梟は闇に嘯く 第13話
来瀬から予め貰っていたQRコードのリンクを開く。
「確かに俺のホームページだな」
「本当に知らねえの? あんたの知り合いが宣伝したい目的で貼ったとか」
前蹴りの痛みはまだ残っていた。蹴りまで喰らっておいて丁寧な言葉なんて使ってやるかという気になった。もう一発蹴りなりパンチなりが飛んできたら、その時は応戦してやるつもりでいる。
「こんな下手な宣伝うつ馬鹿がいるかよ」
スマホの画面を触りながらホームページを見ていた宜丹は、あるところで指を止めた。
「どうしたんだよ」
「まてよ、いや、どうだったかな」
宜丹は自分のスマホを取り出すとブラウザから検索して自分のホームページを表示させた。ホームページをスクロールしていって姫継の画面と同じ場所で止める。
「ニュース載ってないじゃん」
見比べると、確かに製作実績の『イタリアンレストランのオープン記念イラストを製作いたしました』というニュースの部分が姫継の画面にはなかった。
「ちょうど月曜日に載せたな」
「なんで載ってないの」
「知るかよ」
ホームページ内の他の箇所をチェックしてみる。リンクをタップすればページはおかしなことなく切り替わる。画像が違う点は一見して見当たらなかった。
「このQRコードだけ時間から取り残されるなんてことあるのか」
俺が困惑していると宜丹は「URLは?」と聞いてきた。
「URL?」
「画面の上から見られるだろ。いいからここ押せよここ」
宜丹が乱暴に画面の上部を叩くと検索窓にURLだけが表示された。宜丹は携帯をくっつけてそれぞれ見比べる。
「ほら、ここが違うだろ」
見るとURLはほとんどが同じ文字列だったがQRコードから表示したものには「3301」と書き加えられていた。それ以外のリンク先のページではURLは本物と同じようになっていた。
「誰かがホームページのトップだけ持ってきて偽サイトを作ったってことか」
「迷惑な野郎だ」
3301。3301という数字に何か引っかかるものがあった。
「3301」
耳がどこかで覚えている。まったく馴染みのない数字のはずなのに。
「あっ」
「うるせえよ」
「動画だ」
cicada3301とはかつてアメリカのネット掲示板中心に巻き起こった暗号騒ぎだ。cicada3301を名乗る人物が蝉の画像と挑戦状のようなメッセージを投稿した。画像を分析していくと隠しメッセージが現れるといった形で、暗号を解読すると次々に新たな暗号が現れた。最初は簡単な暗号もあったが、次第に暗号のレベルは上がっていき、掲示板内では集団で協力して暗号を解読していく。更にこの騒ぎは大規模なものとなり、暗号を解読して現われた座標の地点に蝉のマークとQRコードが描かれたポスターが貼られるといったことまで起きた。cicada3301は2014年に新たな挑戦状を発表したが、その解読は現在も続いている。
来瀬がYouTubeチャンネルを始めて二番目に作った動画の内容がこれだった。cicada3301。今回はフクロウだったものの、手法のひとつのQRコードを使ったメッセージを仕込むというのは似ていた。
「凝ったことする連中もいるんだな」
宜丹は呆れていた。
「同じようなことをしたかったんだ。さすがにcicada3301じゃないだろうし、もしそうだったらもっと大騒ぎになってるだろうから。でも、なにか関連付けたかった。3301」
ハッとした。
「暗号を仕込んでるってことを示唆してるんだ」
もう一度ホームページを見直す。宜丹の偽ホームページを使ったということはどこかに仕掛けがあるはずだ。暗号めいた何か。元のサイトから書き換えられたURLは暗号の示唆で、暗号自体は別にある。このホームページどこかに。俺は必死に探した。
三十分が経った。目が乾いて痛くなってきてもなにも見つからない。宜丹はもう作業場に戻ってしまっていた。
「宜丹さん。すいません、携帯返します」
奥の作業場に向かって声をかけると
「推理のためにもはやく相方を見つけてやりな」
宜丹はそう怒鳴った。
