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ろろろのめ第13回作品は誰のものか ── ポップミュージック産業と所有をめぐる攻防

🎧 作品は誰のものか ── ポップミュージック産業と所有をめぐる攻防


Taylor SwiftからNewJeansまで。Scooter Braun、Bang Si-hyuk、Min Hee-jinらの動向を軸に、グローバル音楽業界の「今」と「これから」を読み解く。


はじめに ── 所有をめぐる問いが再燃する時代に


「作品は誰のものか?」。Taylor Swiftによるマスター音源の再録、HYBEとMin Hee-jinの対立、NewJeansとNJZの二重構造。2020年代中盤、音楽業界では「所有」と「表現」をめぐる本質的な対立が激化している。

Scooter Braunという「支配」の象徴


Scooter Braun(左)とJustin  Bieber(右)


2025年、Justin Bieberが正式にSB Projectsを離れた。2023年にはAriana Grande、Demi Lovatoらがマネジメント契約を終了しており、これをもってScooter Braunが率いていたポップ帝国は名実ともに解体したことになる。

SB Projectsの創業者であり、HYBE AMERICAのCEOを務めていたScooter Braunは、アメリカの音楽産業において20年以上にわたり、アーティストと権利の分配構造における「支配者」として機能してきた。だが、その構造はTaylor Swiftとの因縁によって、少しずつ綻びを見せていく。


第1章:Taylor SwiftとScooter Braun──「私の作品を返して」


Taylor Swiftは2025年5月30日、自身の過去の全楽曲の権利を買い戻したと公表した。

Taylor Swiftが所属していたBig Machine Label Groupのマスター音源を、マネージャーのScooter Braunが買収。彼女はそれを「人生で最悪の瞬間」と語り、作品の権利を取り戻すためにアルバム全再録という前代未聞の戦略に出た。


その後BraunはSwiftのマスター音源をShamrock Capitalに転売。その過程で「Swiftに返還するよう勧めた」とする報道が出たが、実際には無関係だったと関係者が否定。「この瞬間はScooter Braunのおかげではなく、“彼を乗り越えた”からこそ実現した」と語られるように、これは作家の自律回復運動の象徴となった。


これはただの「再録」ではなく、マスター音源を企業から取り戻し、再び自分の手にするための文化的レジスタンスであった。Swiftは、あくまで音楽を自分の「作品」として扱うことを譲らなかった。


第2章:Bang Si-hyukとHYBEの拡張主義


Big Hit Entertainment(現HYBE)経営陣

HYBEはBTS、SEVENTEEN、TXTなどの成功をもとに世界展開を加速。Scooter BraunがCEOを務めるHYBE America、さらにプロデューサーRyan Tedderとの連携で、アメリカ発ボーイズグループの発掘にも着手。


一方でBang Si-hyukは、HYBE上場時に一部投資家に「上場予定はない」と虚偽説明し、裏では私募ファンド経由で4000億ウォン超の利益を得たとされる。これは韓国金融当局によって「詐欺的な不公正取引」と見なされ、刑事告発の対象となっている。

さらにHYBE幹部による未公開情報取引の疑惑も浮上。芸術と資本の共存が求められる中、企業倫理が問われる状況となっている。


第3章:Min Hee-jinとNewJeans──アートとシステムの攻防


NewJeans

NewJeansはMin Hee-jinが手がけた最重要プロジェクトであり、K-POPに新たな美学を持ち込んだ存在である。しかし2024年、MinとHYBEの間に経営権をめぐる対立が発生。


HYBEはMinを解任しようと試み、Minは逆に内部告発で応戦。結果として世論は二分されたが、NewJeansの独自性が資本によって脅かされているという印象は強まった。


Minは声明で「これは契約ではなく、芸術の話だ」と述べた。K-POP史上初めて、アートディレクターが経営者と正面から対峙する構図となった。


第4章:NJZの船出と揺れる信頼


NJZ

2025年5月30日、Seoul Central District Court(ソウル中央地裁)は、HYBEによるMin Hee-jin(ADOR代表)の解任仮処分申請を棄却した。この判断は、単なる経営権争いを超え、アーティストと制作陣が築き上げた表現の主体性と所有の意味について、業界全体に波紋を広げる出来事であった。


この争いの本質は、「ポップミュージックにおける作品とは誰のものか」という根源的な問いにある。名声や創造性の所有は誰に属するのか──それはK-POPに限らず、グローバル音楽産業が直面している構造的課題でもある。


