封印されし闇の力を解き放て【ショートショート】
ここは守張津高校。
2階の進路指導室では、就職を希望する3年生に向けて面接練習が行われていた。
「はい、次の方どうぞ」
七三分けに黒縁メガネ、顔はしっかり無表情。ザ・堅物サラリーマンな風体のこの男は、3年W組の担任・黒鴉 墨夜。黒鴉の一声で、進路指導室のドアが開いた。
「学校名と氏名を言ってください」
ドアの前に立っている男子生徒が、ゆっくりと口を開いた。
「……闇深き混沌より暗黒の地に舞い降りし偽りの天使……我こそは……アダム」
「『守張津高校の安達 睦彦』な。はい座って」
安達はゆっくりと移動し、部屋の中央に置かれた椅子に座った。
長机をはさんで向こう側にいる担任は、「やれやれ」という表情をしている。
「では、これより面接試験の模擬練習をはじめます。安達さん、まずはあなたの就職希望先を教えてください」
「……暗黒の地に注がれる……希望という名の淡き光……」
「確か警察官になりたいんだったな」
安達の発言には気にも留めず、黒鴉が淡々と書類にペンを入れる。
「警察を希望した理由を教えてください」
「……かの地に蔓延る邪悪なる魂を浄化し……愚者に救いを与えん……」
「『悪い人を捕まえて、町の人を守りたい』ってことね」
安達が右の掌を内に向けながら顔の前に掲げている姿をチラリともせず、黒鴉は手際よく安達の審査書類を書き上げていく。
「それじゃあ、次は安達さんのことについて聞かせてください。そうですね……好きな食べ物はなんですか?」
「……禁断の果実と豊穣の粉……異なる二つの宝は……聖なる炎によって黄金の輝きを得る……」
「へぇ~、アップルパイが好きなんですね~」
黒鴉は書類の備考欄に「アップルパイが好き」と書いた。
「高校ではどんな部活動をしていますか?」
「……二十の軍勢を率い……謀略の渦の中を進み……ときには赤き力を解放し……邪悪なる魔の王を討ち取らん……」
「将棋部か。なるほどー」
黒鴉がもはや棒読みで相槌を打っている最中、安達は右手を前に突き出し、将棋の駒を打つ仕草をしてみせた。
「えーっと……なにか質問はありますか?」
あきらめモードの黒鴉だったが、安達が食い気味で挙手したので少し驚いた。
「おっ、積極的ですね。どうぞ」
「……我が体内に封印されし闇の力を解き放つときが来た……」
もじもじしている安達を見た黒鴉は、最後の最後に冷静さを欠いた。
「トイレは先に行っとけって言っただろ!」
(おしまい)
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