心のお守りにしたい本【読書感想文:「漫画家やめたい」と追い込まれた心が雑談で救われていく1年間】
かわいらしく親しみやすい漫画を描く、吉本ユータヌキさん。今年8月に初エッセイ『「漫画家やめたい」と追い込まれた心が雑談で救われていく1年間』が書籍化されたということで、遅ればせながら拝読した。
本書では、吉本さんがコーチングをとおして自身の過去や感情と向き合い、「どういう道を歩んでいきたいか?」を考えている。それまで持っていた思い込みや固定観念がするりとほどけていき、モヤモヤが少しずつ減っていくさまは、まるで自分もコーチングを受けているかのようだった。
コーチングの甲斐あって、吉本さんの行動にも変化が。たとえば、「やってみたいけど、こわい」ことを「1回、小さく試してみる」とか、ある考え方について「いい・わるい」ではなく「好き・嫌い」で判断するとか。これらはだれにでもできる再現性の高いものなので、自分も活用してみたいと思った。
特に取り入れたいのは、「自分だけに集中する」ことだ。嫉妬や焦りに翻弄されないために、自分の欲と向き合う。そうすることで、ブレない心に一歩近づくことができる。文中に登場する山村くんの実例もわかりやすい。
また本書には、吉本さんの過去、それも決して華々しいものではなかった過去が詰め込まれている。漫画家をやめたいと思った時期だけでなく、少年時代から漫画家になる前のことまで、苦しかった半生について記されていた。これを書きあげるのはとてもつらかっただろう。
ここで、少し僕の話をさせてほしい。
僕も中学時代にいじめを経験した。殴られる、蹴られる、物を盗られる、罵詈雑言に仲間外れと、心身ともに深く傷つけられた。ネガティブ思考が根付いたのはこの頃かもしれない。
ネガティブのまま社会人になり、31歳のときにパニック障害を患った。この年に9年半ほど勤めた町役場を退職し、翌年にとある会社ではたらき始めたが、半年を過ぎた頃にパニック障害が再発。結局、その会社も辞めた。「どうやって生きていけばいいかわからない」と本気で人生に絶望し、号泣しながら母に電話をしたことを鮮明に覚えている。
この経験があったからこそ、本書に書かれたことを自分自身に重ねた。「もしかして自分のために書いてくれたんじゃないか?」とすら思ったほどだ。
たくさんの気づきや学びがある本書の中で、最も琴線に触れたのは、次の一節だ。
今までは思い出すたびに「なんでこんな人生だったんだろ」「もっと楽しい思い出の多い人生だったらよかったな」と、自分を責めてしまうこともあったけど、今は「でも、だからこの漫画が描けたんだな」と過去の見え方が変わったんです。
僕もいじめやパニック障害の経験があったから、それらをエッセイに書くことができた。“いい経験”とは決して思えないけれど、少なくとも糧にはできている。
本書をとおして、僕は背中をそっと押してもらった気がした。「きみがやってきたことは間違ってないよ」と、受け止めてくれた気がした。
おもしろおかしい内容ではないし、ワクワクするようなものでもない。けれど、もしまた生きることがしんどくなったとき、本書があれば僕はまた前を向ける気がする。
心のお守りにしたい本。ぜひ手に取ってみてほしい。
(おしまい)
#読書の秋2025
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