見出し画像

二院制と参議院論 PART.2 ~カーボンコピーの汚名返上~

前作では、世界の上院について網羅的に概観し、分析を行いました。

今回も三部作として、PART.2のこの記事では、PART.1で確認した上院のあり方や分類をもとに、現代の日本に最も適している上院の制度について、そのあり方から具体的な権限に至るまで、考察していきます


世界の上院のあり方

前作では、まず先進諸国における上院のあり方を網羅的に概観しました。まとめると、

  • 任命制

    • 地域別定数がない(単一国家・イギリス)

    • 地域別定数がある(連邦制・カナダ)

  • 地方による選出

    • 地方議会の間接選挙(単一国家・フランス、オランダ)

    • 州等による選出・任命(連邦制・オーストリア、ドイツ、ベルギー)

  • 直接選挙

    • 地方代表(連邦制・アメリカ、スイス等)

    • 国民代表(単一国家・イタリア、チェコ、日本)

  • その他(アイルランド、2009年以前のノルウェー)

このように、多様な上院があることが分かりますが、連邦制か単一国家かどうかが、上院の性質を決定づけるのに重要な要因となっていることが分かります。

また、各国の上院の特徴を整理するために、役割、機能、権限の3つの観点から分析を行いました。これを一覧で整理すると、

  • 役割

    • 再考

    • 代表

    • 均衡と抑制

  • 機能

    • 審査

    • 発議

    • 特定分野の審議

  • 権限

    • 遅延権、拒否権

    • 両院協議会

    • 憲法改正の同意

    • 特別な分野の権限

このようになります。また、その他重要な点としては、以下が挙げられます。

  • 代表には大きく、有識者の代表、地方代表、職能代表、政党代表の4つがある

  • 選出方法だけを工夫しても、機能や権限も適切に考えなければ、想定した役割を担えない可能性がある

  • 民主的な議院ほど強い権限を持ち、そうでない場合はあまり強い権限を有していない

ここからは、私の問題意識と、望ましい参議院のあり方(役割と機能)について述べ、その後に具体的な権限について、述べていきます。ただし、衆議院の選挙制度は、前作で述べた「中選挙区比例代表制」とします。

具体的な制度案は、以下の通りです。

  • 衆議院(定数535)

    • 原則として都道府県を選挙区(定数は3~8程度におさめる)とする

    • 選挙区内で、ドント式で政党に議席を配分し、党内で個人票に基づき当選者を決定する、非拘束名簿式比例代表制とする

参議院の望ましい役割

民主主義の番人

まず、望ましい参議院の役割について考えていきます。ただ、実は以前の記事において私の考えを示しているので、詳しくはその記事をお読みいただけたらと思います。

要点を申しますと、日本国憲法は国際的にも単語数が少なく、柔軟性を持った憲法であり、多くの要素を法律に委任しているため、国民の義務や刑罰、人権保障、統治機構といった重要法案について慎重な審議(再考)を行えるようにして、行政や下院に対して抑制と均衡の役割を果たせるようにするために、参議院を設置すべき、というのが私の考えです。すなわち、参議院を民主主義の番人として位置づけるべき、ということです。

憲法においては、社会情勢が大きく変化しない限り改正は慎重になるべきですが、かと言って具体的な規定が多いと、統治機構や政治改革の度に改正する必要が生じることになります。よって、柔軟性と慎重さを上手く両立させるためには、憲法と一般法の間に、参議院で慎重に審議されるべき重要法を位置づけるべきだと言えます。

一方で、法律や政令が憲法に違反していないかを最終的に審査する最高裁判所は憲法の番人と呼ばれており、参議院と重複するのではないかという反論があるでしょう。しかし、選挙で選ばれたわけではない裁判所は、憲法9条のように、政治的に大きな争点になりうる案件は政治が決するべきとして、自らの意見を提示することは稀です(統治行為論)。しかも、なんらかの事件や訴えがない限り審理を行うことはありません。一方の参議院は、法律が施行される前に審査を行うことが出来るほか、単に憲法に違反しているかと言う観点から外れて、大局的に望ましいかという視点で判断を下すことが出来ます。さらに、参議院議員が選挙で選ばれる場合は、民主的正当性を背景に、政治的な案件にも躊躇せず切り込むことが出来ます。このように、同じ番人であるとは言え、憲法だけでなく、民主主義そのものの番人になれる存在であることこそ、参議院の存在意義だと考えます。

