「青の姫 The Blue Princess」第十四章 旅の合間(創作大賞2026ファンタジー小説部門)
第十四章 旅の合間
青は、はるか一面に広がる草原の中を一人、進んでいました。
一陣の風が吹いてきました。その風はゆったりと大きく、大海をわたる大きな波のように、草原を流れます。
そのとき、ふと青は立ち止まりました。なぜそうしたのかわかりません。
その風に向かって、眼を閉じて両腕をめいいっぱい広げました。
風は青の全身を、金色の髪の一本一本を通りぬけていきます。裸で立っているような、体がなくなってしまったようなふしぎな感じです。
自分が透明な入れもので、その中を何か大きな力が通っていきます。
こわいような、さびしいような、自分が風になったように、空飛ぶ鳥のように軽いのです。
そして感じました。
完全に自由だ。
今ここで、自分は本当にひとり。
完全に自分だ。
そのとき、心の中できこえた歌です。
もしあなたが魚で
大きな群れの一匹として大海を泳いでいるとき
ふと群れからはなれて 海の上を飛びたくなったら
飛び上がりなさい
あなたが飛べる最も高いところまで
群れとは違う方向へ行きたくなったら
向かいなさい あなたが行ける最も遠いところまで
海の底へ深くもぐりたいなら
もぐりなさい あなたが行ける最も深いところまで
仲間と違うことを恐れず 群れをはなれ ひとりぼっちになる不安をのりこえ たとえ先が見えなくとも
自分の内なる力が導いていくほうへ向かいなさい
そのとき あなたはだれも味わったことのない喜びを感じるだろう
あなたは小さな一匹の魚にすぎないけれど
今まさに変わろうとしている 進化して新しい何かになろうとしている
この世に一匹しかいない 魚なのかもしれない
なよやかで、ほっそりしていた体は、今や男たちと同じ荷をかつぎ、どんな険しい道をも歩きとおす強さをそなえていました。
城から外の世界へ出たこともなく、青白く透きとおって陶器のようだった肌は、いつしか太陽の光に染まり、ほおは夕日の色を映し、絹糸のような髪は、風が吹きぬける黄金色の麦の穂のようになびきました。
そして青い瞳は、空のごとく高く、海のごとく深さをたたえて、ますます青く、ひんやりと澄みきった宝石のようでもあり、はげしく燃える青い炎のようでもあり、それを見た人は忘れられませんでした。
世界のいくつもの場所に「青い瞳の旅人」の話があるのは、彼らが語り伝えたものでしょう。
歩みつづけ、旅する中で学ぶことには、かぎりがありませんでした。
人々の肌や髪の色、姿。その土地で食べられているもの。人々がいとなんでいるくらしは実にさまざまでした。
まわりが変わっても変わらなかったのは、青がどんな小さなことにもおどろく、ということでした。
青が立ち止まって何かを見ていると、周りの人々も何か珍しいものでもあるのかと、のぞきこむことがありました。それは彼らにまったく当たり前のものでした。
もう一つ変わることがなかったのは、青い衣でした。あるときは高い山道をのぼり、あるときは燃えるような砂漠を歩き、あるときは海や川、湖の上をわたりました。しかしどこにいても、その青い小さな姿ははっきりみとめられるのでした。
