2025年5月21日 長野県で突風による列車事故と東日本の高温
2025年の梅雨入りは沖縄や奄美より先に、九州南部が5月16日に梅雨入りしました。例年より2週間ほど早く、沖縄・奄美を飛び越えての梅雨入りとなったため、季節の進み方に違和感を覚えた方も多かったのではないでしょうか。その後、19日に奄美、22日に沖縄と北から南への梅雨入りとなりました。

そうした中、5月21日の天気図は、あまり見慣れない特徴的なものとなっています(図1参照)。日本には東西にのびる2つの停滞前線(南側が梅雨前線)がかかり、これら前線に挟まれたエリアでは気圧の傾きが小さくなっているのが特徴的です。
このエリアでは、次のような突風被害や異常高温が観測されました。
・長野県で突風により金属製パイプの小屋と列車が接触。乗客3名が死傷。
・岐阜県飛騨市神岡(標高455m)で最高気温35.0度を観測。5月の猛暑日。
・茨城県つくば市館野では、9時の高層ゾンデ観測において、850hPa(およそ高度1500m)で気温22.7度を記録。5月としての最高気温の記録を更新。
この災害と高温の記録がどのような気象状況で起こったのか、関連があるのか見ていきましょう。
突風被害をもたらせた対流雲域
レーダー観測と対流雲域の動向
突風被害の要因となり得る、積乱雲や積雲からなる対流雲域の状況を把握するため、図2には14時から22時までの時間帯におけるレーダー観測による降水強度の分布を動画で示しています。図中の赤い × 印は、列車事故の発生地点に近い長野県・長野電鉄日野駅の位置を表しています。
また、図3にはこの期間内における最大エコー強度および最大エコー頂高度の分布を示し、対流雲域の活動がどの程度強かったかを把握できるようにしています。図4では、対流雲域の盛衰の経過を地形図上に簡潔にまとめ、時間的な変化を視覚的に示しています。
15時頃、長野県と岐阜県の県境にある野麦峠付近で積雲による降水エコーが発生しました。この雲域は発達と衰弱を繰り返しながら北東方向へ移動し、16時20分頃からは雲域の一部が急速に発達、組織化し、エコー頂高度は12kmに達しました。
この組織化した積乱雲からなる雲域は、継続的に強いエコー強度とエコー頂高度を維持して、17時20分から17時50分頃にかけて、事故が発生した地点を通過しています。さらに北東へ進み、19時50分頃に新潟県南魚沼市付近を通過した後は、移動方向を若干東よりに変えて、衰弱傾向がみられます。そして、新潟県と福島県の県境付近に達した21時過ぎには、エコーはかなり弱まり、やがて消滅しました。

期間は 2025年5月21日14時から22時。
赤のX印は、長野県日野駅付近を示す

期間:2025年5月21日14時から22時
地形図のカラーについては図5を参照

期間:2025年5月21日14時から22時
地形図のカラーについては図5を参照

日野駅付近で突風による列車事故が発生
対流雲域が発達した要因
突風害をもたらせた対流雲域は、地形図と合わせてみると、発達、組織化し始めた16時20分際には、千曲川沿いの標高の低い地域(千曲市付近)に達していたことがわかります。この地形の変化が、対流雲の発達や組織化に寄与した可能性があります。
たとえば、積乱雲が標高の高い地域から谷筋へと移動する際には、次のような現象により対流雲の発達や組織化が促されることがあります。
地上気温低下に伴う収束強化による組織化:積乱雲からの降水が谷筋の比較的乾いた空気と接すると、蒸発による冷却によって冷たく重い空気が形成されます。この空気が谷に沿って流れ出すと、相対的に暖かい周囲の空気との間で地上付近に収束が生じます。(谷筋でなくても同様に、冷たい空気が地表付近に広がることで温度差に起因する収束が形成されることがあり、このような気温差を伴う収束線はガストフロントと呼ばれます。ガストフロントが通過する際には、風向や風速が急変し、突風が発生することがあります。)それが上昇流を生んで新たな積乱雲の発生につながる場合があります。また、この冷たく重い空気には下向きの力が働くため強い下降流を生み出します。これが地面に到達すると発散して周囲に吹き出し、地表ではダウンバーストと呼ばれる突風が発生します。
高温多湿な空気層の取り込み:谷筋に湿度が高く気温も高い気層が存在する場合、積乱雲が山地から谷筋に近づくと、急に雲底の下にエネルギーの高い空気が現れることになります。積乱雲がこの気層の温かく湿った空気を取り込むと、雲底が低下し上昇流が強化されて、積乱雲はさらに発達します。
層構造の複合的な効果:さらに、谷筋の空気層の上部が高温かつ湿潤で、下部が乾燥しているような層構造が存在する場合には、上記の2つの効果が同時に作用し、積乱雲の急速な発達や組織化をもたらす可能性があります。
対流雲が組織化し始めた頃の下層の気象状況を、気象庁メソモデルの解析を用いて確認します。モデルの解析値は3時間ごとに提供されていて、ここでは5月21日15時のデータを使用します。図6には、高度およそ800mに相当する925hPa面の気温・露点温度(値が大きいほど湿潤)・風向風速を示しています。なお、灰色で塗られた部分は標高800m以上の地形を示しており、この領域と重なる等値線や風ベクトルは、あくまで見かけの値であるため、解釈には注意が必要です。
この図からは、次のような特徴が読み取れます。まず、対流雲域が通過した事故の発生地点の南西側には、5月にもかかわらず気温30度以上の高温域が広がっています。一方、千曲川沿いでは気温が24~29度とやや低めになっています。
また、露点温度は、この南西側で6~9℃にとどまるのに対し、千曲川沿いでは10~14度で相対的に湿潤な空気が存在していることがわかります。さらに、風は日本海側から千曲川沿いを通って内陸へ向かって吹いていることから(図中の紫破線の矢印)、日本海から相対的に冷湿な空気が川に沿って流れ込んでいる様子が見て取れます。
つまり、対流雲域が千曲川沿いの標高の低い地域に達した際には、気温はやや低いながらも、これまでより湿った空気を取り込みやすい条件が整っていたと考えられます。対流雲域がこの湿った空気を取り込み、雲底高度が下がり雲内の上昇流が強化された可能性があり、それが雲域の発達や組織化を促した一因と推察されます。

