〜第2章〜 新ボーカリストへの道 (6)ツアーボーカリスト?
ライブで歌うのは誰?
こうして、1975年11月のうちに、フィル・コリンズがボーカリストとして全ての曲を録音して、アルバム A Trick of the Tail は完成するわけです
ところが、レコーディングを終えた後、次のツアーに向けてどうするのか、フィルの気持ちはまだ揺れていました。
PHIL: Before we took Trick Of The Tail out on the road, we made another half-hearted attempt to find a singer. I'm not sure we even auditioned anybody, just wondered if there was someone we might have overlooked.
フィル: Trick Of The Tailのツアーに出る前に、またもや中途半端な気持ちでシンガーを探したんだよ。オーディションをしたわけでもなく、誰か見落としている人がいるんじゃないかと思っただけなんだけどね。
レコーディングは上手くいったとはいえ、次にステージで自分がメインで歌うには、ドラムの椅子を離れなければならないわけです。これについて、やはりフィルには相当な抵抗があったのです。ラザフォードもこう回想します。
The singing was one thing but the real issue in my mind was whether Phil would contemplate leaving the kit: being the front man definitely wasn’t a promotion as far as he was concerned. Drummers generally tend to think singers are the icing on the cake, and not quite the same calibre of musician as everybody else in the band.
歌のことはともかく、僕の中で本当に気がかりだったのは、フィルがドラムセットを離れることを考えるかどうかだったね。彼にとって、フロントマンになることは決して昇進ではないからね。ドラマーという人種は、一般的にボーカリストをケーキの飾りのような存在と見ていて、バンド内の他のメンバーと同じレベルのミュージシャンではないと考えがちなんだ。
フィル本人も、このことは認めているのです。
In fact, and I've said this before, I didn't like singers; all the singer had to do was just stand there and sing 'ooohh babe', you know. I just didn't take it seriously. So, for me, the real musician's gig was behind the drums.
それに実のところ、前にも言ったことがあるけど、僕は歌手ってやつがあまり好きじゃなかった。だって歌手って、ただ立って「オー、ベイビー」って歌ってればいいだけでしょ? 僕にはあれが真剣な仕事には思えなかった。だから、僕にとって本物のミュージシャンの居場所は、やっぱりドラムの後ろだったんだよ。
ビル・ブルーフォードの後押し
ここで、ビル・ブルーフォードが登場します。以下はブルーフォードの回想です。
I was rehearsing with Brand X and Phil was moaning away about Peter Gabriel leaving. Evidently, they had been trying out various singers and he was exasperated by wading through the auditions. He said something like, ‘They're all bloody useless. I can sing better than they can,’ as people do. And I think I suggested to him, ‘Why don’t you sing and Ill play the drums for a while, so you can get yourself comfortable.’
僕が Brand X とリハーサルをしていたとき、フィルはピーター・ガブリエルの脱退を嘆いていたよ。どうやら、いろんなシンガーを試していたようで、彼はオーディションに付き合うのにうんざりしていたね。フィルは、「役立たずばかりだ。俺の方がうまく歌えるんだ」なんて言ってたよ。それで、「きみが歌ったらいいじゃないか。そしたらしばらくは僕がドラムを叩くから。それなら気楽に試せるだろう」と彼に提案したんだ。
このコメントは、最初にフィルが歌手としてレコーディングに向かうときにビルが背中を押したことのようにも読めるのですが、ビルと Brand X のセッションの時期を考えると、これは間違いなく、ツアーボーカリストに対してのコメントなのです。
