【砂丘を越えていけ】鳥取県立美術館 ART OF THE REAL アート・オブ・ザ・リアル時代を超える美術-若冲からウォーホル、リヒターへ-
3月ごろから、ソワソワしていた。
今年は関西方面が話題だ。
大阪万博!
ではなく、鳥取県立美術館のオープンである。
カウントダウンもしていた。ついInstagramもフォローしてしまった。
展示や準備の様子がチラチラ見える。
関東の各美術館を巡るうちにチラホラ見かける「現在、鳥取県立美術館へ貸出中」のお知らせ。なんか集結してる感あるじゃないか。
おまけに約3億円で購入したウォーホルのブリロボックスが賛否両論。
ぉおおお、見たい。
鳥取で何が起きてるのか!?
最初の展示に立ち会いたい。
(ほぼ)最後の県立美術館の開館と言われたら行くしかないじゃない。
しかも鳥取の遠さを考えると、この勢いが無いと行けない。
という訳で
岡山を拠点にし鳥取を巡る2泊3日の旅を組んだ。
1日目 岡山県立美術館 大原美術館 倉敷市立美術館
2日目 鳥取砂丘 鳥取県立美術館
3日目 奈義現代美術館 津山めぐり
順序は前後するが、まず2日目の鳥取の話から。
特急「スーパーいなば」
岡山から始発の特急「スーパーいなば」に乗車し鳥取へ。

いいねぇ、「スーパーいなば」。ネーミングが強い。
あ、私B'zファンでしてね、はい。
このいなばは「稲葉」ではなく「因幡」なんでしょうけどね。
夫に旅の打診をした際、この特急列車の名前を伝えた瞬間に爆笑された。
「もういいよ、その列車乗りなよ、君のための列車だよ」
と笑いながら見送られた。
県立美術館の前に
その日の天気は曇りのち雨の予報。
せっかく鳥取まで来たのだから砂丘は行きたいので雨が降り出す前に砂丘へ。美術館は雨でも関係なく楽しめるのでね。
きっと、植田正治の展示もあるでしょうから、先に砂丘は見ておいた方が良いだろう、というのもあり。
軽い気持ちで行ったけど

火星か、ここは

歩き出しが下り坂だったのが誤算。へへーん、余裕と歩き出す。
が、馬の背に向かう上りが…きっつ!砂の上り坂きっつ!登ってもずり下がる。天気は曇りだが、それで良かったかも知れない。これでピーカンに晴れていたら、きっと干からびていた。
周りは海外からの方々が多く、それも相まってここはどこなのかわからなくなってくる。

砂の崖下に広がる深い青色の海が「あれは日本海…」ということを思い出させてくれる。
そして登り終えた馬の背付近は物凄い暴風。
ここで足を滑らせたら、私、海辺まで転がり落ちる…若しくは砂に埋まる。その痕跡もきっとこの暴風で風紋となって消される…
というかなりスリリングな砂丘体験をした。
実際は往復で30分程度歩いただけ。
しかし壮絶な体験だけど、目の前の風景が素晴らしいと思える。砂丘すげえ!!
過酷と言われながら世界の独立峰にチャレンジする人々の気持ちがほんの少しだけ味わえたのかもしれない。
そんな砂丘を乗り越えて鳥取から倉吉駅へ。
体中のいたるところから砂が出てくる。
今日パウダーファンデにしてよかったな。
リキッドファンデにしてたら砂が落ちないかも。
倉吉駅、鳥取県立美術館 到着



