創作大賞小説部門応募作 『山の民 サンカ』 その5 日本にはサンカと呼ばれ蔑まれた山の民が居た。彼らを書き残したい。
その4より続き
漁師のおじいさん
翌日、僕は、昨日の山の事を聞いてもらおうと近所に住むおじいちゃんに会いにいった。
おじいちゃんは、父親の乗る船の船頭さんで今でも現役バリバリの漁師で、おじいちゃんと呼ぶには申しわけないほどガタイも良く、また漁師の組合長も務める漁師の中の漁師のような人で、現役の漁師の大人たちも色々とおじいちゃんの家に相談に訪れていた。学校の勉強のことは聞かないけど、山で見たことはおじいちゃんに聞くのがいいと思った。
僕は、おじいちゃんに、山で不思議な場所を発見したこと。その場所には小屋や池などがあったこと。人が住む場所、住んでいた場所のように感じたことを話した。
おじいちゃんは、どこをどう通っていったのか詳しく聞いてきた。僕はマムシに襲われた話も含めて全部を話した。おじいさんは、
「そうか、まだ人が住めそうなほど、きれいな場所やったか」と、僕に聞かせるのではなくつぶやくように僕の顔ではなく、どこか遠いところをみながら言った。そして、視線を僕の方へと移して、
「また、行きたいか」と聞かれた。僕は、
「うん」と答えた。おじいちゃんは嬉しそうな顔になった。
「そうか、お前は、ええ子や」と褒められた。でも、次に
「でもな、もう、その場所に行ったらアカン」と厳しい顔で言われた。
「なんでなん、マムシが出るから」と聞くと、
「わしらは、漁師や。海の人間や。あの場所は、山の人たちの場所や。行ったらアカン」僕は、山の人たちという今まで聞いたことのない言葉を聞いて興味を持った。
「山の人って何?そんな人たちいるの」と聞くと、
「居るも、居らんも、お前ら、住んでた場所見てきたんやろ」と笑いながら言われた。
「でも、そんなん学校で聞いたことない」と言うと、
「学校で習うことや、テレビや新聞で見たり聞いたりすることが全部やない。学校の先生でも知らんことは一杯あるし、大人たちも知らんことは一杯ある」
「お父さんやお母さんでも」と聞くと、
「知らんやろな」と答えてくれた。僕は、お父さんやお母さんでも知らんことを知ったことで、自慢できると思った。でも、おじいさんは、
「言うたら、アカンで」と言った。少し驚き、
「なんで」と聞くと、
「山の人たちは、山で静かに暮らしているから、誰も知らん。それを邪魔したらアカン。教室でも静かに本読んでいる子の邪魔したらアカンやろ。それと一緒や」僕は、おじいさんが真剣に話してくれているのがわかった。大人たちでも話しをするときは緊張するおじいさんが、子供の僕に真剣に話してくれているのが、すごく嬉しかった。でも、何か納得できないものがあった。それが顔に出ていたんだと思う。
「自分で見たこと、今日、話したこと。誰にも言うたらアカン。でも、忘れずに覚えとき。それで、大人になって、まだ覚えてたら、自分で調べて山の人のこと勉強したらええ。おじいちゃんのお願いごとや」漁師として大人たちが尊敬するおじいちゃんが僕にお願いをするなんて、何か悪いことをしたような、認められて嬉しいような背中がムズムズする気がした。
「わかった。絶対に守る。大人になって、山の人のこと自分で勉強して、調べてみる」と、言うと、おじいちゃんに頭を撫でられ
「お前はええ子や。よう、勉強せいよ」と言われた。翌日、ショーもタカシもヨーも家の人に話したら、そんな危ないとこ行ったらあかんと言われたと言ってた。それで、僕は、おじいさんとの話をみんなに聞かせた。おじいさんが絶対に言うたらあかんねんで。ときつく言ってた。と言うと、ショーやタカシやヨーのお父さんもうちのおじいさんの前ではおとなしくしているので、おじいさんの言うことは絶対的な力があった。
それきり、僕たちは、その場所を訪れることはなく、話をすることもなく、いずれみんなはその事を忘れていった。でも、僕は、口には出さなかったが、忘れることはなかった。
続く
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