川崎工業地帯最果て探索(前編):工場だけだと思ったら、いろいろ不思議なことに出会える。そんな場所。
思い描いていた旅と違った。
こちら、最果て研究所。
今回は川崎の心臓にして最果て。
京浜工業地帯を探索する。
動画もアップしていますので、そちらもぜひ。
読者諸賢におかれては、川崎の工業地帯と聞いて、何を思い浮かべるられるだろうか?
おそらく工場夜景ではなかろうか?
わたしはそうである。
そうであった。
というわけで、今回の旅は(昼間だけれど)なんかすごいパイプラインが、ぐねんぐねんと絡まった工場を撮って、どうだすごいだろう。
と、威張る気でいた。
でも、思っていた旅とは違った。
個人的に印象に残ったのは、工場ではなかったからだ。
(もちろん、工場もすごかったけど)
浮島町公園で最果てを感じる
さて、旅の始まりは、多摩川に臨む浮島の端っこ、浮島町公園である。
30度近い快晴の空の下、バスに乗ってやってきた。
意外と一緒に降りる人がいて、「なんでこんなところで降りるんだろ?」と、思っていると、みんな飛行機を撮影するようである。
でっかいカメラを持っている。
この公園は羽田空港の対岸にあたるので、撮影スポットらしい。

というわけで、邪魔にならないように、こそこそ探索する。
公園は「川崎市民健康の森」を兼務?している。
一角が鬱蒼とした森になっている。
そのさらに、一角。
ひっそりと石碑が立っている。
「川崎臨海部造成事業完成記念碑」
神奈川県知事・内田岩太郎さんの筆とのこと。
この地域が、戦後高度成長期にできたものですよ。
ということを、誇らしげに語っている。
ちょっと草に埋もれ気味だけど。
それから、わたしのように飛行機に興味がない方にも、ぜひ見てほしいスポットがある。
羽田空港の下である。
浮島町公園からは、羽田空港の下というか、脇?をみることができる。
地上から見ると、あれほど立派だった羽田空港の滑走路が、実は海中にぶすぶすと刺された幾本もの杭で支えられていることがわかる。
優雅な白鳥も水中でバタ足している……とは、よく言ったものだけれど、羽田空港の下もそういう一生懸命な趣がある。
実は、最新設備が隠されていて、涼しい顔をした空港を支えているのだそうだが、詳細は知らない。

最果てのバスターミナルは無人。
浮島町公園を後にして、千鳥町を目指す心づもりである。
工場地帯を延々歩いてみるのもいいかな、と思ったけれど、暑い。
しんどい。
バスに乗ります。
やってきたのが、バスの終点、浮島町バスターミナルである。
無機質ではあるが駅舎もあって、平日にはたくさんの労働者でにぎわうのかもしれない。
しかし、本日は日曜日。
完全に無人であった。
中に入ってみると、殺風景なコンクリート造りの建物のなかに待合用のプラスチックの椅子が置かれ、自動販売機が数台、じー、と低い機械音を発していた。
チャールズ・シミックの詩の一片みたいな雰囲気である。

バス停の周りをちょっと探索。
誰もいない。
放置された自転車や原付が野ざらしにされていて、ゴミがいっぱい詰まっている。
なんだか自分だけが忘れ去られてたような気分になって、やや自虐的な喜びを感じていると、バスがやってきていた。
闇に埋もれた漁村の痕跡残る、殿町夜光線を歩く(カラスの襲撃を添えて)
浮島の工場地帯の中を5分ほど走って、「大師河原」というバス停で降りた。
ここからは、殿町夜光線という道路を歩く。
ここを歩いたのには訳がある。
ブラタモリでこの「夜光」という地名の由来について説明されていたのだ。
夜光。
なんとも中二心を刺激するかっこいい名前である。
850年ほど昔、夜の海が光っていた。
不思議に思った尾張の国出身の侍があさってみると、仏像が出てきた。
それを御まつりしたのが川崎大師とのこと。
そういう知的な趣のあることを言って、格好をつけるつもりである。
しかし、この道路も結構長い。
いろいろ見どころがあったらいいのだが、ずっと工場、倉庫、住宅地。
ちょっと休憩しようと小島新田公園という小さな公園に入る。
そこには謎の廃屋があった……。