地方代表であるべきか

一方で、多くの国が、上院に地方代表の役割を与えているのも事実です。しかし、日本はそもそも連邦制ではないことに加え、前作で挙げたベルギーやスペインのように、地方ごとの民族、言語、宗教など、地理的、文化的な要素に起因する、先天的な利害対立はさほど大きくありません。そのため、地域毎の代表を仮に出したとしても、争点が公共事業等に集約されてしまい、選挙が地元へのサービス合戦と化してしまう可能性があります。そうなると、発言力ある議員を有する地域が有利になってしまい、本来考慮されるべき側面が掻き消されるようになります。

確かに、都市部への人口の集中が止まらない中で、農村・過疎地域と、都市・過密地域の間の対立は考えられます。しかし、都市と地方の問題は、全国的な人口配置をどうするべきか、具体的にどれくらいの予算を地方に配分すべきかという、全国的議論の中で決められるべき内容です。そもそも、どうして地方振興が必要なのかについても、農村部の住民のためだけなのか、または都市部の住民にも恩恵があるのか、国土保全の観点、安全保障の観点からも、議会の中で大局的観点を交えながら議論されるべきだと考えています。(私は山間部出身で、農村の重要性は知っているつもりですし、過疎化にも手当を打つべきだと考えています)

ただ、前作で主張した衆議院の選挙制度では、3~8人の定数を確保できるくらい広い地域を選挙区とするため、候補者が都市部ばかり回ってしまい、交通の便が極端に悪い地域は見捨てられる可能性があります。住む場所によって候補者との交流さえ行えないのは「選挙権の剥奪」に近い状況と考えることも出来ます。よって、特に離島については、特別な選挙区を設置する理由があると言えます。

職能代表について

また、他国においては、上院に職能代表の役割を与えている例があります。しかし、私は参議院に職能代表の役割を持たせることに懐疑的です。というのも、業界団体の代表が上院に反映されるようになると、本来自由市場において決するべき事項についても、議員の発言力や政治力によって決まってしまうようになり、経済に悪影響を及ぼす可能性があります。しかも、スタートアップの多く黎明期にある業界は、議院に代表を送り出せないため、その点でも不公平なものであると言えます。

一方で、労働と経営の対立を、資本主義社会における絶対の対立であると仮定し、双方の代表を送り込めるようにすべきとの意見もあるかもしれません。ただし、経済的かつ後天的な対立である以上、各政党が政策決定に際し、独立して最適解を考慮することが求められるのであり、団体の政治力によって決するものではないと私は考えます。

従って、やはり参議院は、民主主義の番人としての役割こそが最適であると考えます。ここからは、この役割を果たすために、具体的に参議院が持つべき機能や選出方法について、考えていきます。

参議院の望ましい構成・機能

参議院の持つべき機能

先ほど確認したとおり、参議院は、最も慎重に行うべき憲法改正の審議のほか、人権保障や統治機構と言った重要法案の審議こそが、最も重要な機能となります。特に、憲法が法律に委任しているもの、すなわち憲法付属法については、参議院が慎重に審議を促すべきと言えます。

また、長期的視野が必要な、外交問題や財政問題、人口問題などを審議する役割も担うべきです。先ほど紹介した記事で述べたとおり、議院内閣制において、下院の解散は国民の仲裁を実現できる必要不可欠なものですが、それゆえ議員はいつ選挙があっても勝てるように、短期的な民意に敏感になります。一瞬の過激な民意に流されないように、長期的な視野で考えられる議員を残すことによって、立法の質を担保し、民主主義の番人としての役割をより果たすことが出来ます。

ただ、参議院はあくまで番人であり、ブレーキ役である以上、国政のアクセル役である政権を選択したり、その生殺与奪を左右することは控えるべきです。政権をどの政党が担うか、そして現政権を引きずり下ろすかについては衆議院によって選択されるべきであり、参議院が関与することは抑制的であるべきです。そして、「政権の意思」とも形容される予算、およびその執行に必要な法律(特例公債法等)についても、参議院が積極的に議論することは控えるべきです。これが否決されれば、政府はいかなる施策も行えなくなってしまいうため、事実上の不信任決議として機能してしまいます。事実、英国では、下院で予算が否決された場合、不信任決議が可決されたものとして捉える慣例となっています。

