シワシワネームと呼ばないで
先週のニュースで、戸籍法や関係法令の改正案についての報道があった。
いきなり難しい話題を持ち出したように見えるが、ざっくり説明すると、
「いわゆる『キラキラネーム』の読み方をどの範囲で認めるか、法律で決めておこう」
というものである(と僕は認識している)。
たとえば、「光宙」と書いて「ぴかちゅう」、「天使」と書いて「えんじぇる」と読むなど、音や意味がある程度一致していればOKらしい。
逆に、「太郎」と書いて「じろう」と読むのは、明らかに本来の読み方や意味と異なるためNGとのこと。
この法案そのものについては特に思うところはないのだが、そもそも我が子に「ぴかちゅう」だの「えんじぇる」だのと名付けようとすることが僕にはあまり理解できない。
考え方や価値観は人それぞれだし、オリジナリティーのある名前にしたいという気持ちはわからんでもないのだが、自分ならもう少し日本人の耳に馴染みのある名前にすると思う。
ところで、キラキラネームと対になる言葉で「シワシワネーム」というものがあるのをご存知だろうか。
なんでも、大正・昭和時代に流行した古風な名前をそう呼ぶらしく、男性なら「清」や「博」、女性なら「〜子」や「〜美」といったものが例に挙げられる。
シワシワネームと言えば、印象的な話がある。
約7年前、仕事の研修を終え、同い年の同期を助手席に乗せて運転していたときのことだった。
ちなみにその同期は女性で、ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡に出てくる「ティバーン」というキャラクターが好きなことから、本文では便宜上「ティバ美」と呼ぶことにする。
研修でくたくたになった僕とティバ美は、特に何を話すこともなく、片道約1時間かけて帰っている途中だった。
カーラジオをつけていると、例のシワシワネームの話題が流れてきた。ラジオパーソナリティが「『子』が付く名前は、今やシワシワネームなんて呼ばれているんですね〜」などと話しているのが聞こえる。運転しながら何の気なしに聞いていると、
「けしからん」
と左側から怒りに満ちた声が聞こえた。ティバ美だ。
ん?どしたティバ美?おこ?おこなの?と心の中で狼狽えていると、ティバ美は言う。
「『子』って言う字はね!『一』(はじめ)から『了』(終わり)まで人生そのものを表す字なの!こんな深い意味があるのに、それをシワシワネームだなんて!」
ほう、「子」の字にそのような意味があったとは。それはティバ美が立腹するのも無理はない。単に時代の流行が過ぎただけであって、重みのある言葉をシワシワなどと揶揄するのは、確かに良い気はしない。
勢いづいたティバ美が続ける。
「私、将来女の子ができたら、絶対『子』のついた名前にしたいんだ!」
ティバ美の本名に「子」はついていないが、それもティバ美が「子」に魅力を感じる要因の一つなのだろう。
普段おっちょこちょいなティバ美が「子」の一文字にそこまでの情熱を燃やしていたとは。ティバ美とは4年ほどの付き合いになるが、これほどまでに真剣な雰囲気のティバ美を見たことはなかった。
なるほど、と感心した僕は「じゃあ、どんな名前にしたいの?」とティバ美に尋ねた。
こんなに熱く語るくらいだ、きっと自分なりに考えた素敵な名前の候補があるのだろう。すこしワクワクしながら僕はティバ美の回答を待った。
しかし、ティバ美は先ほどまでの饒舌が嘘のように言葉に詰まった。どうやら僕の質問は想定外だったらしい。ティバ美はしどろもどろになりながらも少し考えた後、僕にこう答えた。
「えっ?…う〜んと……『あおい』とか?」
いやいやいやいやいやいやいやいや!!!!!
「子」はどこ行った!?
その場に「ちょっと待てぇ!」ボタンがあればノブや大悟よりも速く押していただろう。僕は運転中でありながら大草原不可避、しばらく笑いが止まらなかった。
いや、良いのよ「あおい」も。素敵な名前だよ。
でもね?今の話の流れだと「子」の付く名前が出てくると思うじゃん。というかそれ以外の選択肢無かったじゃん。
僕の心の中で羽根の生えた金色のブタが「すべらない話認定」の押印をした頃には、いつものおっちょこちょいのティバ美に戻っていた。
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