玉とし、今回もドロップショットを打つと見せかけた上でフェイントを入れた後、ドロップショットの通常のコースであるコート前方ではなくあえてコート後方に流すことで相手の逆を突いてエースにしている超絶ショットです(司会者も"Wow!"と言うレベル)。

これらの戦術をビジネスに置き換えるとどのような意味になるでしょうか。 私は『引き算』と『揺さぶり』による競合優位性の確保だと捉えました。

1. 引き算の意思決定

現代のビジネスにおいて、多くのプレイヤーは「他社と同じ評価軸の上で、より速く、より多く、より強く」戦おうとしがちです。競合が広告予算を増やすなら自社も増やす。競合が機能を増やすなら自社も増やす。これらは同じ延長線上での「足し算の競争」であり、最終的には自社と競合の同質化が進み、レッドオーシャンになり、双方が疲弊する危険性をはらんでいます。

しかし錦織選手のドロップショットは言わば「引き算」です。 相手が「もっと強い球が来る、もっと深い球が来る」と予測して後ろに下がろうとするエネルギーを逆手に取り、ボールの勢いを消すドロップショットを打ちます。

これをビジネスの実例に置き換えてみましょう。 ある新興のSaaS企業が、業界大手のIT企業とある案件で競合しているとします。 大手企業は豊富な資金力を背景に「何でもできる多機能性、万全の24時間サポート、盤石な体制」をアピールしますが、これは大手が得意とする「深くて重いラリー」です。 ここで新興企業が大手企業と同じように「機能の多さ」等で勝負しようとすれば、リソースの差で大手には太刀打ちできず、敗戦濃厚となります。

ここで選択すべき「ドロップショット」の一例が、「あえて機能を極限まで削ぎ落とし、UI(操作画面)をシンプルな数個のボタンだけに絞ることで誰でもマニュアルなしで3秒で使えるようにしてサポートを不要とする」ような極端なシンプルさ(引き算)の提供です。相手が「機能の多さ(=導入のハードルの高さ)」という慣性で身構えているところに、まったく異なる「極限のシンプルさ」を提示する。これによって大手が得意とする土俵(激しい強打のラリー)での強さを無効化し、顧客の関心を惹きつけることができます。

2. 戦略的な揺さぶり

「ネットにかかったり、コースが甘く相手のチャンスボールとなるリスクのあるドロップショットを重要なポイントで選択することは無謀ではないか」と思われるかもしれません。しかしこれは以下の2点において優れています。

  • メンタルとフィジカルへのダメージ: ドロップショットによって相手が走らされて追いつけなかったり処理を誤った際、相手が受ける身体的及び心理的なダメージは、通常のラリーで奪われるよりも大きくます。また、このダメージにより相手が次のポイントでミスをする可能性も高まります。

  • 次の展開を有利にする布石: 一度精度の高いドロップショットを見せておくことで、相手は「また落とされるかもしれない」という警戒からポジションを一歩前に出さざるを得なくなります。その結果、本来の錦織選手の強みである深いストロークが通常よりも効果を発揮しやすくなります。

実際、前述の動画にて錦織選手は以下を通じて、優位性を確保しています。

  1. 精度の高いドロップショットを効果的に打つ。

  2. 以後ドロップショットの存在を相手に意識させることで、相手の足を一瞬前に向けさせ、通常の深いストローク戦での展開を圧倒的に有利にする。

  3. ドロップショットを打つとあからさまに見せかけて(ラケット面を上に向けてスライスを打つ構えをしておきながら)、フォアハンドの「ロングスライス」を深く滑らせ、相手の不意を突いて体勢を崩してエースを取る。

相手の視点としては、上記が成功すればするほどフィジカルとメンタルにダメージを受けつつ、「次はドロップか否か」を考えねばとマインドシェアも取られてしまい、自分のポジションをどこに置くべきか分からなくなります。

ビジネスでも同様です。「引き算」にて競合が敬遠するような個別のアプローチを導き出して土俵を分けた上で、ミスリードさせる「揺さぶり」をかけると競合は顧客が望んでいない=価値が薄い箇所にリソースを張ることに繋がります。これにより、自社に優位な状況を作り出すことが可能となります。

戦術②ポジションを上げて『相手の時間を減らして自身の余計な消耗を避ける』

キャリア後半、特に怪我を乗り越えてコートに復帰した時期の錦織選手は、自らのプレースタイルをより現在のパワーテニスに対抗する必要性に迫られていました。 年齢とともに変化するフィジカルのリソースを考慮し、彼が選択したのが、「ポジションを下げずにライジングでオープンコートに切り返し、相手から時間を奪いつつ自身の体力もセーブする」という戦略でした。