どのような議員から構成されるべきか

参議院が、憲法の番人たる最高裁とは違って、民主主義の番人としての役割を果たせるようにするためには、議員は直接選挙によって選ばれるべきだと言えます。選挙で選ばれることで、議員は裁判官とは異なる正当性を持って審議を行うことが出来ます。さらに、中央による任命制の場合、政府に対する監視の役割を果たすことが出来ませんし、地方代表ではない以上、地方政府や地方議会による選出も望ましくありません。また、一票の格差も、区割りを行う際に考慮するべきだと言えます。

また、憲法や重要法案、長期的な問題を審議するという機能を果たすためには、参議院は全国民を代表する必要があると言えます。そのため、民意を鏡のように反映できる、完全比例代表制が望ましいと考えられます。ただ、選挙については記述すべき事項が多いため、詳細は次回に譲ることとします。

望ましい参議院の権限

現行の参議院の権限

ここからは、参議院が有するべき権限について、考察していきます。
まずは、現行憲法が定める両院の権限を整理してみます。

  • 内閣不信任決議は、衆議院のみ議決できる

  • 内閣総理大臣の指名は、衆議院の議決を優先する(最大で10日間遅延可能)

  • 予算、条約の承認も、衆議院の議決を優先する(最大で30日間遅延可能)

  • 法案の議決は、衆議院が三分の二以上の多数で再可決しなければ、参議院が成立を阻止できる(衆議院の再議決を、最大60日間遅延可能)

  • 憲法改正案は、衆議院と参議院でともに三分の二以上の多数で議決されなければ、発議されない(国民投票を行えない)

ちなみに、参議院は議決をあえて行わないことによって、上記に掲げた日数だけ、議案の成立や再議決を遅らせることが出来ます(遅延権)。

こうして見ると、先ほどまで議論してきた参議院の持つべき役割、機能に照らして、政権選択をしない、予算に関与しない、憲法改正に深く関与するといったように、概ね適合的な規定になっています。しかし、他国と比べて異例なのは、法案の議決にかなり強い拒否権を認めていると言う点です。というのも、衆議院で三分の二を確保することは基本的に難しく(選挙制度にも依存する)、参議院が否決すると、その法案は事実上の廃案になってしまうのです。しかも、現行憲法では、予算の執行に必要な特例公債法案から、憲法付属法である公職選挙法にいたるまで、全ての法律について同じ基準を設けています。

こうなると、参議院が独自性を出すのは難しいです。仮に、参議院で与党が過半数を取った場合、統治機構といった慎重な審議が求められる法律も容易に可決させられるようになり、かと言って野党が過半数をとったとしても、予算の執行に必要な法案までも否決されるようになってしまうのです。だからこそ、参議院はどっちに転んでも、やれ「カーボンコピー」、やれ「決められない政治の元凶」と言われてしまい、終いには「参議院は不要」と言われてしまう始末になっています。

本来持つべき権限

参議院が民主主義の番人としての役割をきちんと果たせるようになるために、私は以下の点で、権限を変更すべきだと考えています。

  • 予算関連法案は、予算と同様に衆議院の優越を認める

  • 憲法が明確にその規定を委任している重要法案は、両院の可決によって、成立するものとする

ここまでは、憲法改正を経ずとも、参議院議員や政党の良識によって議決を行うことで、慣例として実現できると考えられます。

一般法の扱い

一方で、予算とも憲法とも関係ない一般の法律案については、かなり扱いが難しいです。例えば、下院を小選挙区で、上院を中選挙区で選挙しているオーストラリアでは、一般法案について両院はほぼ対等な権限を持っており、デッドロックに陥った場合の最終手段として、両院同時解散を規定しています。一方で、同じく両院を直接選挙で選んでいるスペインやチェコにおいては、上院は一般法案については遅延権をもつだけで、下院は一定期間の後、総議員の過半数などによって、再可決できるようになっています。これらを考慮した結果、憲法改正を前提とすると、

  • 衆議院が可決した一般法案については、参議院が異なった議決をしたら、衆議院が90日後に総議員の過半数で再可決した場合に、法律となる

  • 衆議院が可決し、参議院が修正可決したら、衆議院は出席議員の過半数の賛成で、その修正を受け入れることが出来る

  • 参議院は、衆議院の意思を尊重して審議を見送る旨を議決でき、さらに、60日間議決しなかった場合には参議院は可決したものと見なされる

とするべきと考えました(これについては、私も勉強中で、確信的なことは言えません)。

参議院は、法案を60日以内に否決、または修正可決することにより、そこから最短でも30日間世論に訴え続けることでメディアの注目を集め、政治的コストのかかる再可決を抑制する、という形で衆院に対抗します。また、会期不連続の原則により、会期末になると法案は廃案になってしまうため、再可決をするには、会期延長という強硬手段が必要になる可能性もあります。

