火入れの話。炭火・蒸し・低温、炉での温度の考え方。
「火入れ」は、料理の中で最も緊張する瞬間です。
発酵で旨味を引き出しても、
素材をどれだけ吟味しても、
火入れで失敗すれば全部が台無しになる。
逆に言えば、火入れが決まれば
料理は自然と美味しくなる。
今日は炉での火入れの考え方を書きます。
■ 炭火
炉のコースで最も多く使うのが炭火です。
炭火の良さは「遠赤外線」とよく言われますが、
自分が大切にしているのは「香り」です。
備長炭の煙が素材にわずかに移ることで、
どんな調味料よりも複雑な香りが生まれます。
能登牛を炭火で焼くとき、
表面だけを高温で短時間焼いて、
あとは余熱でゆっくり中まで火を入れます。
目標は中心温度55〜58℃。
これより下だと生っぽく、上だと肉汁が逃げる。
温度計を使うこともありますが、
最終的には手で触ったときの弾力と
表面の色で判断しています。
■ 蒸し
蒸しは「やさしい火入れ」です。
炉では椀物の真薯(しんじょ)に使います。
松葉蟹のすり身を成形して、
100℃のスチームで8分。
蒸しの難しさは「均一に火を入れること」。
形や大きさが少しでもばらつくと
火の入り方が変わります。
だから炉の真薯は、毎回同じ重さで成形する。
37gと決めています。
スケールで計って、誤差1g以内。
地味な作業ですが、これが安定した味につながります。
■ 低温調理
低温調理は、ここ数年でずいぶん広まりました。
炉でも一部使っていますが、
メインには使わない方針にしています。
理由は「香りが出ないから」です。
低温調理は均一な火入れができる優れた技術ですが、
メイラード反応(焼き色と香ばしさ)が起きない。
だから炉では、低温調理はあくまで補助として使い、
最後に必ず炭火や鉄鍋で表面に香りをつけます。
低温→炭火の2段階が、今のスタイルです。
■ 火入れで一番大切なこと
技術や温度の話をしてきましたが、
結局一番大切なのは「素材を観察すること」だと思っています。
同じ能登牛でも、季節や個体によって
水分量も脂の質も違う。
毎回同じ火入れをするのではなく、
その日の素材に合わせて微調整する。
「今日のこの肉は何を求めているか」
を考えながら火の前に立っています。
火入れは、技術ではなく対話だと感じています。
炉で使っている温度計と、参考にしている本を載せておきます。
次回は、8席¥26,000のコースをどう設計しているか。
価格設定と皿の組み立て方を書きます。
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