テニスにおける通常のストロークはバウンドしたボールが最も高くなった位置、あるいは少し落ちてくるところを打ちます。その方がボールの軌道を見極めやすく、コントロールもしやすいからです。 一方、ライジングはバウンドした直後の、まだ勢いがある上昇中の局面でボールを捉えます。当然、打点を合わせるタイミングは極めてシビアになるためミスが増えるデメリットがあります。一方で、相手視点では通常より早くボールが帰ってくるため攻撃力を高めることができること、また自分視点では上下左右の走行距離がセーブできる=体力温存が可能というメリットがある、諸刃の剣の戦術です。

錦織選手はこの技術を突き詰め、ポジションを下げずにベースライン近くにとどまり続けました。これがもたらすビジネス上のメリットは本質的です。

1. 2014年全米、錦織選手が支配した時間と体力

上記の戦術が最も噛み合って成果に繋がった時が2014年の全米オープンでした。怪我からの復帰明けであれよあれよと勝ち上がり、準々決勝のスタン・ワウリンカ戦、準決勝のノバク・ジョコビッチ戦の時、日本のファンはその1ポイントに感嘆しつつ、時差の関係上、寝不足に陥る2週間がありました。

当時、ワウリンカ選手もジョコビッチ選手も、ツアー最高峰の破壊力を持つストロークを誇っていました。普通なら、彼らの放つ重い打球に対しては、一歩後ろに下がって時間を稼ぎながら打ち返すのがセオリーです。しかし、錦織選手は下がりませんでした。あえてベースラインの内側に留まり、相手の放つ超高速の打球がバウンドした瞬間、まさに「上がり際」を捕らえて、パン、パン、とフラットドライブで左右に鋭く切り返していったのです。

画面の向こうの王者たちが、錦織選手の返球の「あまりの早さ」に、次のポジションに戻れず焦り、タイミングを狂わせてミスを重ねていく。あの一歩も引かないポジショニングによって、錦織選手は走らされる距離を最小限に抑え、体力を効率的にセーブしながら対戦相手の時間を徹底的に奪い去っていきました。 あの時、テニスファンが目撃したのは単なるショットの正確さではなく、時間と体力を高度にコントロールする知的な戦略の極致でした。

2. ビジネスにおける「ライジング」=「意思決定と即応のスピード」

この時間と体力の支配は、日々の仕事にそのまま当てはまります。ビジネスにおいて、最も公平且つ最も希少なリソースは「時間」です。 顧客からの要望、取引先からのメール、社内のメンバーからの相談。これらに対して、「後でまとめて返信しよう」、「じっくり会議を重ねてから決めよう」とベースラインを下げて後ろに下がっていては主導権を握ることは非常に難しいです。

優れたビジネスパーソンが実践している「ライジング」とは、「ボールがバウンドした瞬間(=タスクやメールが手元に届いた瞬間)に、その場ですぐに打ち返す」という即応性です。私たちが日々取り組む日常のタスク管理やプロジェクトの進行でも、まったく同じことが言えます。 メール、チャット、社内SNSなど、コミュニケーションのツールが進化し、やり取りのスピード自体がビジネスの成否を分ける現代において、返信やアクションのスピードは信頼関係に直結します。「後でまとめて対応しよう」とポジションを下げて後ろに下がっていては、すぐに他社や競合に主導権を奪われてしまいます。

例えば、顧客からの問い合わせに対して、完璧な回答を用意するのに3日かけるよりも、まずは「ご連絡ありがとうございます。ただいま確認しておりますので、本日17時までに一度進捗をご報告します」と、届いた瞬間の上がり際を叩くように3分で一次返信を返す。 この一打によって顧客の「待たされている、どうなっているのだろう」という不安や焦り(相手にとっての無駄な時間)を解消し、後で対応することによる体力の消耗を避けられます。そういえば、そのようなツールを自社で販売していました(そういえば)。

戦術③フルセットマッチ勝率歴代1位 - 『感情のリセット』と『課題への集中』

錦織圭選手の実績を語る上で、極めて重要な客観的データが存在します。 それは、「フルセット(テニスにおける試合の勝敗を決める最終セット)における勝率が、テニス界の歴代のレジェンドたちを抑えて、長年にわたり世界1位であった」というファクトです。テニスのトップ選手は190cm台が多く、178cmと体格的にハンデがある錦織選手が、肉体的・精神的な限界に達する最終セットで、なぜこれほど安定して勝ち星を重ねることができたのでしょうか。 ここには、変化が激しくストレスの多い現代社会を生きるビジネスパーソンにも有益なレジリエンス(精神的な回復力)のヒントがあります。

