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イブ物語|判断寓話|エラとヨル|外伝 インテンション 第二話 SL(分隊長)

※ファンタジー小説『エラとヨル』外伝。
冒険者ギルド『インテンション』の物語です。
本編未読でも楽しめます。
敵を倒すだけでは、生き残れない。
これは、五人の冒険者が「判断」を学ぶ物語。



夜明け前。

朝靄の残る街道を、六人は一定の歩調で走っていた。

土を踏む音だけが、規則正しく続いている。

その静けさを破るように、先頭を走るディアの後で、レーアが声を張り上げた。

「歩調、歩調、歩調とーれ!」

「「「「「歩調、歩調、歩調とーれ!」」」」」

続いて、マークが大きく息を吸う。

「一、とーれ!」

「「「「「一、とーれ!」」」」」

今度はリア。

「二、とーれ!」

「「「「「二、とーれ!」」」」」

ヒロが引き継ぐ。

「一、二、三、四!」

「「「「「一、二、三、四!」」」」」

最後尾を走るライアンも声を上げる。

「一、二、三、四!」

「「「「「一、二、三、四!」」」」」

一巡すると、再びレーアの掛け声が街道に響いた。

夜明け前の静かな街道に、若い冒険者たちの力強い唱和が、途切れることなく続いていた。



「なあ、ライアン。知ってるか?」

マークは桶の水を頭からかぶると、布で髪を拭きながら声をかけた。

「冒険者って、朝から走ったりしないらしいぜ」

隣では、上半身裸のライアンが水に浸した布を絞り、黙々と体を拭いている。

「しかも、朝夕の点呼もないらしい……」

マークは、どこか信じられないといった様子で続けた。

「もしかして、俺たちって……」

「今更の情報、ありがとう」

二人の背後から、ヒロの声が飛んできた。

マークが振り返る。

ヒロはカップの水を勢いよく飲み干すと、口元をわずかに上げた。

「号令で動くのも、連帯責任なのも、全部俺たちだけだ」

マークは口を開けたまま固まった。

まさに今、自分が辿り着いたばかりの事実を、言葉にする前に説明されてしまったのだ。

「それでも……」

ライアンの声に、マークはようやく現実へと引き戻された。

ライアンは新しい服に袖を通すと、すぐに装備の点検を始める。

「それでも、強くなれるなら問題ない」

その言葉に迷いはなかった。

「気づいてなかったのって、俺だけ!?」

マークが絞り出した声が、虚しく響く。

「集合!」

遠くから、ディアの号令が飛んできた。

マークは慌てて服を着ると、すでに駆け出していた二人の後を追った。



全員が集合したところで、ディアが口を開いた。

「本日は、敵拠点の発見、および戦力の把握を行う」

その言葉を聞いた瞬間、レーアの金色の瞳がわずかに細められた。

「ディア教官。質問よろしいでしょうか?」

ヒロが軽く手を挙げる。

「索敵が主任務だと理解しました。ただし、敵と遭遇し、予定外の戦闘に突入した場合、交戦に関する方針はありますか?」

ディアが口を開こうとしたとき、その隣に立つシーズが先に答えた。

「予定外の戦闘を想定する理由は?」

ヒロは間を置くことなく答える。

「敵拠点を発見するまでに、哨戒中の敵と遭遇する可能性があります。その場合、接触を避けるのか、排除するのかによって必要な装備が変わるからです」

シーズは黙ったまま、その答えを聞いていた。

「先に教官殿の方針を、ご教示いただきたいと具申いたします」

淡々とした口調だった。
だが、その丁寧すぎる言葉には、かすかな棘が混じっていた。

シーズはヒロが言い終えるのを待ってから、静かに口を開いた。

「任務の方針と、現場での判断を混ぜているね」

口調は柔らかい。

だが、その目は真剣だった。

「今回の目的は、敵拠点を発見し、戦力を把握することだと説明されたはずだよ。そこで起こり得るすべての状況を、出発前に決めておくことはできない。実際に何が起きたかを見て、現場で判断する必要がある」

ヒロは黙って聞いている。

「敵と遭遇し、戦闘になった。だから戦う。それ自体は自然な判断だよ」

シーズは五人を順番に見渡した。

「でも、今回の任務は敵を倒すことではないよね。敵の戦力を把握し、生きて情報を持ち帰ることだ」

そこで一度、言葉を切る。

「なら、敵と遭遇したとき、どう対応するのが最も効率的かな?」

ヒロはその言葉に納得したように、小さく頷いた。

「先手必勝!」

マークが拳を手のひらに打ちつけ、力強く呟いた。

「だいたいのことは、マークが悪い」

それを聞いていたリアが、眠たげな目のままぽつりと言う。

「えっ?違うの?」

マークがとぼけた風に声を上げると、やれやれと言ったポーズをリアがとった。

そこで、ようやくディアが口を開く。

「目的は伝えた。そして今回は、この中から指揮官を決めて動いてもらう」

シーズの目がわずかに開いた。
だが、すぐに何事もなかったように微笑む。

「私がやります」

レーアが即座に手を挙げた。

隣に立つライアンが驚いた表情を浮かべたものの、すぐに気を取り直す。

「いや、指揮なら俺が執る」

レーアの横顔を見ながら、ライアンも手を挙げた。

「レーア。指揮官を務められる根拠は?」

ディアの厳しい視線がレーアへ向けられる。

レーアはひと息ついてから答えた。

「全体指揮を行う場合、前衛ではなく、俯瞰して全体を見渡せる後衛が最適だと考えました」

ディアの片方の眉が、わずかに上がる。

「それを言うなら、臨機応変な対応が必要な前衛の俺が指揮を執った方が、即応性は高い」

ライアンも負けじと声を上げた。

ディアは二人を交互に見る。

「では、二人に問う。敵と遭遇した場合、どう対処する?」

「可能な限り、戦闘の回避を優先します」

レーアが答えた。

続いて、ライアンも迷うことなく口を開く。

「敵への情報漏洩を防ぎ、同時に戦力を削るため、先制攻撃と殲滅を優先します」

ディアは少し口元を緩めると二人に向けて、ゆっくりと問いかけた。

「ならばさらに問う。このように現場で意見が分かれた場合の対処方法は?」

レーアは口を開きかけて、言葉を飲み込んだ。
何かを思い出すように目線を泳がす。

「迷っている時間が一番危険です。俺が指揮官なら、その場で最善だと思う行動をすぐ決めます」

ライアンが即答した。

その言葉を聞いたレーアは思い出したように言う。

「感情ではなく、事実を元に指示を出します」

レーアは自分の答えを確かめるように、言葉を続けた。

「そう、敵の数、装備、地形、仲間の状態。その時点で確認できる事実を整理して判断します」

ディアの目線が一瞬鋭くなる。

「その判断が間違っていたとしても?」

短い問いだった。

「はい。それで守られる明日があるなら」

レーアは、まっすぐディアを見つめた。

返事はない。
ディアはただ、その瞳を静かに見返している。

誰も口を開かなかった。
朝の風だけが、広場を静かに吹き抜ける。

やがてディアは小さく息を吐くと、五人を見渡した。

「……全員、よく覚えておけ」

その一言だけを残し、踵を返した。
五人は黙ったまま、その背中を見送る。

誰一人として、その言葉の続きを求めようとはしなかった。

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