おかえり珈琲【風まかせ文芸部】
社会人になりたての頃、コーヒーは眠気止めだった。
缶コーヒーを一気に流し込んで、
「よし、今日も社会に出荷されるか」とつぶやいてた。
味は、正直どれも同じ。薬みたいなもんだ。
数年後、ロンドン長期出張。
コンビニがないと、人はここまで不便になるのかと痛感した。
朝はカフェかベーカリーで、パン・オ・ショコラ、クロワッサン、たまにベジマイトサンド。
どれもおいしいけど、高い。
エリザベス女王のお札を出すたび、
「これ、モノポリーの紙幣やろ」と心の中でツッコむ。
円換算したら負け。
カフェラテ一杯で、心が一瞬ひび割れる。
それでも飲む。
寒い朝に、あったかいものを手に持つと、
なぜか「今日もなんとかなる気」がするからだ。
——で、帰国。
空港出て、最初に寄ったのはもちろんコンビニ。
100円のシュークリームが、神の食べ物みたいにうまい。
惣菜もうまい。唐揚げもうまい。
菓子パンの棚の前で、「これが文化の力か」と本気で思った。
しかも、豆を挽いたコーヒーまで飲める。
ふたを開けた瞬間、湯気が上がる。
あの懐かしい苦味。
手がかじかむ冬の朝でも、この一杯があれば生き返る。
考えてみれば、
新人の頃は“戦うためのコーヒー”だったけど、
今は“戻るためのコーヒー”になった。
コンビニは偉大や。
そして、コーヒーは今日も、ちょっとだけ人生をやさしくしてくれる。