ビル・ブルーフォードが Brand X のセッションに参加したのは、過去2回だけです。初回は、まだフィル・コリンズが在籍していなかった時期で、このセッション後にビルが Brand X 参加を断ったために、代わりにフィル・コリンズが加入することになるわけです。この後、75年9〜10月にフィルを含む4人のメンバーで Brand X は 1st アルバムのレコーディングを行い、その後12月にデビューギグを行うことになります。そのため11月中にBrand Xがリハーサルを開始します。当然このリハーサルにはフィル・コリンズが参加していましたが、ビル・ブルーフォードは、このときフィル・コリンズから声をかけられてパーカッションとして参加しているわけです。この、11月のリハーサル時の、「きみが歌ったらいいじゃないか。そしたらしばらくは僕がドラムを叩くから。それなら気楽に試せるだろう」というコメントは、明らかに「アンタがツアーでも歌いなよ」という勧めであると同時に、自分をツアードラマーとして売り込むものでもあったのです。
その後、12月のBrand Xのデビューギグは5回ほど小さな会場で行われましたが、このギグにブルーフォードが参加した形跡はみられません。(*1) リハーサルにパーカッションとして参加しているはずなのですが、何故か本番には出ておらず、結局ジェネシスのツアードラマーの仕事だけゲットしたわけです。ビルは、ちょうど Gong や National Health と共演していた時期でもあり、キング・クリムゾン解散後、他にあまり大きな仕事が無かった彼は、こうしてジェネシスの「話題」の新譜のツアードラマーの座を「週給500£」という当時破格のギャラ(本人談)でゲットするわけです。
格上ミュージシャン
実はブルーフォードは、イエス、キング・クリムゾン時代に、ジェネシスのことをこう見ていたと語っています。
I think everybody in Yes and King Crimson thought that Genesis would never make it because they sounded like a combination of the two groups. We thought they might be too late — we'd been there and done it. We saw them along the lines of ‘Genesis are quite fun, but they've got a guitarist who sits down like Robert Fripp and a drummer who plays a bit like Bill: the Americans have already had that...’
イエスとキングクリムゾンのメンバーは皆、ジェネシスは成功しないだろうと思っていた。彼らのサウンドは両バンドの組み合わせのように聞こえてたんだ。僕らから見て、彼らは遅すぎるんじゃないかと思っていたんだ。だって僕らがすでにそこにいて、それをやり遂げてたんだからね。だから彼らをこんな風に見てた。「ジェネシスはなかなか面白いけど、ロバート・フリップみたいな座ってるギタリストと、ちょっとビルっぽい演奏をするドラマーがいる。でもアメリカのファンには、もうそういうバンドがいる...」とね。
これには、ビルも「大間違いだよな。オレたちは傲慢だった」みたいなフォローをしているのですが、やはりジェネシスより「格上」という意識があったのは間違いないところでしょう。これは、イエスのアメリカでの人気が、当時のジェネシスを遙かに上回るものだった事などから来ているのだと思います。
そして、その印象は、トニー・バンクスやマイク・ラザフォードも共有していたのです。ツアーにビル・ブルーフォードが帯同してくれるという話をフィル・コリンズから聞いた彼らは、一も二もなくこれに賛成するのです。彼らにとってみても、ビル・ブルーフォードというミュージシャンは、彼目当てにライブにやって来る観客がいるほどのスターであり、そんな彼がツアーに参加してくれるということは、安心材料のひとつだと感じていたわけです。
Banks: "We were lucky that Bill came out on that first tour as he was a bit of a star and a lot of the Genesis audience liked him from his Yes days."
バンクス:「僕らは幸運だった。ビルが最初のツアーに参加してくれたからだ。彼は少しスター気質で、ジェネシスのファンは彼のイエス時代の活躍を覚えていたから、彼を気に入っていたんだ」
こうして、フィルは、ステージでもメインボーカルを務めることになり、歌の合間にツインドラムとなるという、あの独自のステージスタイルが生まれたわけです。
ただ、この「格上」ビル・ブルーフォードは、やっぱりジェネシスになじむタイプのドラマーではなかったのです。いざ、ツアーに向けたリハーサルをはじめたとたん、ギクシャクしてしまうのですが、その話はまた後ほど(^^)
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【注釈】
*1:Brand Xの初公演は、1975年12月5日、ロンドンの School of Economics で行われた。6日は St. Al-ban's City Hall とされている。その後12月下旬に3回公演したという記録がある。
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