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azurehoho
父お家迷子【風まかせ文芸部】
うちの父は建築家だ。
クールぶってるけど、家では大して仕事してない。
昼間はソファでうたた寝、夜はワイン片手に映画。
「創造には余白が必要なんだ」とか言ってるけど、要するにサボりだと思う。
そして不思議なことに、父はときどき室内行方不明になる。
外出ではない。靴もあるし、車も止まってる。
母は「またトイレこもってんじゃない?」と笑うけど、
そんな長時間トイレにいたら別の意味で心配である。
私は理屈っぽい性格だ。こういう謎は放っておけない。
「どこに行ったの?」私は小声でつぶやきながら、家中を探し回った。
ソファの下、キッチン、ベランダ……いや、そんなとこにいるはずない。
階段を上り、廊下を行ったり来たり。まるで探偵だ。
ふと廊下の壁を触ったとき、カチッと音を立てた。
押してみると、白い壁がわずかにずれた。
──開いた。
その先は、薄暗い小部屋。
木の机に、図面。大きなモニター。
模型。照明の角度まで計算された静かな空間。
とても空気が心地いい。
「……ここ、何?」
紙の束の表紙に『集合住宅リノベーション案』と書いてあった。
本気で仕事してる形跡。ちょっと、意外だった。
「見つけたか」
声がして、背中が跳ねた。
振り返ると、父が立っていた。いつになく穏やかな顔。
「隠し書斎だ。誰にも邪魔されずに考え事ができる場所」
「なんで隠すの」
「隠さないと、こういうのは“部屋”にならないんだよ」
妙に名言めいてて、反論できなかった。
翌日、私は自分の部屋で段ボールを積み上げ、
ミニ“隠し部屋”を作った。
布製クッションを並べ、小型ランプで柔らかく照らす。
中にはタブレットと、チョコと、自由帳。
母が通りかかって聞いた。
「なにしてるの?」
「設計中」
「何を?」
「私の余白」
父と私。
似た者同士らしい。
それがちょっと、うれしかった。