1. 感情のリセット力(デトックス)

5セットマッチのテニスは、時には5時間を超えたり、数日を跨ぐ長丁場にもなります。 その間、思い通りのショットが打てなかったり、不運なイレギュラーバウンドに泣かされたり、雨による試合中断があったり、審判の判定に納得いかなかったり等、フラストレーションが溜まる場面は必ず訪れます。

そんな中、錦織選手の振る舞いを見ていると、驚くほど「気持ちの切り替え」が早いことに気づきます。 ミスショットに対して悔しそうな表情を見せた次の瞬間には、すでに次のポイントに向けてラケットのストリングを手で整えたり、タオルで顔を拭ったりして「いつものルーティン」に入っています。 彼は生じた感情を無理やり無かったことにしようとするのではなく、「その場ですぐに受け流してクリアにする」技術を身につけていました。

ビジネスの現場も、予想外のトラブルの連続です。 「入念に準備した提案が通らなかった」、「大口のクライアントの体制が変わって白紙に戻った」、「チームメンバーが急に離脱してしまった」 等、こうした際、生じたショックを長く引きずってしまうと、次の瞬間に必要な判断力を鈍らせてしまいます。

錦織選手が教えてくれるのは、「終わったポイントは、『固定数(変えられないもの)』として扱うべきである」という冷徹な事実です。「あの時に別の判断をしていれば」という後悔は、次のプロジェクトの設計や、次の商談に挑む際の余計なノイズに過ぎません。 感情を静かにリセットし、今目の前にある「次のサービス『変数(これから変えられるもの)』」に全神経を集中させる。この切り替えの美学こそが、彼の圧倒的な勝率のベースにありました。

2. 結果を棚上げし、今後のプロセスへ集中する

男子シングルスグランドスラム最年少優勝(17歳3ヶ月)の記録を持つレジェンドのマイケル・チャンコーチが錦織選手の指導を始めた際、メンタルや戦術は勿論ですが、打ち方に関して反復練習を繰り返したと言われています。

確かに錦織選手とマイケルは、打ち方に関して結構、反復練習をしていますね。例えば、ボールへの入り方、つまり打点に入る際の足の動かし方であったり、ショットを打つときの体の使い方というような基本をしっかりやっています。マイケルが実際にデモンストレーションをしてみせて、「脚(下半身)からのパワーで打っていくんだ」みたいな指導をしている場面もありました。もっと体で、すなわち体幹を使って打つということをよく練習していることが見て取れます。

錦織選手が取り組む「反復練習」とは? 杉山愛コラム「愛’s EYE」

これは、ビジネスで言うところの「コントロール可能なプロセスへの集中」を意味します。「今期の高い目標数値をどうしても達成しなければならない」という、自分だけの意志ではコントロールしきれない「結果」ばかりを見つめていると、人はそのプレッシャーによって視野が狭くなり、本来の力を発揮できなくなります。 錦織選手がフルセットの緊迫した場面で実践していたのは、「勝つこと」を焦るのではなく、「次のボールを、どのコースに、どのような回転で打ち返すか」という、極めて具体的で、100%自分自身の手でコントロールできる「アクション」への分解でした(と推測しています)。

ビジネスにおいても、プレッシャーに押しつぶされそうになったときこそ、大きな目標をいったん横に置き、プロセスを細分化することが有効です。 「今日中に、この重要顧客3社に丁寧な進捗の連絡を入れる」、 「このプレゼン資料の要旨となる3枚の構成案を、今から2時間集中して作り上げる」等、 自らの意思で100%コントロールできるタスクに細分化し、そこに意識を没入させる。その丁寧なプロセスの集積が、結果として「目標達成」という成果を引き寄せるため、まずは目の前のプロセスに集中することが重要です。
そういえば、そのような新機能を自社で提供していました(そういえば)。

おわりに

2026年シーズンをもって、錦織選手はコートを去ります。 あの、スタジアムを一瞬にして沸かせるダイナミックな「エア・ケイ」も、相手を翻弄する芸術的なドロップショットも、もう新しく生で見ることはできなくなります。

しかし、彼が世界のトッププレイヤーたちと互角に渡り合い、記録と記憶に残してくれた数々の戦術は一人のテニスファンとして布教したいと思い、ビジネスに絡めてつれづれに筆をとってみました(要するにただの偏愛です)。

最後に、錦織選手のベストショット集を持って記事を締めさせて頂きます。


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