12章|物語と発信をデザインする|12−2| 物語が人を動かす理論 —— ストーリーからナラティブへ
このnoteは、「問いからはじめる”デザインマネジメント”」として、1冊の本をつくるためのnoteです。1つずつのnoteでも伝わる様にと書いていますが、他の記事であったり、なんでこんな事やっているの?と興味を持っていただけたら、こちらをお読みください。
前回のScene 1では、完成品だけでなく「プロセス」や「弱さ」をあえて発信することで、人を巻き込む「余白」が生まれ、共創につながるという話をしました。
では、人を巻き込み、共創を生み出すような「発信」は、どのような構造を持っているのでしょうか。このSceneでは、共感を生む物語の「理論」を紐解いていきます。
理論1:「ストーリー(Story)」と「ナラティブ(Narrative)」の違い
物語を表す言葉として、近年ビジネスやデザインの世界で「ナラティブ(Narrative)」という言葉がよく使われるようになりました。マーケティングや組織づくりにおいて、「ストーリー」ではなく「ナラティブ」が重要だと言われるのはなぜでしょうか。
両者には、構造的な大きな違いがあります。
ストーリー(Story)
「昔々あるところに…めでたしめでたし」のように、すでに過去のものとして完結した話です。主語は「私(または主人公)」。聞き手は、完成された映画を見る「観客」です。完成度が高ければ高いほど、「すごいな」「感動したな」と消費されて終わります。ナラティブ(Narrative)
「今、私たちはこういう課題に向き合っているけれど、まだ道半ばである」という、未来に向かって開かれた、現在進行形の話です。主語は「私たち」。聞き手は、ただの観客ではなく、これから結末を一緒に変えていく**「参加者(当事者)」**になります。
あなたがプロジェクトを発信するときに必要なのは、完璧なストーリーではなく、ナラティブです。
「すごいコンペで優勝しました!」という完結した報告よりも、「今、この課題につまずいていて、みんなで悩んでいます」という現在進行形の葛藤のほうが、周りの人は「それなら手伝えるかも」「面白そうだから参加したい」と、自分が入る「余白」を見つけやすいのです。
💡 学生の日常に落とし込むと…
【ポートフォリオの作り方】 完成したパースを並べるだけでなく、「初期のボツ案」や「途中で壁にぶつかった時のスケッチ」をあえて1ページ差し込む。これだけで、面接官が「ここはどう乗り越えたの?」と質問(参加)できる余白(ナラティブ)が生まれます。
理論2:事実を「意味づけ(Sensemaking)」する
なぜ、人はナラティブに惹かれるのでしょうか。
現代は情報が溢れかえっています。単なる「事実」や「データ」の羅列だけでは、誰も見向きもしません。人が求めているのは、情報そのものではなく、その背景にある「意味」です。
経営学や組織論の分野では、「センスメイキング(Sensemaking:意味づけ)」という概念が注目されています。これは、不確実で曖昧な状況の中で、自分たちなりの「意味」を見出し、周囲が納得する物語を紡ぐことで、行動を引き起こすという理論です。
「今日は徹夜で模型を作った」というただの【事実】は、人を動かしません。
しかし、「徹夜で模型を作ったが、教授の何気ない一言で、自分が本当に作りたかった空間はこれじゃないと気づいた」という【意味づけ】が加わると、それはただの報告から、他者の心を揺さぶる【ナラティブ】に変わります。
ナラティブとは、「事実」に「自分なりの意味づけ」を掛け合わせたものなのです。
💡 学生の日常に落とし込むと…
【Instagramの投稿】 「〇〇の建築を見に行きました(写真)」という事実の報告で終わらせず、「この光の入り方を見て、〇〇ということに気づいた。自分の次の課題で試してみたい」と、自分なりの「意味づけ」を1行加えるだけで、発信の価値が劇的に変わります。
理論3:共感の構造 —— ゴールデンサークルと「Who」
では、そのナラティブをどう組み立てれば、人から共感を得られるのでしょうか。
ここで役立つのが、サイモン・シネックが提唱した「ゴールデンサークル」という理論です。
多くの人は、何かを伝えるときに「What(何を作ったか)」や「How(どうやって作ったか)」から語り始めます。しかし、人を根底から動かすのは「Why(なぜ、それをやるのかという信念・目的)」である、という理論です。
デザインマネジメントの発信においては、このWhyのさらに中心に、「Who(誰)」を置くことが重要です。
Who(誰が? 誰のために?)
