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イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第五十二話 一緒に


誰かの選択は、誰か一人の罪ではない。

けれど、その選択が残したものを、誰かが見届けなければならない時がある。

私はそれを、エラ一人に背負わせないことにした。


エラとヨル 第五十二話
【一緒に】


サンの話を聞いた後、誰も口を開かなかった。

ただ、サンの話したことが事実であることは、誰もが理解していたと思う。

祭りは、終わりを迎えていた。
流れていた音楽も、いつの間にか止まっている。

残っているのは、夜の静けさだけだった。

黙っていたエラが突然立ち上がり、そのまま歩き出す。

「エラ。どこに行くの?」

私の声で、エラはピタリと足を止めた。

けれど、振り返らない。

「ニコに会いに行く」

「どうやって?」

私が聞いても、エラは振り返らなかった。

「あそこに居るんだろ?」

エラは、中央殻都の一番高い塔を指差した。
私も立ち上がり、エラの後を追う。

「この時間、大門は閉まってるよ」

「関係ない!」

「関係なくない!」

私の声でエラは足を止め、吐き出すように叫んだ。

「ニコは私を守るために、なりたくもないサーシャになったんだ!」

パシッ。

その言葉を聞いたとき、私はエラの頬を叩いていた。

手が痛い。

それ以上に、胸が痛かった。

「エラ。それは違う!」

自分でも驚くほど、声が震えていた。

「ニコは自分で選んだ。エラを守るだけじゃない」

私は、エラを見つめた。

「ここにいるサンを守るためにも、自分で選んだ!」

私の心が叫んでいた。

立ち上がり、止めようとするサンを、オトが静かに止める。

「じゃあ、どうすればいいのさ!」

エラは、叩かれた頬を押さえたまま俯いている。

その声は、怒っているようで、泣いているようだった。

「会いに行くよ」

私は言った。

「でも、エラだけじゃない」

エラの肩が、小さく揺れた。

「サンも、オトも、私も。一緒にね」

エラは何も言わなかった。
ただ、肩だけが震えている。

私は、震えるエラを優しく抱きしめた。

「うっ、うっ……」

エラから、嗚咽が溢れた。
私はその声を聞くことしかできない。

街の灯りが落ちていく。
楽しかった時間は終わった。

でも、やることは決まっていた。

中央殻都にいる、本物のニコを見つけて話をする。

その思いだけは、誰も否定しなかった。



翌朝。

白カラス亭で朝食をみんなでとっていると、一番最後に起きて来たエラと目が合う。

気まずい。

昨日はあのまま宿に戻り、口数少なく寝てしまった。

私は俯いて、エラを見られずにいた。

椅子を引く音で顔を上げると、正面にエラが座っている。

「昨日は、ごめ……」

私が言い切る前に、エラが言う。

「昨日は、ごめんなさい」

エラが頭を下げている。

オトがクスリと笑う。

「ちゃんと、謝れて偉いですね」

その言葉を聞いたエラは、顔を上げてオトを見る。

「オト〜。ヨルに叩かれた〜」

エラは子供のようにオトに縋りつく。

「はい。はい。でも、悪かったのどっち?」

「私……」

エラは気まずそうに下を向く。

オトはエラの頭を撫でながら言う。

「そうですね。でも、暴力はいけません」

そう言うと、私を見る。
ちょっと安心している自分がいる。

私はひと息吐いて、立ち上がり頭を下げた。

「叩いて、ごめん」

顔を上げると、エラが満面の笑みを浮かべている。

「じゃあ、今日の食事は好きなもの食べていい?」

「うっ……」

私は言葉が詰まる。

隣の席のサンが、嬉しそうに言う。

「エラさんがご馳走してくれるんですか?」

「そうじゃなくて……」

サンの返しにたじろぐエラは、頭を掻いて誤魔化している。

みんなの笑い声が溢れる。
空気が軽くなるように感じた。

「それより、私たちの話もサンにしたい」

そう言うと、サンはニコリとして頷いた。

部屋に戻ってから私たちは、エラとニコのこと、雪山であったこと、エラの竜の力の秘密、シルベについても全て話した。

ひとつひとつをゆっくり頷きながら、サンは聞く。

「……これが、私たちがルーベントに来た理由」

私たちの話も、にわかには信じられない。
でも、サンは何かを理解したように頷いた。

「わかりました。エラさんたちの敵は、私の敵です。一緒に潰しましょう!」

軽く言っているが、怖い。
昨日のサンの姿を見ている分、余計にそう感じる。

「協力してくれるのは嬉しいけど、竜祀教全てを相手にしたいわけじゃないんだ」

私はゆっくりと話す。

「エラを縛る、最後の竜石を砕ければ、奴らも手出しが出来ないから……」

そう言ってエラを見た。
エラも頷いている。

「そうですか……じいからは、敵は叩ける時に、徹底的に叩けと教わったんですが……」

――なんなんだ、その物騒な教育は?

サンが不思議そうに首を傾げるのを見て、私はため息を吐いた。

「じいって、お爺様ですか?」

オトが訊ねる。

「ああ、じいは血の繋がりはありませんが、館にいた時に、色々教えてくれた人です」

「執事みたいなもの?」

気になって、私も訊ねる。
サンは顎に手をやって、少し考えている。

「うーん。多分、それに近いんですが、剣の師匠でもあります」

赤い瞳の総裁の娘に、剣を教えられる。
やはり、物騒な人だと思う。

「一応、十二使徒の影。第一席。ジャッジメントっていう役職でした」

「第一席!!」

私は思わず声を上げていた。

サンは少し驚いて答える。

「子供の頃、ジャッジメントって上手く言えなくて、じいって呼んでて、それ以来ずっとじいです」

わかっていた。
サンの周りには、赤い瞳と十二使徒の影があることは。

ただ、昨日現れた底の知れない男を思い出す。

第二席フール。

挨拶代わりにナイフを喉元に突き立てる相手だ。
さらに上位の席の相手に剣を教わっていれば、感覚もズレる。

わかっていたが、私は頭を抱えた。

「ジャッジメントさんって、強いんですか?」

オトが興味を示した。

「街を出てからわかったんですが、大陸一の暗殺剣の使い手だったそうです」

サンがサラッと答える。

「暗殺剣……」

オトも若干引いている。

「でも、不思議なんです。他の者は騙せてもじいならニコのことを気づくはずなんです」

確かに剣の師であるジャッジメントが、いくら双子だからと言ってサーシャとニコの違いに気づかないのはおかしい。

私も疑問に感じた。

「多分、何か事情があるのか、知った上で協力しているのか……」

サンもわからないようだ。

そんな話をしていた時に、急に扉を叩く音がした。

外から声が聞こえる。

「地図職人のヨル殿。ディケ監査官が至急のお呼びです!」

私たちは顔を合わせて、立ち上がる。

何かが、動き始めていた。



🔙第五十一話   第五十三話🔜



創作大賞2026 ファンタジー小説部門 投稿作

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