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〜第2章〜 新ボーカリストへの道 (7)ボーカリスト決定のアナウンス



12月6日号の音楽雑誌:Brand X

こうして1975年11月末には、フィル・コリンズがジェネシスの新ボーカリストとなり、さらにビル・ブルーフォードがツアーに参加することも決まったわけです。ところが、当時のメディアは、あまり華々しくこれを伝えていないようなのです。

以下の記事は、ニュー・ミュージカル・エクスプレス(NME)の12月6日号で、フィル・コリンズが参加したBrand Xがギグを行うという記事なのですが、この中におや?という事が書いてあります。

BRAND X:Genesis drummer debuts new group / New Musical Express 6th Dec.1975

The participation of drummer Collins in this outfit does not mean that Genesis have broken up, but simply that they are mainly inactive while they are deciding whether or not to replace Peter Gabriel in the line-up.
They have already recorded the greater part of a new album, without Gabriel and with Collins taking most of the vocals, and it could be that they will continue to operate in this manner without taking on a new member. An announcement regarding their final decision is expected shortly.
ドラマーのコリンズがこのバンドに参加したからといって、ジェネシスが解散したわけではない。単に、ピーター・ガブリエルの後任を誰にするかを決めかねている間、バンドは主に活動休止状態にあるだけだ。
彼らはすでに、ガブリエル抜きで、コリンズがほとんどのボーカルを担当する新アルバムの大部分を録音しており、新メンバーを迎え入れずにこのスタイルで活動を続ける可能性もある。最終的な決定に関する発表はまもなく行われる見通しだ。

BRAND X : Genesis drummer debuts new group / New Musical Express 6th Dec.1975

12月6日号の記事の段階で、「コリンズがほとんどのボーカルを担当する新アルバムの大部分を録音」していることは報じながら、「新メンバーを迎え入れずにこのスタイルで活動を続ける可能性もある」とか、まだぼかした状態で報じられているわけです。この時点では、まだオフィシャルが正式なアナウンスをしていなかったことがわかります。

では、この「まもなく行われる見通し」という正式なアナウンスがいつのことなのかを調べたのですが、これがどうもよくわからないのです。


12月6日号の音楽雑誌:ピーター・ガブリエル

同じく12月6日号のメロディ・メイカーには、クリス・ウェルチの記事で、ピーター・ガブリエルの単独インタビューが掲載されています。

GABRIEL TELLS ALL! / Melody Maker 6th Dec 1975

この記事に以下の記述があります。

But Genesis have re-emerged. Drummer Phil Collins has taken over vocals, at least until they can find a new singer.
しかしジェネシスは再起した。ドラマーのフィル・コリンズが、少なくとも新しいボーカリストが見つかるまでは、ボーカルを引き継いだ。

GABRIEL TELLS ALL! / Melody Maker 6th Dec 1975

NMEより明らかにジェネシスのオフィシャルとも近いはずのメロディ・メイカーにして、まだこういう言い方なのです。ここでも、フィル・コリンズは、仮のボーカリストで、この後新しいボーカリストが見つかったら、スイッチするみたいなニュアンスで書かれています。

ちなみに、このピーター・ガブリエルのインタビューは、例の脱退声明以降、初めてクリス・ウェルチがものにした単独インタビューでして、その後もいろいろ引用されている有名な記事です。改めて読んでみると、かなり意味不明なことをピーターが言いまくってる印象がありますが、この時点でピーターは自身の音楽活動再開を明言していて、そういう価値のある記事です。そして、ここでピーターはジェネシスの新譜を聴いていることを明らかにしているのです。

"I've been to hear some of their new albums at Trident Studios and it sounds much better than I've heard them before — much cleaner."
「トライデント・スタジオに行って、彼らの新しいアルバムを聴いたよ。これまでの中で一番良い音だった — ずっとクリーンになっていたね」

"In fact my absence has given them new found energy."
「実際、僕がいないことが、彼らに新しいエネルギーを与えたんだよ」

GABRIEL TELLS ALL! / Melody Maker 6th Dec1975

当然、フィル・コリンズが歌っている曲を聞いているはずなのですが、その点はあまり強調されていません。

これはわたしの印象に過ぎませんが、ジェネシスの古くからの理解者として有名な、クリス・ウェルチというジャーナリストこそ、「ジェネシスはピーター・ガブリエルのワンマンバンド」という意識の人物だったのではないかと感じるんです。というのは、このインタビューの前にジェネシスのリハーサルなどを取材しているのは、メロディ・メイカーの別の記者でして、彼は残りのメンバーのやっていることに、あまり興味が無かったのではないかと思えるのです。この記事の中に、ピーターの言葉としてではありますが、残ったメンバーのことを「あの惨めなろくでなしども」(miserable b---- 記事では伏せ字になっている)とか書いているのです。この時点でウェルチは、新ジェネシスのリハーサルも取材していないし、フィルの歌も聴いていなかったのではないかと思えるのです。

そして、12月27日号のニュー・ミュージカル・エクスプレスが、ピーター・ガブリエルのインタビューで続きます。

Peter Gabriel cleans up his act / New Musical Express 27th Dec.1975

ジェネシスに一貫して批判的だったNMEですが、この記事も、ピーター・ガブリエルを小馬鹿にしたような内容が酷いです。もともとそういう芸風の雑誌なので、相変わらずではあるのですが、ここでピーターはこう言っています。

