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商工会の経営指導員⑥  商工会との決裂と、新たな壁【#創作大賞2025#お仕事小説部門】

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悔しさが、喉の奥で熱を帯びて膨らんでいく。
言葉にすれば崩れてしまいそうで、唇を強く噛みしめた。
拳を握りしめても、その震えは止まらない。

「森田、桜川マルシェの件、商工会としては正式に“関与しない”と決定する。」
滝本の声は冷たい鉄の塊のように、悠斗の胸に沈み込んだ。

「なぜですか!? 商店街のみなさんは、やる気になっているんです!」
しかし、滝本は難しい表情を崩さなかった。

「……確かに、商店街の人々が前向きになり始めたのは事実だ。」
「だが、このイベントが成功する保証はどこにもない。もし失敗すれば、参加した事業者たちにさらなるダメージを与えることになる。」

悠斗は強く言い返した。
「だからこそ、商工会が支援するべきじゃないんですか!?」

「商工会は、失敗ができないんだよ。」
会議室の奥で腕を組んでいた三浦誠司が、悠斗の言葉を切り捨てた。

「お前の言うことは、ただの自己満足だ。もしこのイベントが赤字になったらどうする? 出店者が損を出して、また『こんなことならやらなきゃよかった』って言い出したら?」

悠斗は反論しようと口を開くが、三浦はそれを待たずに畳みかけた。

「現場を知らない若造が、熱に浮かされて“イベント”をやれば、町が変わるとでも思ってるのか。笑わせるな!」

一瞬、会議室の空気が凍った。

言い過ぎだと感じた職員の何人かが顔を曇らせるが、三浦は意に介さない。
「なあ森田、お前は何か責任を取れる立場にあるのか?」

——責任。

その言葉の重さに、悠斗の背筋がわずかに強張る。

「商工会はな、“熱意”では動かない。“実績”でしか動けないんだよ。」

さらに、三浦は机の上の書類を一枚、悠斗の前に差し出す。
そこには、桜川マルシェの収支予測が雑に手書きされていた。

「この計画書はなんだ?参加店数に対する売上見込みが甘すぎる。“晴天で盛況だった場合”の試算しかない。
雨が降ったらどうする? 動員が半分だったら? 返金やクレームの想定は?」

悠斗は言葉に詰まった。
まだ考え切れていなかった部分を、三浦は容赦なく突いてくる。

「これで“支援しろ”だと? ふざけるな。」
バサリ、と資料を悠斗に叩きつけ、三浦は立ち上がる。

「お前のやってることは、ただの“感情の押し売り”だ。支援を名乗るには百年早い。」

その言葉に、会議室が一気に緊張に包まれる。

秋山が口を開きかけたが、三浦は彼女にすら目を合わせず言い放つ。

「商工会は、そういう“幻想”を追う組織じゃないんだよ。」

悠斗は拳を握りしめた。

この人は、間違っている。だが、同時に“正しさ”も持っているように見えて、悔しい。

「……自己満足じゃない。僕は、みんなのために……!」
その声は、震えていた。

しかし三浦は冷ややかに一言だけ返す。

「なら、一人でやれ。もちろんお前が 、『全 責 任』 をもってな。」

背を向けた三浦の歩みに、誰も言葉をかけられなかった。
——その背中は、誰よりも遠く冷たかった。

しかし、その時だった。
「森田くん、諦めないで。」

悠斗が驚いて振り返ると、そこには秋山真由の真剣な瞳があった。
「私たちでできることを、全力でやろう。」
「絶対に成功させよう。商店街のみんなのために!」

その言葉に、悠斗の心に再び火が灯った。
「商工会が動かなくても、俺たちがやるんだ。」

しかし——
この決意が、さらに大きな試練をもたらすことになるとは、この時の悠斗はまだ知らなかった。


#創作大賞2025 #お仕事小説部門

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