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〜第2章〜 新ボーカリストへの道 (4)最後の「ひとり」の挫折



無名の若者

こうして10月の中旬以降に、ようやくひとりだけ、オーディションを通過して、次のステップに進んだ人物がいました。その名をミック・ストリックランド(Mick Strickland)と言います。(*1)

We thought Mick Strickland had the right kind of bluesy voice for us and he also had a low enough profile to be able to slot into the band. We knew it would have been even more difficult if we were bringing in an image as well as a new face.
ミック・ストリックランドの声は、自分たちに合うブルージーな声だと思ってたし、彼はバンドに溶け込めるような、十分に目立たない存在でもあった。新しい顔に加えて「イメージ」まで持ち込むことになれば、さらに難しくなるのは分かっていたからね。

The Living Years / Mike Rutherford

スティーブ・ハケットがニュー・ミュージカル・エクスプレスの10月25日号の記事で「検討中の人」とコメントしたのが、このミック・ストリックランドのことだと思われます。彼が言うように、ミックは Witches Brew という当時全く知られていなかったバンドのボーカリストだったのです。

We go into Trident with a new co-producer, Dave Hentschel, and record at a cracking pace.
新しい共同プロデューサー、デイヴ・ヘンチェルを迎えてトライデントに入り、バリバリにレコーディングしたよ。

Not Dead Yet / Phil Collins

スティーブ・ハケットへのこの記事の取材は、10月中旬頃のはずでして、彼らはその前後から、ロンドンのトライデントスタジオに入り、バックトラックのレコーディングをはじめていたのです。

彼らはリハーサルで自信の楽曲ができて、そのままの勢いでレコーディングに入ったのでしょう。


残念な結果…

そして、ミック・ストリックランドをトライデントスタジオに呼んで、作ったばかりのバックトラックに歌を録音したのですが…

We give him “Squonk” to sing. The very first line of that vocal is a bitch: “Like father, like son...” We don’t ask his key or his range. We just give it to him. Take it away...
僕らは彼に Squonk を歌わせてみた。そのボーカルの最初の一行は、とんでもなく難しい “Like father, like son...” だ。彼のキーも声域も聞かずに、ただ曲を渡して「さあ、やってみろ」と。

Not Dead Yet / Phil Collins

Collins: "He'd made it through those audition processes and sort of arrived. But we weren't even thinking about keys for singers, such was our 'con-tempt' for the vocals; we just laid down all the backing tracks and invited this guy in to sing. Squonk was the first one and it was plainly in the wrong key for the guy. There was no way he was going to sound good."
コリンズ:「彼はオーディションを通過して、まあ、たどり着いた感じだった。でも僕らは、キーを歌手に合わせるなんてことはまったく考えてなかったんだ。それだけボーカルに対する無関心というか、軽視があったんだろうね。バッキングトラックを全部先に録ってから、彼を呼んで歌わせたんだよ。最初に試したのが Squonk で、彼には明らかにキーが合ってなかった。あれじゃ、どんなに頑張っても良い声には聴こえなかったよ」

GENESIS 1975 to 2025: The Phil Collins Years / Mario Giammetti


Banks: "We'd recorded the whole album by the time we tried him and the poor guy was screaming his way through the whole thing. I wasn't actually there because I was off sick that day. I came in the next day and thought it was awful, though I felt sorry for the guy, because he had a good voice, but it was so wrong for the way we'd done it." 5)
バンクス:「彼を試したときには、もうアルバム全体を録り終えてたんだ。で、その可哀そうな彼は、全て叫ぶように歌うしかなかった。実は僕はその日、体調を崩しててスタジオにいなかったんだけど、翌日に来てみたら『これはひどい』って思ったよ。もちろん彼には同情したよ、声は良かったからね。でも、僕たちが作った音の雰囲気とはまるで合ってなかったんだ」

GENESIS 1975 to 2025: The Phil Collins Years / Mario Giammetti

フィルもトニーも、ストリックランドを最後にスタジオに呼んだ時には、すでに全バックトラックの録音を終えていたと証言しています。だとすれば、ストリックランドは Squonk 以外の曲も何曲か歌っていたのだと思いますが、やはりひとつも上手く行かなかったのだということですね。そして、この最後のレコーディングは10月末〜11月に入ってすぐくらいの時期であり、ストリックランドをピックアップした後は、もうオーディションを行っていなかったのだと思われます。彼らとしても、本当に最後の最後の候補者のつもりで挑んだのに、まさかの結果に終わってしまったということだと思います。

こうして、いよいよ手詰まりとなってしまったわけです。そして最後の最後、ついにフィル・コリンズが Squonk を試してみることになるのです。

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*1:フィル・コリンズの自伝、マイク・ラザフォードの自伝、その他ほとんどのWeb記事で、この最終候補者はミック・ストリックランド(Mick Strickland)と記述されている。一方、GENESIS 1975 to 2025: The Phil Collins Years の中で著者 Mario Giammetti は、ミック・スティックランド(Mick Stickland)が正しいと主張している(残念ながらその根拠は示されていない)。どちらが正しいのか判断できないので、ここでは多くの資料と同じ表記を採用した。ちなみに、DiscogsにはMick Strickland(Witches Brew)名義のページが存在するが、同じページに続いて、Real Name:Michael Stickland と記述されている。


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