"From what I've heard there's some good stuff going on, far better recorded than before. I never felt we captured our live energy on record."
"I think they're overcompensating for me by doing fewer instrumental passages which isn't the best idea though I'll probably be slammed for saying so. As long as Phil (Collins) does the singing it'll be alright, he sings a lot like me."
「僕が聴いた限りでは良い作品が生まれている、以前よりもずっと録音がいいんだ。僕はいつも、僕らのライブのエネルギーをレコードに捉えられていないと感じてたからね」
「彼らは、僕がいなくなったことを過剰に補おうとして、インストゥルメンタルのパッセージを減らしているようなんだが、それは最善のアイデアではないと思うね、そう言うと非難されるかもしれないけどね。でも、フィル(コリンズ)が歌っている限りは大丈夫だろう。彼は僕にとても似た歌い方をするからね」

Peter Gabriel cleans up his act / New Musical Express 27th Dec.

12月末になって、少しトーンが変わったような気がしますね。このままずっとフィルがボーカルで行くということが、何となくコンセンサスになっているような気もするのです。以前も紹介した7月27日号のメロディ・メイカーで、すでにフィル・コリンズがリハーサルで歌いまくっているという記事が書かれているわけで、その後10月にはスティーブのソロ Voyage of the Acolyte がリリースされ、ここでもフィルは普通にボーカルをつとめているわけです。こういう流れの中、どの音楽雑誌にも「ジェネシスの新ボーカリストはフィル・コリンズに決定!」という記事が華々しく書かれたわけではないようなのです。この時期、業界関係者やファンの間で、何となく「やっぱりフィル・コリンズがボーカルやるんだろ」的な話が徐々に人々の共通理解になっていったという感じだったのかもしれません。

実は50年前、遠い日本で The Lamb Lies Down on Broadway にハマリ狂っていた高校生のわたしは、ピーター・ガブリエルの脱退報道に心底がっかりして、その後「音楽専科」(多分…)の3行情報で「後任ボーカリストはフィル・コリンズ」というニュースにふれて、絶句するわけです。日本のように遠い海外では、こういう情報の伝わり方だったので、より衝撃が大きかったわけですが、本国イギリスでは、なんとなく、「やっぱりフィル・コリンズなんだ…」的な感じがじわじわと広がっていっただけだったのかもしれません。


クリス・ウェルチの絶賛

そして翌年の1976年になって、2月7日号のメロディ・メイカーに、Genesis re-born と題した記事が掲載されます。これがニューアルバムのレビュー記事です。

Genesis re-born / Melody Maker 7th Feb. 1976

これもクリス・ウェルチの署名記事です。ここに至って、ついに彼もフィルが歌ったニューアルバムを絶賛するのでした。

They still sound like Genesis. With Phil Collins taking the lead, the vocal sound has not altered radically. Phil sang a lot of lead and harmony parts before anyway, so his vocal style is very familiar.
彼らは今でもジェネシスのように聞こえる。フィル・コリンズがリードを取っているため、ボーカルサウンドは根本的に変わっていない。フィルはもともとリードやハーモニーパートを多く歌っていたので、彼のボーカルスタイルはとても親しみやすい。

Whether this album will have the lasting appeal and impact of earlier classics like "Foxtrot," time will tell, but from first impressions this is certainly one of the best recorded and produced works to bear the Genesis seal of quality.
このアルバムが「フォックストロット」のような初期の名作に匹敵する永続的な魅力と影響力を持つかどうかは、時が証明するだろう。しかし第一印象では、これは確かにジェネシスブランドの高品質の作品の中で、最も優れた録音とプロデュースが施された作品のひとつである。

Now we must see how they make out on the concert platform. In their present mood of confidence, it seems unlikely they will have any problems. — c.w.
さて、彼らがコンサート・プラットフォームでどう活躍するかを見届けねばならない。現在の自信に満ちた様子からすれば、問題が生じる可能性は低そうだ。 — c.w.

Genesis re-born / Melody Maker 7th Feb. 1976

そして、この記事の約1週間後、1976年2月13日にアルバムはイギリスで発売されるわけです。ただ、この時点では、ツアーのスケジュールや、ビル・ブルーフォードが参加することも、まだアナウンスされていなかったようです。


ビル・ブルーフォード参加のアナウンス

その後、ブルーフォードの参加を報じた記事で確認できる一番最初のものは、3月13日号のメロディ・メイカーです。

BRUFORD JOINS GENESIS / Melody Maker 13th Mar. 1976

ここでは、4月から5月の北米公演、その後6月〜7月にヨーロッパ公演という予定も書かれていますので、この頃ツアーの詳細が公式アナウンスされたのだと思われます。

"We'd like to do some provincial dates later in the year but first we must consider recording another LP," said Collins.
コリンズは、「今年後半には地方でも公演を行いたいと思ってるけど、まずは次のアルバムのレコーディングを検討しなけりゃね」と述べている。

BRUFORD JOINS GENESIS / Melody Maker 13th Mar. 1976

記事はこんなフィル・コリンズのコメントで締めくくられていますが、この段階でもう次のアルバムに言及するなど、ここまで来て、メンバーはみな、かなり自信をもちはじめていたのではないかと思うのです。

こうして、ピーター・ガブリエルの脱退というバンド崩壊の危機を、誰の手も借りず残った自分たちだけで乗り越えたメンバーは、次にビル・ブルーフォードの助けをかりて、何もかも初めてづくしのツアーに向かうことになるのです。

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