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商工会の経営指導員㉒        元凶たちの逆襲【#創作大賞2025#お仕事小説部門】

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その翌日——

悠斗たちが手にした証拠の情報が、一部メディアにリークされた。
地元ニュースサイトには、以下のような記事が掲載された。

『桜川市の都市開発事業に不正疑惑——商工会、市議会、ディベロッパーの癒着か?』
『開発の裏で動いていた資金の流れが発覚』

ニュースが拡散され、SNSでも次第に話題になり始めた。
しかし——

情報が地元メディアに流出した翌朝——

川崎市役所の秘書課では、未明から異様な緊張感が漂っていた。
「……あの件、どうするおつもりですか」
副市長の声に、市長・川崎はゆっくりと眼鏡を外し、冷ややかな口調で返した。

「火消しは既に手配済みだ。市の広報課には“記事内容の裏付けなし”と発表させた。
それに——商工会の滝本局長とは、もう話がついている」

その頃、桜川商工会の局長室では、滝本が、書類の山を前に秘書と密談していた。

「まったく……なぜこんなタイミングで古いデータが漏れる。
だが、藤嶋とかいう記者……まだうろちょろしてたとはな」

滝本は、机の上の内線電話をとり、市役所の川崎市長へと直通をつないだ。
「川崎さん、例の“定例記者会見”——予定通り進めます。
こっちは“事実無根”の声明を出す。そちらは“市は関与していない”という体で押し通してくれればいい」

電話の向こう、川崎は笑った。
「問題ない。記者クラブには先に“非公式の注意喚起”を流しておいた。
“名誉毀損の恐れがある情報について報道は慎重に”とな。
マスコミなんて、行政と広告費の顔色をうかがうものだ。潰れる」

「ありがたい。こちらも“地域振興費”の一部を使って、ネット上の書き込み監視を外注しておく。炎上は、抑え込める」


同日午後——
地方新聞社「桜川日報」の編集部では、ある異常が起きていた。
内部リーク記事を担当していた若手記者が、編集長に呼び出され、険しい表情で言い渡された。

「この件、今後は“保留”にする。掲載記事はトップから削除する」

「……なぜですか!? 反論文は出ても、まだ裏が取れてないってだけで——」
「市から“強い申し入れ”があった。
それに、商工会からも正式な抗議文が届いている。今、スポンサーの大手地銀も“静観”の構えだ。 分かるな? 我々の立場も、微妙なんだよ」

その頃、滝本と川崎は、密かに“情報統制リスト”を共有していた。

・SNSの特定ハッシュタグを重点監視
・メディア各社の報道スタンス別に「協力的」「中立」「危険」とランク分け
・市広報が裏で運営する“市政応援ブログ”を用いた世論操作の実施

一方、東海ディベロップメントの村上社長も、素早く反撃の手を打っていた。
彼の元にはすでに、「桜川市役所の保管データに不正侵入があった」との情報が、市幹部から極秘裏に届けられていた。

村上は、静かに笑った。
「……そうか。データは“うち”からではなく、“市”から出たものか。
それなら話は早い。責任の所在を、市に押し戻せる」
彼はすぐさま顧問弁護士を呼び出し、情報漏洩ではなく「不法侵入および窃盗による証拠の不正取得」として、 刑事告訴と民事での損害賠償請求の準備に着手した。

「違法手段で得た証拠に正当性はない。それが法の建前だ。
裁判で使えないデータを、正義だの真実だのと喚いたところで、マスコミは動かんよ」

さらに村上は、旧知の広告代理店を通じて、主要メディアの営業部門にプレッシャーをかけさせた。
「桜川再開発プロジェクトの広告出稿、全て一時停止。
“特定の偏向報道が終息するまで”とな」

裏では、川崎市長とも接触を図っていた。
「市のデータ管理体制の不備を認めるような真似はしないでもらいたい。
こちらも、市の名誉と安定を守るために尽力してきた。わかりますね?」

市長は無言で頷き、その背後で進められていた“記録ファイルの廃棄”が急がれた。

最後に、村上は報道関係者向けに「警告文書」を発行した。
そこには、こう記されていた。

「現在拡散されている“証拠データ”は、違法に取得されたものであり、明白な不法行為によるものです。
本件に関する報道や引用については、名誉毀損・業務妨害の可能性を含むため、法的措置を検討いたします。」

彼は、会議室のガラス越しに空を見上げ、つぶやいた。
「奴らは、こちらがルールを守って戦うとでも思ってるのか……」


その日の午後、商工会が正式なコメントを発表した。
「桜川商工会は、一部報道にあるような不正には一切関与しておりません」
「虚偽の情報が流布されており、事実無根です」
記者会見で、滝本は感情の一切を殺した無機質な声で淡々と語った。

その映像がテレビで流れると、悠斗は歯を食いしばった。
「……やっぱり、認めるわけがないか」

秋山が、不安げに画面を見つめながら言った。
「このままじゃ……逆に、私たちの方が“フェイク”って思われる……」
しかし、三浦はその映像をじっと見つめながら、ぽつりとつぶやいた。

「……いや、これはチャンスだ」

悠斗が驚いて振り返る。
「チャンス……?」

「滝本は、“関与していない”って言った。証拠がないと高をくくってな」
三浦の目が、わずかに鋭く光る。
「こっちは、“本物の証拠”を握ってる。あとは、いつどこで、それを叩きつけるかだ。今なら、奴らは油断してる。だからこそ——一気に決める」

悠斗は、拳を握りしめた。
「……やってやる」

そのとき——
スマートフォンが震えた。

差出人は「浅井議員」。
《市議会の臨時召集が認められた。今週金曜、議題は『再開発事業の再検証』》

三浦は笑った。
「舞台は整った……あとは、幕を開けるだけだ」


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