等温度線(橙色)、露点温度の等値線(緑:3〜15度を3度ごと)、風(矢羽:短矢羽5kt,長矢羽10kt)
灰色の塗りつぶしは地形の標高が800m以上のエリアを示す
次に事故が発生した頃、21日18時のMSM初期値において、事故の発生地点にもっとも近いメソモデルの格子点のエマグラムを図7に示します。
この気温と露点温度の高度分布において、下層の中でもっとも暖かく湿った空気の高度は950hPa(標高510m)で、風は北東の15ノットと図6の矢印と同じ千曲川沿いの向きとなっています。
エマグラムの図では、この気塊を持ち上げた時の温度の変化を青線で示しています。下の黒丸の高度が持ち上げ始めた高度(950hPa)、上の黒丸の高度は持ち上げて凝結し始める高度(899hPa)です。この持ち上げた空気の温度は、高度750hPaより上に達すると周囲の気温より高くなり、力を加えなくても上昇し始める状況であることがわかります。この上昇させるエネルギー量のことをCAPEと呼んでおり、781J/kgあって大気の状態は不安定といえます。
以上のとおり成層状態と下層の暖かく湿った空気の起源に関する考察からも、対流雲域が発達・持続した要因の一つとして、高度950hPa(標高510m)の地上に近い高度において日本海から千曲川に沿って比較的暖かく湿った空気が流れ込んだことがあるでしょう。

初期時刻:2025年5月21日18時
気温を赤線、露点温度を緑線で示している。
下層で最も相当温位が高い高度は、950hPa(高い黒丸の下)でした。
この高度の気塊を持ち上げた温度変化を青線で示し、
気温より低い高度を青で、気温より高い高度を赤で塗りつぶした。
赤の面積はCAPEに相当する。
level of the max EPT parcel : 950hPa(510m)
LCL : 898.9hPa EL : 322.7hPa
CAPE: 781.2 joule / kilogram
CIN : -87.5 joule / kilogram
地上の解析と突風のタイプ
次に、地上の気温や湿り具合を把握するために、対流雲が組織化し始めた5月21日16時20分のアメダス観測データを確認します。図8にはアメダスの気温・露点温度、風などのプロット図を、図9にはアメダス観測地点の名称と標高をそれぞれ示しています。
事故の発生地点に比較的近い千曲川沿いのアメダス観測点は、長野・上田・飯山の3地点です。これらの地点では、気温が27〜30度と高く、露点温度は16〜19度(相対湿度は43から59%)とやや乾いた状況でした。乾燥度合いが大きいほど、降水粒子が落下する過程で蒸発しやすく、その結果として気温の低下(蒸発に伴う冷却)が強まりやすくなります。この冷却が地表付近での収束や下降流の強まりにつながり、ガストフロントやダウンバーストにより突風被害が発生した可能性が考えられます。

気温(度:赤数字)、露点温度(度:青数字)、
海面気圧(0.1hPaの値の下三桁:上側の緑数字)、温位(K:下側の緑数字)
風は短矢羽1m/s,長矢羽2m/s,旗矢羽10m/s


