梟は闇に嘯く 第8話
反響はその日のうちにあった。
動画のアップロードが済むとまずSNSで投稿内容を共有している。まあ、動画チャンネル自体の登録者数も少ないからSNSのフォロワーも2桁しかないのだけど、それでも反応はあるのがありがたい。小まめに次の予告やら製作状況などを発信していた。
『地元に謎のステッカーが貼られている件を調べてみた Part1.(都市伝説)』
個人情報が特定されるのは怖いので留年だとか姫継のことは伏せて、撮影した写真と映像をもとに、これまでにわかったことをまとめている。Part1ではQRコードが浮かび上がったところまでを動画に載せている。
動画をポストすると、有名なYouTuberが反応してくれた。「興味深い」とリポストしてくれて、そこからポストがどんどん拡散していった。再生数も今までにない勢いで伸びていく。
ホームページや最初のステッカーが消えたことはPart2の見所にするつもりだ。来瀬が決めあぐねていたのは殺人についてだった。もし、本当に誰かが殺されるといった悲惨な事件が起こっていた場合、あくまでエンタメとして作っている動画にふさわしくはない。それにパラゴンのお姉さんに言われた通り、この動画から地域におかしな噂が流れるのは良くないことだ。だから噂の真偽をハッキリさせておきたいのだけど、どう調べてみてもこの地域で殺人があったというようなニュースは見つからなかった。
もう時刻は日付を跨いでいた。ガレージのシャッターは降ろされていて、確認のために再生する動画の機械音声ばかりが響いていた。事前に家には連絡を入れていた。おそらく財布に仕込んだGPSタグから位置情報も確認されているのだろう。ときどき父がタグの音を鳴らしてきて、帰ったときに音が鳴った時刻を聞いてくることがあった。心配がゆえのことなのはわかるけど、突然お尻のポケットからピンコロピンコロと音が鳴り出す迷惑も考えてほしい。
「やっぱり機械音じゃないほうがいい。俺は好かない」
姫継はガラクタの海の上で器用に横になっていた。馬頭琴を枕にして。いちおうまだ出品中の商品なんですけど。
「こういうのが主流なんだよ。人の声とか話し方って割と好き嫌いがあるもんだからね。だからある意味では無味無臭の機械に話させた方が抵抗はないもんなんだよ」
「人が一生懸命話すのを嫌う奴なんかほっとけよ」
「じゃあ姫継が声を吹き込んでよ」
「いやだね。俺の声は俺の物」
相変わらずうるさい奴だ。ぼくは本当はもう家に帰りたかった。ガレージでやる用事は済んだし、動画のチェックも家でだってできる。明日の廃墟探索にも備えたかった。それとなく帰ろうとする雰囲気も醸し出しておいたのに、姫継が気が付かないフリをしているのはあからさまだった。鞄を音を立ててしまってみたり、大袈裟なあくびをしてみたり、そんなことをしてみても姫継は頭の上の弦をたまに爪弾くばかりで動き出す気配はなかった。
「弦の張り直しにも金がかかったんだ。下手な触り方はやめてくれよ」
姫継はつまらなさそうに天井を見つめたまま、きりりと弦を引っかいた。
「どこでこんなの見つけたんだ」
「中古の買い取り業者ってあるだろ。古本以外にも、掃除機とか古着とかを買い取って販売してるようなとこ。そこのジャンクコーナーの壁に掛けてあったんだよ。弦は全部千切れてたし色もおかしくなってたけど、絶対にレアだと思って買ってすぐに業者に送って直してもらったよ。それだけで三万ぐらいかかったね」
「そこまでやっても売れないもんなのか」
「アマゾンで五千円で売ってるんだよ。同じのが」
姫継は爆発したみたいに派手に笑った。ぼくも自嘲気味に笑った。
「良い教訓だよ」
「貴重な体験だな。良い場所だここは」
「居心地いいならここで寝ていくかい。そろそろ帰ろうと思うんだけど」
本格的にくつろいでしまう前に軽くけん制した。姫継はむくりと起き上がると、ガラクタの海を器用に渡ってきて壁に立てかけたバイクを取った。
「どこか走りに行くよ。てきとーに」
「帰らないの?」
床の振り子時計は午前1時を過ぎたところを指している。さすがに遅すぎるんじゃないか。
「そのうち帰るよ」
「本当に?」
「寂しがるなよ。ここに居着いてやろうか?」
ガレージの灯りを消してシャッターを降ろすと、姫継は「明日な」と、気怠く漂うようにして坂の下へ消えていった。