まずは腹ごしらえでカフェへ。

これが、すごく美味しい。単なるおしゃれカフェの味では無い。ちょっと感動してしまった。
さて前置き長すぎましたね。

展覧会について
展覧会概要
鳥取の芸術、世界の芸術
“何がリアルか”をめぐる、
美術家たちの挑戦の軌跡
対象を「リアル」に表現することは、美術家たちにとって大きな課題でした。洋の東西、時代を問わず、美術の中には迫真性や写実性に向かう一つの方向性が認められます。しかし印刷術や写真術が発明され、私たちが目にするイメージが機械によっても複製、再現可能であることが明らかになった後、美術家たちは別の「リアル」を探求することになります。
見えるままの「リアル」ではなく、絵画において可能な「リアル」、合理性の背後に広がる「リアル」を超えた光景、奇抜で誇張された「リアル」、あるいは日常や生活の中の「リアル」。
この展覧会では江戸絵画から現代美術、国内外のさまざまな作家によって制作された約 180点の作品を「リアル」をキーワードとして読み解いていくことを試みます。「リアル」の意味を限定することなく、それぞれの作家、作品にとっての表現の必然性、美術の多様な可能性と読み替えることによって、鳥取県立美術館がカバーする広い範囲の美術が独自かつ一貫した視野の中に浮かび上がってくるでしょう。県立としてはほぼ最後発となる鳥取県立美術館の開館にあたって、当館のコレクションを日本各地の美術館、関係施設から借り受けた名品の数々とともに展示することによって、もう一度コレクションの骨格を確認するとともに、これからの美術館の未来を見通す機会としたいと願っています。「リアル」という視点を得て一新される美術という営みの奥行きを皆様の眼でお確かめください。
感想
一言で言うなら「鳥取県立美術館開館おめでとうの品が全国から集まったよ」という近代〜現代総展示。
豪華だよ、これ単純に美術館の企画展として面白い。鳥取を中心に広がる美術の輪。
ぐぅうう面白い。
いや、見た事ある作品もあるんですよ、それぞれの本拠地で。
でも、「リアル」という文脈で展示されていると言うのが面白いではないか。
辻晋堂(鳥取出身)
いつも東京国立近代美術館(東近美)でみるあの彫刻の人かー!なんで鳥?といつも思いながら見ていた。
鳥取の方だったとは。
鳥取を代表する彫刻家だったと言う訳だ。
県立美術館コレクション展示室でもまとめて見ることができ、点だったものが、どこから線が伸びてきて、東近美で自分が見ていたのかが分かった。
ここ、鳥取まで来なければずっと知ることはできなかったかも知れない。
こういう、静かな感動があるから、自分の目で観る、知ることをやめられなくなるんだ。
前田寛治(鳥取出身)
この方はクールベに憧れたのか!もしかしたら見たかも、と言うクールベの海の風景画は国立西洋美術館から。

前田さん!クールベが鳥取に来たよ!と言いたくなる。絶筆の海の大作は現在タイ大使館に飾られているそうだ。

このものを食べる人物の後ろ姿の絵が、すごくよくて。見えてないけど、口をガッと大きく開けて今まさに食べようとしているんじゃないかな。
ブリロ・ボックス(新所蔵品)

あれ、キャプションが2つ。

この5つまとめて1点では無いのか?
と思ったら、制作年数が違う。
一つはウォーホルが生前から作られたもの。

他の四つはいわゆる彫刻でいうところの「死後鋳造」。

なるほど。
これをちゃんと提示した結果、キャプションが2つなのか!
確かにブリロボックスは複数展示したい。
これはウォーホルの問いたかったこと、複製や反復、大量生産とは?の事柄をよく表した「状況の収蔵」なんではないか。
そうかー。
ウォーホルの手前にはデュシャンが置かれていた。
そうかー…!
で、壁を隔てて隣のブースへ移動したら壁面が光り輝いている!!!
もしや、あれは…

富井大裕「ゴールドフィンガー」!
東近美、とんでもないやつ貸し出しやがった!大量生産文脈なのかレディ・メイド文脈なのか。
でも光っているのです。金の屏風と変わらないように。
実際きれいだな、って思ってしまう。それが画鋲でも。
しかし、真新しい美術館の壁に…画鋲直打ち、震える…正気?
画鋲も東近美から持ち出したのか?と、気になって尋ねたらこの画鋲は新規購入だそうだ。
笑ったのがキャプションに画鋲の個数が記載されていること。
それ知りたい人いるんか。

デュシャン→ウォーホル→画鋲の順序は納得。鮮やかな流れだった。
けど、鳥取の皆さんに画鋲でキョトンとされてないか、ちょっと不安だ。
2フロアに渡る展示は盛りだくさんだった。
鳥取県立美術館の所蔵品に「やなぎみわ」の作品が複数あったのが印象に残っている。


