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ホワイトパール 【短編小説】

ショート(創作小説・ある男性からの些細な贈り物)

人生チョロいもんだ。

俺は高校時代バンドを組んでいた。
ギターだった。
ライブ中の写真を母さんが額縁へ入れて、
玄関に飾ってんの。

恥ずかしいって。

父さんは頭が良くてさ、
すげー大学に行ったらしい。
自分でロボット作って、夜中に話しかけてる。
ウケるよね。
「⋯父さん、キモイよ」
って言っちゃった。
そんなわけで、お金には困ってないんだ。

2個下の弟、雄馬とも仲いいし。

一緒に暮らしてるばあちゃんは優しいし。

何回か彼女も出来た。
俺の人生イージーモードだと思ってた。

高校在学中、俺は大学へ行こうと思っていた。
これと言った進路を決めれずにいて、
父さんみたいな理系は無理だから、
そこそこの大学で
キャンパスライフを楽しもうかな。
そんな風に思ってたんだ。



その日までは。




自衛隊か、警察官にならないか。



え!?って思ったよ。
マジで一瞬固まった。

なんで俺?俺が!?

でもさ、冷静に考えると、
なんか、かっこいいなって思って。

やべー!俺自衛隊?警察官?憧れの的?
凄くない!?

やっぱり俺の人生イージーモード。
チョロいもんだった。

だが、
自衛隊はその身体では無理だと言われた。

元々食べても太れない体質だ。
どちらかと言えば、
自衛隊の方が良かったが、
俺は警察官を目指すことにした。

高校卒業後、警察学校へ入校した。

あまり詳しくは書けないけど、
まっっっっじで、キツかった。
毎日毎日、実務、勉強、訓練、
来る日も来る日も休まる暇はなかった。

実家に帰りたかった。

母さんに電話したんだ。

そしたらさ、

「税金泥棒って言われてもいいから、かじりつきなさいよ」

だって。

なんなんだよ。あんなに俺に甘かったのに。

⋯⋯辞める訳にいかないよな。

俺は田辺巡査。田辺康平巡査だから。


給料貰いながら、学校に行ってるの。
学校も仕事みたいなもんなんだ、簡単に言うと。
そりゃそうだよな。

でもさ、厳しすぎるんだよ。
教官。


そんな中、教官から実家へ帰るように言われた。

何かあったかと内心ビビったよ。

そしたらさ、ばあちゃん、


死んじゃった。


一度ペースメーカーを入れる手術をしたんだ。
危険な状態だったけど、手術は上手くいった。

それから元気なくなっちゃって。

あまり外にも出なくなった。

叔母さんの家には毎週行ってた。
それが楽しみみたいだったんだ。


もっと一緒に散歩すれば良かった。
もっと話せば良かった。


もっと一緒に居たかった。

俺は実家へ向かうJRの席で窓の外を眺めた。
めちゃくちゃ視界がボヤケてた。
何も見えなくなった。

鼻水も出た。

親戚の前で泣くわけにいかないじゃん?
ここなら、誰にも見られないと思って。

俺は巡査だからさ。

市民を守る警察官だから。

ばあちゃんさ、色んな事教えてくれた。
教科書にない戦争の話とか。
母さんと話すより楽しかった。
手先が器用で着物着た人形作ったり、
編み物、縫い物、何でも出来て凄いの。

ばあちゃん、綺麗な顔してた。
苦しかったろうな。
ニトロ飲むと辛いっていつも言ってた。

最後の最後に手を握りたかった。


葬式中、
親戚は皆、警察学校の事を聞いてきた。
俺は銃の撃ち方とか得意気に説明した。

学校から離れて、少し気が緩んだのかもしれない。

見送りのお辞儀をしたら、
母さんに背中を思い切り叩かれた。

「あんた、それ、敬礼じゃない!やめなさいよ!」

身体が勝手に覚えてるんだな。
そりゃそうだ。
何回やったかなんて、数え切れない。

テレビにも出たよ。
ちょこっと写った。
『警察学校24時』ってやつ。
30歳だったかな?その人。
奥さんも子供もいて、
それでも警察官目指したくて、入校したんだって。

