「家族だから」に縛られない生き方【読書感想文:桃井ナースがお邪魔します】
文学に疎い自分にもちょっとした自慢がある。秋谷りんこさんの小説(2025年10月23日時点で全5作品)はすべて、しかもどれも初版本で所持していることだ。
今年9月に発売となった新作『桃井ナースがお邪魔します』も例外ではない。先日、名残惜しみながら読み終えたので、感想を書かせていただこうと思う。
元看護師である秋谷さんの作品では、主人公が医療従事者であることが多い。『ナースの卯月に視えるもの』シリーズでは病棟看護師、『こころのカルテ 潜入心理師・月野ゆん』では潜入心理師という架空の職業だったが、本書の主人公である桃井由乃は訪問看護師だ。利用者の自宅を訪問し、医療ケアや在宅ケアを行うのが訪問看護師の仕事だという。さらに桃井には「家の怪異が見える」能力があり、この特殊スキルが秋谷作品の特長ともいえる。
本書は、訪問看護師の日常が緻密に描かれてありながら、その主訴は家族の在り方なのではないかと思う。それも、家族の大切さやあたたかさとはまた違う、もう少し複雑な話だ。
桃井の家庭は、仲睦まじい素敵なものとはとてもいえない。堕落した父。ヒステリックな母。実家では、暗雲のような怪異が常に幅を利かせている。幸い姉とは友好的な関係であるものの、姉妹と両親との間には深く大きな溝があった。
仄暗い家庭環境で育ちながらも、周囲の人々と誠実に向き合う桃井。僕は、彼女の姿、そして家族観にとても感銘を受けた。
僕自身の話をすると、実はあまり家族のことが好きではない。偏屈な父。思慮浅い母。自己中心的で物言いのきつい兄と姉。盆や正月などで家族が集まる日は本当に憂鬱で、ストレスが風船のように膨らむ。そして思う。「なぜ、家族だからってわざわざ会わなければならないのか」と。
また、親が高齢になってくると、必ず付きまとうのが介護の話。施設入居を拒む人が少なくない中、自宅で介護となると家族がやらないといけないと思っている人は多いのではないだろうか。
僕もそう思っていた。現状、両親と三人暮らし。兄も姉も近くに住んではいるが、それぞれ家庭があるし、そもそも怠惰な彼らのことだ、親の介護なんてめんどくさくてやりたがらないに決まっている。僕はいずれまた自立したい気持ちがあるのだけれど、自分がいないと両親は困るだろう。だからきっと自分がやらないといけないのだろうな、と。
そんな僕に本書がくれたメッセージが、「家族だからって必ず100%関わらなくてもいい」だった。
なんでもかんでも家族がやらなければならない……なんてことはない。訪問看護のようなサービスを利用するなど、家族以外に介護を任せたっていい。それは甘えではないし、薄情でもないはずだ。
長い間、僕は「家族だから」という呪いにかかっていたのかもしれない。それが、本書を読んだことで少しだけ解けた気がする。「一人で抱え込まなくていいんですよ」と、桃井が励ましてくれた気がする。
たとえ家族であっても、他者の人生を縛る権利はない。
自分自身の生き方を見直すきっかけにもなった本書が、たくさんの人の気持ちに寄り添ってくれることを願ってやまない。
(おしまい)
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