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Amazonで何を買ったか、社長はだいたい覚えていない。

「この8,980円、何を買いました?」

月次の打ち合わせで、私は社長に聞いた。

会社のカード明細には、こう書いてある。

AMAZON.CO.JP 8,980円

分かるのは、Amazonで何かを買ったということだけだ。

「仕事で使うものですよ」

社長はすぐに答えた。

「何を買いました?」

「そこまでは覚えてないですけど。Amazonを見れば分かります」

社長はスマホを取り出し、注文履歴を開いた。

充電ケーブル。

コピー用紙。

プリンターのインク。

子ども用の水筒。

洗濯洗剤。

プロテイン。

仕事と家庭が、同じ画面で仲よく並んでいた。

「たぶん、このへんです」

たぶんでは困るのだが、社長の気持ちは分かる。

買った瞬間には、ちゃんと分かっていたのだ。

社長は、経理のためにAmazonを使っているわけではない

社長がAmazonを使う理由は、経理をきれいにするためではない。

必要なものを、早く買うためだ。

プリンターのインクが切れた。

パソコンのケーブルが足りない。

明日の打ち合わせで使うファイルがない。

思いついたときにスマホで注文すれば、早ければ翌日には届く。

店まで行かなくていい。営業時間も気にしなくていい。在庫を探して歩く必要もない。

一人社長なら、買い物に出る時間だって惜しい。

商品を探している途中に電話が鳴る。注文を確定した直後にメールが来る。荷物が届いた頃には、もう次の仕事をしている。

社長にとってAmazonは、買い物というより仕事の流れの一部である。

だから社長は思う。

> 会社で必要だから買った。  
> 会社のカードで払った。  
> 注文履歴も残っている。  
> これ以上、何を説明する必要があるんですか。

もっともな言い分だと思う。

毎日、会社のために細かい判断を何十個もしている。

その一つひとつについて、三か月後の税理士が納得するように記録を残すところまで考えてはいない。

社長は会社を経営しているのであって、未来の自分への事情聴取に備えているわけではない。

買った日は覚えている

注文した当日なら、社長は答えられる。

「これは事務所の延長コード」

「これは現場で使う作業手袋」

「これは自宅用の洗剤」

ちゃんと区別できている。

ところが、税理士が質問するのは翌月か、場合によっては数か月後だ。

その頃には商品は箱から出され、段ボールは捨てられ、ケーブルは他のケーブルと一体化している。

洗剤はもう半分くらい使われている。

社長の頭には、売上のこと、資金繰りのこと、社員のこと、来週の予定が入っている。

4月18日に買った8,980円の中身が入る場所は、もう残っていない。

「そんな前のこと、覚えてないですよ」

それも、そうだと思う。

私だって、先週の火曜日に何を食べたか聞かれたら少し黙る。

ただ、会社の経費にするなら、こちらも少し聞かなければならない。

税理士は社長の記憶力を試しているわけではない。

知りたいのは、何を買い、誰が使い、なぜ会社が負担するのか。それだけである。

Amazonは何でも売っている。

文房具も、パソコンも、食品も、子どもの水筒も売っている。

だから「Amazonで買いました」は、ほとんど何の説明にもなっていない。

便利なものほど、会社と家庭が混ざりやすい

問題は、社長が私物を会社経費にしようと企んでいることではない。

多くの場合、そんな大げさな話ではない。

会社用のコピー用紙を注文する。

その画面に「以前購入した商品」が表示される。

そういえば家の洗剤も切れそうだった。

子どもから水筒を頼まれていたことも思い出す。

どうせ同じところから届くのだから、一緒に注文する。

支払い画面では、前回使った法人カードが選ばれている。

そのまま注文を確定する。

悪意はない。

ただ、会社と家庭の境界が、ワンクリック分だけ曖昧になる。

会社用と私物が混ざること自体は、現実にはある。

間違えて法人カードで払うこともある。

大事なのは、間違えない立派な社長になることではない。

混ざったときに分けられるようにしておくことだ。

会社で使うものだけを会社の経費にする。

私物を法人カードで払ったなら、その分を会社へ返す。

話はそれだけなのだが、数か月たつと、その「それだけ」が難しくなる。

社長の記憶ではなく、仕組みに覚えてもらう

私は社長に言った。

「会社用と個人用で、Amazonのアカウントを分けませんか」

社長は少し嫌そうな顔をした。

「またパスワードが増えるんですか」

社長にとって、税理士の提案はだいたい何かが増える。

記録が増える。

確認が増える。

パスワードが増える。

税理士は簡単に「分けましょう」と言うが、分けたものを管理するのは社長である。

その面倒さは分かる。

それでも、毎月注文履歴を開いて記憶を掘り起こすよりは、一度分けた方が楽になる。

会社用のアカウントには法人カードだけを登録する。

会社用品と私物は同じ注文に入れない。

どうしても混ざったら、注文したときに会社分だけ分かるようにしておく。

必要な書類も、その月のうちに保存する。

社長が全部覚えておく必要はない。

むしろ、覚えておこうとしない方がいい。

経営者の記憶は、8,980円の内訳ではなく、もっと大事なことに使った方がいい。

今日、1か月分だけ見てみる

Amazonの注文履歴を、直近1か月分だけ開いてみてほしい。

会社のカードで支払った注文について、何を買ったか、何に使ったかが説明できるか確認する。

私物が混ざっていたら、その場で分ける。

半年分を一気にきれいにしようとすると、たぶん途中で嫌になる。

まずは1か月でいい。

社長は、会社に必要だから注文した。

その瞬間は、たしかに覚えていた。

ただ、Amazonは翌日には荷物を届けてくれるが、数か月後まで社長の記憶を預かってはくれない。

たまに税金。だいたい人間。

別表四郎

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