完璧な超人ではなく、悩みや弱みを持ちながらも前に進もうとする「等身大の自分(語り手)」。そして、それを届けたい「具体的な、たった一人(受け手)」。Why(なぜやるのか?)
その人に対する想い、怒り、悲しみ、喜びといった原動力。How(どうやって?)
悩みながらも試行錯誤しているプロセス。What(何をするのか?)
最終的な成果物。
情報発信がうまくいかないケースの多くは、「What(きれいなパースや完成した模型の写真)」だけを見せようとしているからです。
しかし、共感を生む本質は「Who」と「Why」にあります。「誰が、どんな想いで、どう悩んでこれを作っているのか」というナラティブが伴って初めて、その「What」は特別な価値を持ちます。
💡 学生の日常に落とし込むと…
【就活の面接】 「私はCADが使えます(What)」ではなく、「私は高校時代の〇〇という原体験(Who/Why)からこの課題に向き合い、こんな失敗(How)を重ねながら、この図面(What)を描き上げました」と語る。これが「Who」から始めるということです。
理論4:発信は「信頼の事前払い」である
ここで、Scene 1で触れた「発信は信頼の事前払いである」という言葉をもう一度思い出してください。
プロセスや悩みを隠さず、ありのままの「Who」と「Why」を発信し続けること。それは、未来の仲間や顧客に対して、「私はこういう人間で、こんな価値観で動いています」と先に自己開示することです。
完成品ができてから「私を信じて買ってください(手伝ってください)」とお願いするのではなく、作っている最中から自分のナラティブを共有することで、いざ完成した時には、すでに周囲からの「信頼の貯金」がたまっている状態を作ることができます。
だからこそ、未完成なプロセスを発信することは、決して恥ずかしいことではなく、共創を生み出すための最も合理的で強力な「信頼の事前払い」になるのです。
就職活動という「ナラティブ」の交換
この「ナラティブ」と「信頼の事前払い」の考え方が、学生である皆さんにとって最も直接的に威力を発揮する場面があります。それは就職活動です。
建築やデザインを学ぶ学生の多くは、就活に向けて「完成された綺麗なポートフォリオ(What)」を作ることに全精力を注ぎます。しかし、採用する企業側が本当に知りたいのは、「きれいな図面が描けるか」だけではありません。「この人はチームで意見がぶつかった時、どう悩み、どう乗り越えようとする人なのか」というプロセス、つまり「Who」「Why」「How」のナラティブなのです。
面接という場は、まさに「あなたのナラティブ」と「企業のナラティブ」の交換の場です。
もしあなたが、普段から自分の学びや葛藤を「意味づけ」して発信し、「信頼の事前払い」をしていればどうなるでしょうか?
「失敗を隠して、自分を大きく見せる(盛ったストーリーを語る)」必要は一切なくなります。日々の試行錯誤という等身大のナラティブこそが、企業との間に強固な「共創の余白」を生み出し、就職活動における最大の武器になるのです。
次のSceneに向けて:ナラティブを実装する
ここまで、ナラティブが人を巻き込む理論的な背景を見てきました。
「プロセスを開示する(ナラティブ)」「意味づけをする(センスメイキング)」「WhyとWhoから語る(ゴールデンサークル)」。そしてそれが「信頼の事前払い」になるということ。
これらは決して机上の空論ではありません。現代の私たちが日常的に使っているSNS、特にInstagramのようなプラットフォームは、まさにこの「ナラティブ」を可視化し、仲間を集める(信頼を貯める)ための最強のツールとして機能します。
次のScene 3では、この理論を実践に移します。
単なる「完成した作品のポートフォリオ」ではなく、あなた自身の学びやプロジェクトの「プロセス(ナラティブ)」を発信するメディアとして、実際にInstagramなどのアカウントを立ち上げ、運用していくためのワークショップに入りましょう。
今日の問い
あなたがよく見ているSNSのアカウント(個人でもブランドでも)の中で、「ただの完成品(What)」ではなく、「プロセスや想い(Why/Who)」を発信していて、つい応援したくなるアカウントはありますか? その発信のどんなところに惹きつけられていると思いますか?
いいなと思ったら応援しよう!
おひねり コーナー
いつも応援ありがとうございます。