気温(赤実線)、露点温度(緑一点鎖線)、海面気圧(青点線)、10分間降水量(緑バー)
風(矢羽:短矢羽5kt、長矢羽10kt)
アメダスによる、事故の発生地点から最も近い長野地点の気象観測の時系列を図10に示します。17時26分から18時27分にかけて降水がありましたが、雨量はわずか1mmにとどまりました。一方で、気温は降水前の17時20分に26.9度だったのが、18時30分には20.0度まで低下しており、わずか70分の間に6.9度もの急激な気温低下が観測されました。あわせて気圧の上昇も見られたことから、局地的な高気圧が形成されていた可能性もあります。ただし、この間の最大瞬間風速は9.7m/sと、それほど強い風ではありませんでした。
このような急激な気温低下と、周囲との気温差が約7℃に達していたことを踏まえると、長野の観測地点での突風は強くなかったものの、ガストフロントやダウンバーストによる突風が別の場所で発生していた可能性は十分に考えられます。
また、この積乱雲内で回転を伴う上昇気流(メソサイクロン)が形成されていたとすれば、竜巻が発生していた可能性もあります。ただし、メソサイクロンの有無を確認するために必要な高解像度の観測資料が不足していることから、突風の要因として竜巻の可能性を排除することはできません。
一方で、長野地方気象台は突風被害の現地調査を実施し、5月22日にその報告が報道発表されています。要旨は次のとおりです。
・5 月 21 日 17 時 40 分から 17 時 50 分にかけて、長野県須坂市五閑から高梨にかけ て住家の屋根の剥がれなどの被害が発生。
・この被害をもたらした現象は、ダウンバーストまたはガストフロントの可能性が高い。
・この突風の強さは、風速約 30m/s と推定され、日本版改良藤田スケールで はJEF0 に相当。
現地調査は速報ですが、突風の主因はダウンバーストまたはガストフロントである可能性が高いと推定されています。これは、本記事で解析してきた気温の急低下や乾燥した空気の存在とも整合的です。今回の解析が、長野地方気象台の報告を補強し、現象の理解を深める一助となれば幸いです。
マルチセル型の対流雲域か
突風被害の主因である対流雲域は、急発達した16時20分頃から19時50分頃までの3時間半にわたり、降水強度が120mm/h以上、かつエコー頂高度が12km以上という強い状態を継続していました。このことから、組織だった積乱雲が複数構成されるマルチセル型、あるいは上昇流と下降流が分離した構造を持つスーパーセル型といった、組織化された対流雲域であったと考えられます。
ただし、図2に示されたレーダー画像を見る限り、スーパーセル型に典型的なフック状エコーなどの特徴的構造は確認できませんでした。そのため、現時点では、この雲域はマルチセル型の対流雲域であった可能性の方が高いと判断しています。
アメリカの研究では、CAPE(対流可能エネルギー)と鉛直風シアを用いて計算されるバルクリチャードソン数(BRN)が、10〜50の範囲でスーパーセルの発生が多く、50以上ではマルチセル、10未満では単一セル型の発生しやすいとされています。
一方で、図7の時刻と地点におけるBRNを計算すると、その値は9となり、理論上は組織化しない単一セル型の対流が発生しやすいという結果になります。しかし、実際には3時間以上にわたって強い対流活動が持続していたことから、この結果とは明らかに矛盾しています。
このような矛盾は、日本におけるCAPEの値がアメリカに比べて一般に小さいことや、地形・気象条件が異なることに起因している可能性があります。実際、日本で行われた統計的な調査(櫻井渓太ら, 2008年「日本における竜巻発生の環境場と予測可能性」)でも、アメリカで定義されたBRNの基準をそのまま日本に適用するのは難しいとされています。今回の事例も、そのような日本特有の気象環境を反映した例の一つといえるでしょう。
5月の猛暑日と2つの停滞前線
岐阜県神岡の猛暑日

