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赤ペン課長【風まかせ文芸部】

子どもの頃、赤ペンは先生のものだった。
間違った回答に線を引き、正しければ丸をつける。時には花丸まで。
それが大人になると、赤ペンは上司の手に渡り、企画書や報告書に情熱の矢印や囲み線を散りばめる道具に変わっていた。

若い頃、僕は田中課長の赤ペンに泣かされた。
企画書を提出すると、翌日には返ってくる。いや、正確には真っ赤に染まって返ってくる。

課長は赤ペンを握ると人格が変わる。誤字脱字から矢印の角度、囲み線の太さまで。
今思えば、意味のある修正は一割、残り九割は完全に課長の趣味だった。
三回目には矢印が流線型になり、八回目には吹き出しだらけで本文が見えなくなる。

十回目、戻ってきた紙を見て僕は固まった。
それはもはや資料ではなかった。真っ赤な抽象画だ。
横で課長が腕を組み、つぶやく。

「……もはや芸術だな」

──あれから会社の公用語は英語になり、課長は赤ペンを封印した。
英語の資料を前に、ただ首をかしげ、何も書かず返すだけだ。

真っ白の企画書を見つめながら、僕は思う。
芸術の終焉って、案外こういう形なのかもしれない。

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