二重投稿【風まかせ文芸部】
スマホをいじるのは、夕飯の片付けを終えた後と決まっている。パートから帰って、夕食を用意して、洗い物を済ませて。時計を見たら、もう十時を回っていた。ようやく自分の時間だ。
友だちや娘が投稿するタイムラインを眺めるのが、ちょっとした楽しみになっている。今日は娘から写真が届いていた。孫が保育園で描いた絵だそうだ。へたくそな猫が、どう見てもカエルにしか見えない。思わず笑って、コメントを書いた。
その流れで、ふと自分でも投稿したくなった。晩ご飯に作ったカレーの写真を載せて、「玉ねぎ多めで甘口にしました」と一言添えた。大したことじゃない。誰が見るわけでもないけれど、こういうやりとりが案外楽しい。
数分後、友人から連絡がきた。
「ねえ、あんた投稿、二つ出てるわよ?」
驚いて画面を見直すと、確かに同じカレーの写真が二枚、並んでいる。違うのは文章だけ。私が書いたのは「玉ねぎ多めで甘口にしました」。もう一方には、こうあった。
「玉ねぎ多めで甘口にしました……でも夫が喉をつまらせかけて、大騒ぎになった」
ぞっとしてキッチンを振り返る。夫は居間でテレビを見ている。咳ひとつしていない。すぐに投稿を削除しようとしたが、普通の方は消えたのに、不思議な方は何度やっても残った。
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翌日、夫が夕飯の魚を食べていて、本当に骨を喉に詰まらせた。大事にはならなかったけれど、私の手は冷たく震えていた。
それからというもの、二重の投稿は続いた。
「今日はいい天気でした」
「今日はいい天気でした……帰りに急な雨に降られました」
実際に傘を持たずに濡れて帰ることになった。
「娘から孫の絵をもらいました」
「娘から孫の絵をもらいました……その額縁が夜中に落ちて、ガラスが割れました」
翌朝、居間に入ると額が床に落ちていた。
どうして私だけ、こんなことが起きるのか。怖くて誰にも相談できない。
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そして今夜。
ベッドに入る前に、つい習慣でタイムラインを開いてしまった。
「寝る前に読書」――何気なく投稿する。
数分後、通知が鳴った。
そこに並んでいたもう一つの投稿は、こう書かれていた。
「寝る前に読書……背後に誰かが立っていた」
居間の灯りはもう落ちて、夫はとっくに寝室にいる。私の背後には、誰もいないはずだ。
慌てて画面をスクロールすると、新しい投稿が追加されていた。
「寝る前に読書……スマホを見つめ、振り返ろうとした」
手が汗で滑りそうになる。
――私は、まだ振り返っていない。