気温(赤実線)、露点温度(緑一点鎖線)、平均風(矢羽:短矢羽5kt、長矢羽10kt)
2025年5月21日、岐阜県飛騨地方に位置するアメダス神岡(標高455m)では、13時37分に最高気温35.0℃を観測し、この年国内で初めての猛暑日となりました(図9参照)。図11に示すように、この日の気温は、5時3分に観測された最低気温14.4℃から20.6℃上昇しており、顕著な昇温傾向を示しています。
また、14時頃からは風向が北寄りに変化し、それに伴って気温は徐々に低下、露点温度は上昇しました。これは、図10の長野の例と同様に、日本海からの海風(北風)が流入したことによって、気温の低下とともに空気が湿ったと考えられます。
なお、神岡での35.0℃という気温は、1978年の観測開始以来、5月としては過去最高の記録となります。このことからも、この日の猛暑は単なる日射による昇温だけでは説明できないでしょう。総観場の気象状況がどうであったか確認していきます。
2つの停滞前線の間と下層の記録的な高温
突風被害の発生地点や、岐阜県神岡の猛暑日観測地点は、図1の天気図からも明らかなように、2本の停滞前線に挟まれたエリアに位置していました。この前線間の領域では、どのような気象状況となっていたのか、下層の大気の解析を通じて確認します。
図12は、2025年5月21日9時の気象庁による850hPa(高度約1500m)面の高層天気図です。実線は等高度線、点線は3℃ごとの等温線、ドットは湿潤域を示しています。また、高層観測地点には風向風速の矢羽に加えて、上段に気温、下段に露点差(気温と露点温度の差:値が大きいほど乾燥)を示しています。
この図で特に注目されるのは、茨城県つくば市(館野)の850hPa気温が22.6℃に達している点です。石垣島や奄美大島の気温より高くなっています。これは、同地点における5月の観測としては過去最高の記録です。図13にこの時のエマグラムを示しますが、890〜840hPa付近に顕著な逆転層(高度が上がっても気温が上がっている層)が存在しており、これがこの記録的高温の一因でした。
さらに広域的に見ると、関東から真西に位置する北陸付近から日本海西部、黄海、さらには大陸の奥地にかけて、850hPa面では気温18℃以上の高温域がほぼ連続して分布していました。数日前の高層天気図をさかのぼると、モンゴル高原周辺の地表で温められた空気が東進し、日本海付近まで到達していたと推察されます。
その結果、北日本にのびる停滞前線に沿って、等温度線の集中帯が一層明瞭となり、東日本の方が西日本よりも気温が高いという、通常とは逆の気温分布が現れていました。一方、南側に位置するもう一つの停滞前線では、等温度線の集中は不明瞭で、梅雨前線ではよく見られる状況となっています。
関東周辺の高温については、さらに別の気象要因も関与していた可能性があります。図14に示す館野の高層観測を通る東西断面図では、東経140.0~140.4度付近の850hPa面で等温位線が下に凸となっており、この領域で気温が上昇していることが確認できます。このエリアは、中部山岳地帯の風下側であり、また中上層では西風が卓越していることから、山を越えて下降してきた気流があり、さらにリッジの東側にあたり下降流が励起されやすい状況であったと推察されます。
図15に、21日15時の気象衛星可視画像にMSM初期値の850hPaの気温と風を重ねたものを示します。すでに突風被害をもたらせた対流雲域が衛星画像から確認できます。図では気温21度の線をピンクで示していますが、対流雲域はこの気温21度以上のところに見られ、下層の気温の高い山岳部で発生したことがわかります。
これらのことから、岐阜県神岡で観測された35.0℃という猛暑日の発生には、下層に形成された広域的かつ季節外れの高温域が寄与していたと考えられます。加えて、この下層の暖気は、大気の不安定度を高めることにもつながり、被害をもたらした対流雲の発達や維持に寄与した可能性も否定できません。

つくば市で観測された気温(黄色に着色)は22.6度と、
沖縄や奄美より高温となっている。


MSMの解析値を利用し、
温位(黒線)、相当温位(薄赤線)、気温(黄線)、露点差(カラー)、
風速(青線)、風(矢羽)を示す。
茶色は地形を示す。

2025年5月21日15時
対象の対流雲域が発生した30分後
さいごに
2025年5月21日は、東西に延びる二つの停滞前線が北日本と西日本にかかっていました。それらに挟まれた東日本を中心としたエリアでは、気圧の傾きが小さく、下層では大陸からの暖かく湿った空気が流れ込み、季節外れの記録的な高温となりました。さらに、上空には気圧の尾根(リッジ)があり、下降流が卓越していたことで、広い範囲では晴天となっていました。 これにより、岐阜県神岡では5月にもかかわらず最高気温が35度に達して、猛暑日となりました。
850hPa付近には明瞭な逆転層が存在していて、この高度より低い層では対流雲が発生しにくい状況でした。一方、逆転層より標高が高い地域では、下層の高温の影響もあって大気の状態は不安定となり、山岳部の中で湿りが比較的大きいところや風が収束したところで、対流雲が発生したと考えられます。
この対流雲域は、山岳地帯から標高の低い地域へと進む際に、海風による湿った空気を取り込むなどして発達・組織化し、3時間を超えて持続する長寿命の雲域となりました。標高の低い地上付近では空気が乾燥していたため、対流雲からの降水に伴ってダウンバーストやガストフロントが発生し、局地的な突風となって被害をもたらしたと推測されます。
速報的に解析しているため、間違った解釈をしていることもあろうかと思います。気が付かれた方は、コメントをいただければ幸いです。
