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イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第三十八話 自由な街


砂漠に陽が落ちる。

赤と青の境目で、世界がゆっくり別の顔に変わっていく。

その先にあるのが、自由な街ルーベントだった。



エラとヨル 第三十八話
【自由な街】


ローズに呼ばれて詰め所に着いた頃には、オトもだいぶ調子を戻していた。

小さなテントが無数に並び、その近くには多くの荷が積まれている。
かがり火が灯り、吹き抜ける風を受けて、ぱちりと火の粉が弾けた。

その中でも、石造りの塀に囲まれた大きな建物へと通される。

部屋の中には大きな絨毯が敷かれ、調度品が並んでいた。
大きな背もたれのある椅子にどかりと腰を下ろし、ローズは足を組みながら私たちを迎えた。

「来たかい」

そう言うと、ローズは長いパイプを取り出して火をつける。
ひと息吐いてから、続けた。

「ルーベントがどこにあるか、知りたいんだったね?」

「大きなカメの上にあるのは知ってるよ」

エラがローズの言葉を遮る。
ローズは苦笑して言った。

「あぁ、あれをカメと言うならそうさね」

「――超古代種ギガントタートル。あいつは生き物なんてちっぽけなもんじゃない。動く山みたいなもんさ」

――動く山。

私は、その言葉の意味をうまく想像できなかった。
オトが隣で頷きながら言う。

「動き回る山を、どうやって見つけるんですか?」

ローズはわずかに眉を上げた。

「動くといっても、ルールがあるさ。奴は決まった周期で水場を移動している」

「その場所を知ってりゃ、あとは待つだけで向こうから来てくれる」

ローズはパイプを吸うと、大きく煙を吐いた。
部屋の中に漂う煙が、夜の闇に溶けていく。

「どんな街なんですか?」

気になっていたことが、自然と口からこぼれた。

「自由な街さ。ただ、“自由”って意味が、外とは少しズレちゃいるがね」

「……犯罪都市ルーベント」

思わず漏れた言葉に、私は慌てて口を押さえる。
ローズの視線が一瞬だけ鋭くなった。

「そう呼ぶ奴らもいる。だがね、外で居場所をなくした奴らは、どこに行けばいい? そういう奴らが集まってできた街さ」

「ごめんなさい……」

軽はずみな発言を後悔した。

「まぁ、実際、“赤い瞳”なんて外の世界にも勢力を広げる闇ギルドもあるからねぇ」

「まさか! 赤い瞳の拠点があるんですか!」

オトが驚いたように言う。

「赤い目なんて、一人しかいなかったよ…」

エラは何かを思い出したようだが、そこで口をつぐんだ。

「エラさん。赤い瞳っていうのは、大陸でも有名な犯罪組織の名前です」

――赤い瞳。

聞いたことのない名前だった。
私が見てきた世界とは隔たった世界が、ルーベントにはあるのだと思った。

ローズの表情が険しくなる。

「ルーベントには三つの勢力がある」

ローズは私たちの前で、指を一本ずつ立てながら話した。

「一つ目は、私たち商会ギルド“砂漠の薔薇”」

「二つ目は、ルーベント行政ギルド――“LAG(ラグ)”なんて呼ばれる、表の代表組織」

「そして――」

「最後は悪名高い、闇ギルド“赤い瞳”」

ローズは最後の名前を口にした時、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「ちゃんと、行政組織があるんですね?」

私は、ルーベントにも法があることに驚いた。

「あいつらが正義かい? 笑わせないでおくれ。賄賂や不正が当たり前。ただ、外面だけがいい腐った組織さ」

「で、あんたらはそこで何を探すつもりだい?」

ローズの目つきが変わる。
何もかも見透かしたような目だった。

竜石のことを、ここで口にしていいのかわからなかった。
私は答えられないまま、黙って俯く。

「あはは。わかりやすいね、あんたは!」

ローズが笑う。
私は少し、顔が熱くなるのを感じた。

「でもね、そんなわかりやすい奴は、あの街じゃ生き残れないよ」

低く、よく通る声が部屋を包んだ。
ランプの灯りが風に吹かれて揺れる。

「あんたらの目的なんて、あたしにはどうでもいいことだよ」

「ただし……」

「敵になるなら、覚悟をするんだね」

部屋の空気が一気に重くなる。
私の頬を汗が伝った。

「大丈夫。迷惑はかけないから」

そう言うと、エラがにこりと笑う。

「どうだかねぇ」

呆れたように、ローズは呟いた。

「話は終いだ。明日の朝一で出るよ。起きなきゃ置いていく。わかったら帰んな」

ローズはパイプをくわえると、手を振って私たちに帰るよう促した。

私は頭を下げて、部屋をあとにする。
砂漠の夜は冷え込んでいた。

満天の夜空を見上げながら、私は言った。

「いよいよだね」

二人も頷く。

――竜石を探し出して砕く。

近づいている。
そう思っただけで、胸の奥が少しだけ強く鳴った。



🔙第三十七話   第三十九話🔜



創作大賞2026 ファンタジー小説部門 投稿作

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