これはいったい何だろうか?
ぐるぐる回ってみたけれど、何の説明もない。
ただの倉庫にしては作りが妙である。
どちらかというと、神社っぽい。
でも、鳥居も賽銭箱もない。
まあ、いいか……。
と、その時は放置したのだけれど、やっぱり気にかかる。
後々、調べてみると、この廃墟は田町厳島神社の旧社殿らしい。
かつては海苔弁天という愛称で呼ばれ、海苔養殖をする漁師たちに大いにあがめられたらしい。
しかし、現在ではすでに川崎に漁師はいない。(多分)
だから、お参りする人もいなくなり、神社は廃止されてしまった。
(現在はどこかに合祀されているようである)
工業化の影にうもれた川崎の姿なのである。
と、そんなことを考えて、ぼーっと歩いているとカラスに襲われました。
大変。
ほかに通行人もいるのに、わたしだけが襲われる。
どうやらカラスは弱者にムチ打つのが好きなようである。
それは、そう。
強者に挑んで喜びを得るのは漫画の中のお話で、実際には弱者をけちょんけちょんにするのが楽しいに決まっている。
その点、人もカラスも、同じである。

大パイプラインひしめく、工場地帯・千鳥町。
さて、そんなこんなありながら、小さな橋を渡るとそこは千鳥町。
経済発展のために作られた、埋め立て島である。
いよいよ思い描いていた工場群の脇を通る。
無機質な錆色と鈍色の巨大工場。
頭上には無数のパイプライン。
嗚呼、人間疎外の極北!

とはいえ、景観に何の配慮もしていないと思ったら、大間違いである。
巨大タンクには岡本太郎みたいな絵が描かれ、橋には錨のモニュメントがあり、道路わきを見れば川崎港と書かれた灯台がある。
やっぱり殺伐としすぎているなあ……と、作った人達も思ったのだろう。
それを申し訳程度とみるか、都市デザインとみるか、心の器が試される。

ぶらぶらと工場群の中を歩く。
やっぱり、暑い。
普通の住宅地の1.5倍暑い気がする。
しかし、終わりは近い。
わたしが当初地図で見たところだと、この千鳥島とその先の東扇島の間には、橋が架けられていなかった。
つまり、この千鳥島の端っこまで行けば、道は終わるはずである。
と、そう思っていたのだが、それは間違いであった。
「海底トンネル人道」
と、看板が出ている。
どうやら海中を歩いて、東扇島まで行けるらしい。
そのまま看板に従って、ちどり公園に足を踏み入れる。
明暗分かれるちどり公園。
ちどり公園は道路を挟んで、二つに分かれているらしい。
歩いてきた道に従って、北から突入する。
ずいぶんと鬱蒼とした森である。
草(芝生?)も茫々としている。
花のテラスというかわいらしい名前の東屋があったけれど、殺人事件の現場みたいな黄色いテープが貼られている。
どことなく、後ろ暗い雰囲気である。
背筋に冷たいものを感じていると、突然、草むらの中から黒い人影がむっくりと起き上がった。
ほとんど全裸でサングラスをつけたおじさんであった。
思わずカメラを止めて、後ずさる……。
見なかったことにしよう。

そのまま、歩みを進め、道路を渡ると改めて「ちどり公園入口」との看板がある。
こちらはずいぶんと開けて、明るい雰囲。
ブラスバンドみたいな人たちが楽器の練習をしていたり、ヒップホップダンスの練習をする人がいたりする。
大学のキャンバスみたいで、明朗で爽やかである。
そのまま歩くと、展望スペースがあって、海風が吹き渡る。
対岸の東扇島を望むことができる。
やっぱり橋はかかっていない。
それにしても、ものすごい工場地帯である。
そりゃあ、漁師もいなくなるはずだよなあ、と思う。

このちどり公園の一角に、海底トンネル人道の入り口がある。
千鳥町換気所の大きな建物があって、その下に地下鉄の入り口みたいなものがある。
そこを中に入ると、延々、一キロ以上続くトンネル。
新天地・東扇島にいざなう海底人道である。

後編へ続きます……。