そのため、政府与党は、本当に通したい法律は制度上可決できますが、世論が大きく反発した場合には、参院案を受け入れる動機を持つことになります。よって、野党も参議院で十分合理性ある対案を示す動機が生まれます。また、野党にとって、政治的に(パフォーマンスとして)与党案に可決することは難しいとしても、審議見送りの選択肢を設ける他、議決を行わないことで自動的に衆議院案が可決される規定を盛り込むことで、野党が衆議院を尊重する意思を示すことを可能にしました。

憲法改正をしないとなると、

  • 参議院は、争点化しない法律は可決する

  • 争点化する法律について、政府与党は、参議院で各政党に閣外協力を仰ぎ、両院での可決を目指す

このような慣例を作ることが現実的であると考えました。野党は与党と対決する姿勢を見せる動機が非常に強いですが、争点化しておらず、知名度の無い法律は、従来通り全会一致で可決できるはずです。一方で、争点化した法律については、昨今の少数与党を背景とする「熟議の府」と呼ばれた国会審議のように、与党と親和性のある政党とも協力しながら参議院での可決を目指す、というものです。

特別な権限

また、参議院の役割に鑑みて、特別に参議院が有するべき権限を、以下に提示します。

  • 裁判官弾劾裁判所で裁判を行う権限

  • 裁判所に対して違憲審査の訴えを起こす権限

  • 国会同意人事の同意を行う権限

一つ一つ見ていきましょう。

三権分立の中で、裁判所は国会と内閣に対して違憲審査権を有しており、反対に、内閣は最高裁判事を任命する権限を持ち、国会は素行不良な裁判官を弾劾する(弾劾裁判を行う)権限を持っています。現在は、弾劾裁判には衆議院と参議院から同数の議院が裁判に参加することになっていますが、アメリカに習い、裁判官を訴追するのは衆議院が、最終的に弾劾するかを裁判で決するのは参議院が担うべきだと考えます。

また、参議院が、法案審議の過程で、未然に衆議院の暴走を食い止めることが出来ず、その政策が実社会に悪影響を及ぼしてしまった場合に備えて、裁判所に違憲審査の判断を求める権限を付与すべきであると考えました。現行制度では、一般市民が訴えを起こすか実際に事件にならなければ、裁判所が憲法判断をすることはありませんが、これを参議院の要求によって可能にする、というものです。ただ、裁判所のキャパシティ等を鑑みて、過半数の要求によって可能とするべきでしょう。

最後に、国会同意人事です。ほとんど話題に上ることはありませんが、憲法に定めのある機関である、会計検査院、国家公務員の人事を司る人事院の他、政治的中立性が求められる選挙区策定審議会、国家公安委員会、公正取引委員会、NHK経営委員会、さらには日本銀行など、これら政治的中立性が求められる機関のメンバーを内閣が任命するにあたり、国会両院の同意が必要なのですが、これを参議院の専権事項とし、民主主義の番人としての役割を強化するのが筋でしょう。

結論

今回の記事の要点をまとめると、日本の参議院は、

  • 役割(Roles)

    • 民主主義の番人として、行政や衆議院に対する抑制と均衡を担う

  • 機能(Functions)

    • 憲法改正や、憲法が委任している重要法律長期的な政策の慎重な審議を行う

  • 権限(Powers)

    • 首班指名、内閣不信任決議、予算と財政法案の議決には、関与しない

    • 憲法付属法に対する拒否権と、一般法に対する遅延権を持つ

    • 裁判官の弾劾裁判、違憲審査の要求権、中立的機関の人事同意権をもつ

このようなあり方を目指すべきである、ということになります。ここまで見ると、目指すべき二院制像は、チェコの二院制と非常に類似していることが伺えます。

今回はここまでです。次回、いよいよ参議院の選挙制度について考えていきます。

参考文献

二院制諸国における選挙制度・任命制度 2015年3月27日 那須 俊貴・国立国会図書館調査及び立法考査局 議会政治課

いいなと思ったら応援しよう!