HYBE vs Min Hee-jin:誰がグループを「所有」するのか


2022年にADORからデビューしたNewJeansは、Min Hee-jinのクリエイティブディレクションによって、K-POP界に新たな波をもたらした。ノスタルジックなY2K美学と革新的な音楽性、リアリティあるビジュアル演出。全てが、従来のK-POPの枠組みを超えていた。


しかし2024年末、HYBEはMin Hee-jinが経営権を掌握しようとしたと主張し、彼女の解任を画策。それに対しMin側は、「NewJeans」の創造的主体を守るべく法的に抵抗を始めた。ここに、「ADOR vs HYBE」ではなく、Min Hee-jin vs HYBE+ADORという構図が成立する。


「NJZ」という仮名でのステージ


この係争の中で、NewJeansは一時的に自身のグループ名を使用できない状況に追い込まれた。グループ名「NewJeans」はHYBEが商標を保持していたため、正式な使用が制限されたのである。その代替として使われたのが「NJZ」という仮名であった。


「NJZ」という名称での活動は、2025年3月23日にComplexCon Hong Kongで披露された新曲は「pit stop」のパフォーマンスのみである。(後はソロパフォーマンスでのカバー曲披露)
新たな作品の一端として「pit stop」が選ばれたことは象徴的であった。

だが、それ以降、NJZとしての活動は休止状態にある。依然として法的係争中であり、「NewJeans」という名前での公式活動も再開されていない。アーティストが自身の名前で表現することが制限される。これは単なる契約上の問題ではなく、創造性と主体性の根幹にかかわる重大な問題である。


所有と自律の境界──Taylor Swiftと世界的共振


この事件はK-POPにとどまらず、世界的なアーティストたちの闘いと通底している。Taylor Swiftは、自身のマスター音源の所有権をめぐってレーベルと対立し、「Taylor’s Version」としてアルバムを再録音することで、自らの作品の所有権を取り戻した。


「名前」や「作品」が企業の資産として扱われる時代。音楽産業の構造は、若い才能を育てると同時に、その創造性をシステムの所有物とするリスクを孕んでいる。Min Hee-jinが抵抗したのは、単なる職位の防衛ではなく、アーティストの自律性を守るための行動であった。


ポップとは誰のものか


この一件をスキャンダルとして消費することは簡単だ。しかし、ここで問われているのは、音楽という表現が誰の手に属するのかという根源的問題である。


アーティストが自らの名前すら使えず、「NJZ」という仮名で活動せざるを得なかった現実。そこにあるのは、商標と契約の論理を超えた、創作における「所有」と「表現」のせめぎ合いである。


作品は誰のものか──


私たちはこの問いに対し、消費者であると同時に、文化を育む一員としての立場から、静かに、しかし確かに向き合わねばならない。




第5章:Ye(Kanye West)の「システムの外」からの逆襲


yeが2025年5月12日付けのSpotifyグローバル・ヴァイラルチャートで1位・2位を独占。

Ye(Kanye West)はレーベルやDSPの枠組みに頼らず、「WWW3」「COUSINS」などの楽曲を直接配信。2025年にはこれらの楽曲がSpotifyのグローバル・ヴァイラルチャートで1位・2位を独占。


これは、ポップミュージックにおける「システムの外」で創造と経済性を両立させた希有な事例となり、業界内で大きなインパクトを残した。


第6章:BTS再始動とHYBE体制の岐路


Min Hee-jin
HYBEの歩み

2025年末から2026年にかけて、BTSがついに兵役から復帰予定。BTSの再始動はHYBEにとって再起の鍵となるが、グループの意志と企業戦略が一致するかは未知数。


彼らが再び「世界のトップ」を目指す中で、HYBEがどう関わるか。ここでも再び「作品は誰のものか」という問いが浮かび上がる。


第7章:音楽産業と企業倫理──創造性は資本の従属物か


Taylor Swiftの再録、Min Hee-jinの抵抗、Yeの独立。そしてHYBEをめぐる一連の疑惑──いずれも「資本が創造性を制御できるのか」という核心的な問いにつながっている。


創造性とは企業の所有物ではなく、アーティストの生に根ざしたものだという価値観が、今まさに世界中で再定義されている。


おわりに── ポップミュージックの未来は誰の手にあるのか


ポップミュージックは、もはや単なる娯楽ではなく、資本・政治・ジェンダー・テクノロジーが交差する「戦場」である。その中で誰が何を創り、誰がそれを所有し、誰が届けるのか。すべてが問われている。



2025年6月1日(日本時間)に開催されたHead In The Clouds Los Angelesで、Porter RobinsonやG-DRAGONらによって何度も披露された「ETA」。その楽曲が、再びNewJeans自身のパフォーマンスで届けられる日は訪れるのだろうか──。







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