万博の喧騒から抜け出し鳥取へきたリヒター。


○になる前の吉原治良。



平日だったが来館者も多く
地元の方、年配の方が多かった時間帯だった。
スタッフ用の椅子を休憩用の椅子として座ったおじいちゃんがいた。

ふと見たらおじいちゃんが腰掛けてた。
それに気づいてスタッフの方が車椅子の貸出を案内していたら「手押し車がええ」と。(え、それは貸出品にあるの?可能なの?)と思ったけれど、数分後そのおじいちゃんを見かけたら、手押し車を押しながら展示室を歩き回っていた。
手押し車の貸出、あるんだ。
ちょっと感動した。あとから公式サイトをみたら貸出品の中に
ベビーカー、車いす、サポートカーを受付でお貸出ししています。
※台数には限りがありますので事前にお電話でのご予約をおすすめします。
と記載があった。手押し車=サポートカーなんだろう。歩行器とも呼ばれている。
東京都の事情はどうなのだろう?と調べてみたら、東京都写真美術館と現代美術館は歩行器1台用意があるようだ。
ちなみに東京都美術館は歩行器の貸出は無し。都美館の方が来館者の年齢層的に必要そうな気がするが、あそこはタイル張りの床など歩行器が使いにくいのか…建築も古いしな。
ざっと主要な美術館を調べてみたらベビーカー、車椅子はほぼ完備されているが歩行器までは用意がある場所は少ない。東京国立近代、国立西洋、東博も歩行器の貸出はなし。(東博は杖の貸出有り)
鳥取県立美術館のバリアフリー体制の深さがうかがえた出来事だったし、今まで自分が意識していなかったのでハッとさせられた出来事だった。
車椅子だと、もう誰かに押してもらわねばならないけれど、歩行器なら自力で、立った視点を保って絵を見れるものな…。
今回の旅行で一、二を争う印象に残った出来事だった。
来館者アンケート
よくあるアンケート。東京から観にくる人間も居ますよ、と伝えるためにアンケートに答え始めた。

一般的な質問の後に、「ブリロ・ボックスをどう思いますか」という様な設問が。
おぉ…これは…
色々あるけど、実際に見てもらった後に聞いてみる、ってすごい良いことではないか。
誰もが当事者になれるから「展覧会を見て考える」ということがすごく大事だと思うしそれを真っ向から問うって勇気があって良いと思った。
さて、私は以下の様な事を書いた。
今年開館30年を迎える東京都現代美術館のロイ・リキテンスタイン「ヘアリボンの少女」。
購入時、非難轟々だった。
では30年経ったらどうなのか。今も非難轟々なのか。違う。
時を経て、様々な文脈で美術の一員として語られ比較され学びに役立っているでは無いか。
信念を持ったコレクションなら必ず活かせるし若い世代に刺激となり、また新しい目が出る種になれるはず。どうかあの「ただの箱」っぽいと揶揄された作品がその様な存在になれることを祈っている。
購入して終わりでは無い。育てていってほしい。
↑ヘアリボンの少女についてはこちらの過去noteにも記載している。
館内の様子





こちらは無料





開館までの道のりの展示もあった
ちょっとこれは…見ていたらなんだか目頭が熱くなってきてまずかった。
改めて、開館、本当におめでとう御座います。

お土産
図録とブリロボックス缶の飴を購入。

入り口には森村泰昌さんのモリロ・ボックスも展示。

帰路
帰りは倉吉から岡山へ同じルートの逆バージョン。
時間よっては米子周りのルートもあったが何となく怖くて、来た道を辿る方が良いだろう、と。
3時間かかって岡山へ帰着。行きは途中下車したから感じなかったが長い列車旅だった。主に川沿いの崖をガタゴト走る列車がカーブやトンネルを抜ける度に(そう言えば中国地方の分水領ってどうなってんだ?)と気になってきた。
その日の夕食に食べた牡蠣フライが旨い。

私、旅先でカキフライばかり食べてる気がする。
昨年の広島も、冬の盛岡も、今回の岡山も。
どこも、牡蠣が旨いのだ。
しかし鳥取県立美術館、良いところだったな。
しみじみ噛み締めながらその日は爆睡した。



