障子を張り替える日
ここ最近、私は片付けと掃除に明け暮れている。教材から始まり、衣類、雑貨、文房具…。既に45Lゴミ袋4袋と貯めに貯めた山のようなプリント類やノートを捨てた。部屋の隅にはもう見ないが使える参考書がメルカリ出品のため積んである。
昨日は朝から素晴らしい晴天だった。私は朝日を浴びながら神妙な顔で覚悟を決め、以前より後回しにしていたアレを遂に今日決行することにした。
朝の支度を済ませたあと、小鍋に水を量り入れ、ダマにならないよう気をつけながら少しずつ小麦粉を溶かす。すべて溶かしたら火にかけ、弱火でゆっくり加熱する。
もったりと糊状になってきたら火からおろして少し冷まし、おままごとセットの小さな鍋に移す。
別のおもちゃの鍋には水を入れ、それらを持って部屋に戻る。
雑巾、筆、カッター、新聞紙、和紙を用意し、準備は万端。
私はおもむろに障子を外した。
もう何年張り替えていないだろうか。私が小さい頃母が洗濯物を干す際にハンガーを障子に貫通させてしまう癖があったため、緑の養生テープで穴が補強され、大部分が緑の障子に成り果てていた。わずかに残った和紙の部分も日に焼けて黄ばみ、格子には埃が降り積もっている。私はその障子から数年にわたり目を逸らし続けてきた。
面倒な作業だが、障子の和紙は接着部分を水で軽く濡らしてやるとふやけてペリペリと簡単に外れる。しかもこの障子は雪見障子なので張り替えの面積が通常より少ない。昼過ぎには障子4枚の張り替えが終わるだろうと予測し取り掛かる。これが大誤算だった。
養生テープを剥がして湿らせた和紙は、障子上部は簡単に剥がれたものの、中〜下部は中々剥がれない。水を足しても結果は同じ。
原因解明に努めたところ、それは化学糊が使われたことにより、デンプン糊よりも強力に木目とくっついてしまっていることが原因だと突き止めた。
勿論ここで諦めるわけにはいかない。
間隔を空けて少しずつ何度も水を含ませ、マイナスドライバーで削るようにして根気よく取り除いていく。少しずつ、少しずつ…。
どれぐらい時間が経っただろうか。すべての紙をすっかり取り除き、私は遂に障子を丸裸にすることに成功した。
だが喜んでいる暇はない。すぐに埃を取り除いて先程作った糊を引き寄せる。大きな刷毛があれば楽なのだが見当たらなかったので、仕方なく絵筆の平筆で代用するが、ちまちま塗っていざ紙を張ろうとすると最初に塗った所が乾いている。その為一度塗ったあと乾いていそうなところを見極めて手早く糊を重ね塗りして紙を貼らなければならない。しかも紙は中途半端なサイズの物しかなく、一度に張ることができないので2段ずつ張ってサイズの合わない部分を都度カットする必要がある。
そんなこんなで一枚貼り終えるのに昼過ぎまでかかってしまった。なんと予想の4倍の時間がかかっている。
他の障子はデンプン糊であってくれと願ったが、結局すべて中〜下部は化学糊だった。
私はひたすら湿らせ、削り、湿らせ、削りまくった。ペタペタ塗って紙のロールをコロコロ、カッターでシャーッ。
結局夜までかかってやっと4枚を仕上げた。
21時、紙屑や埃が散乱したカーペット、不自然にそこだけ真っ白な4枚の障子がLEDの光を反射して無駄に輝いている。輝きすぎて落ち着かない。
最後の力を振り絞ってカーペットを掃除して布団を敷き、道具を洗い、風呂に入って布団に潜り込んで泥のように眠った。
翌朝。起きて戸を空ける。曇りなのに部屋がいつもより明るい。養生テープのない真っさらな障子紙が完璧にピンと張り、自然光を通している。私は心のなかでにんまりし、その障子を正面から眺めた。
なお、その横にはめられた、更に格子が細かく同じように黄ばんで養生テープだらけの障子には気付かないふりをする。この部屋以外にはめられた障子にも同様に。
消して面倒くさい訳では無い。まだその時ではないだけである。