で、その人の特集に俺が紛れ込んだ訳。

父さんも母さんも喜んで、
父さんなんて、何回も何回も、同じ所見てたって。
俺が写ってる所。

辞める訳にはいかないよな。
親バカ。

バカ。

⋯⋯どんだけだよ。

俺は泣いた。
なってやる。
立派な警察官になってやる。

罵声を浴びたって、絡まれたっていい。

職務を全うするんだ。




無事卒業し、交番勤務に着いた。

現場は想像を絶する過酷さだった。

また詳しいことは書けないんだけど。

俺は市民の為に治安を守るんじゃなくて、
いつからか、
俺は俺の為に治安を守っていた。

俺自身を守る事に徹していた。

小さい頃、小学生だったかな?
ゲームソフト拾って交番に届けたんだ。

『おさるのモンキチ』ってソフト。
そしたら交番のお巡りさんが、
優しく受け取ってくれて、場所も細かく聞かれた。
あんまり覚えてなくて、大体ここかな?
って、地図見ながら話してたんだ。

そのお巡りさんは何処かへ電話をかけて、
「おさるのモンキチ」ってタイトル言う時に、
笑いをこらえながら話してた。

1か月位経って、誰も取りに来なかったから、
俺が貰った。
説明書はなかったけど、クリアしたよ。
面白かったな『おさるのモンキチ』。

あの人もこんな思いをしたのかな。

俺はあの、お巡りさんの笑顔を思い出していた。

テレビをつければニュースばかり。
ニュースでいつも言われるのが
「警察では⋯⋯」

無限ループだった。
警察、警察、警察⋯⋯。
何処もかしこも警察。

悪いニュースばかり。
良いニュースだけを取り上げる番組なんてない。

俺はトイレへ駆け込み吐いた。
胃の中が空っぽになるまで吐き続けた。
胃液の酸っぱさが口の中に広がった。

段々眠れなくなり、
寝付きを良くする市販薬を
ドラッグストアで買った。

病院に行く勇気もなかった。

薬を飲んで眠ると、少しボーッとするが、
寝ないと倒れそうだった。
何より常に気が張り詰めて、
ボーッとしてる暇なんてなかった。

限界だった。

俺になんかあったら、父さん、母さん、雄馬にも
迷惑かけることになっちゃうし。

勇気出して電話したんだ。
ありのまま話すしかなかった。
それも、仕事の一つだから。

「⋯⋯母さん、俺、仕事続けるの、無理かもしれない。あんま寝れなくて。薬⋯⋯飲んでてさ。ごめん⋯⋯どうすればいいか、わかんなくて⋯⋯」

思わず涙が頬を伝った。

「⋯⋯康平、いつでも帰って来なさい。あんたの身体はあんたしか守れないんだから。警官なんて、山程いるんだよ」

「⋯⋯うん、うん、でも俺⋯⋯」

「身体壊したら何にもならいよ。いいかい?何回も言うけど、あんたが一番守らなきゃならないのは、あんた自身。家族でも、他人でも誰でもないんだからね。わかった?無理だけはするんじゃないよ。良いことは一つもないからね」

「⋯⋯わかった。うん⋯ありがとう⋯⋯母さん」

「いいから、辛かったらいつでも帰っておいで。お母さんは、あんたを責めたりしないから」

俺は泣き崩れた。
嗚咽混じりで号泣した。

母さんの声も、鼻声だった。
母さんも泣いていたのは、
すぐにわかった。

でも、
俺を戸惑わせない様に、淡々とただ、
話してくれた。


それから暫くして、
俺は車を買った。

普通車だ。 

ハイブリッドの四駆。ターボエンジン。
色はホワイトパールで、
色だけでプラス20万かかった。
赤、青、黄色、グレーは全くの候補外で、
真っ白が良かった。

とびきり綺麗な白が。


初めてローンを組んだ。

後戻りする訳には、もう、いかないんだ。




これを見た貴方へ。

困ったら110番通報して下さい。
一人で解決しようと思わないで下さい。

最寄りの交番へ行って下さい。
必ず警察官がいます。

指示を仰いで下さい。
慌ててもいいです。
俺達が対処します。

抱えこまないで下さい。
必ず相談窓口があります。

直接力になれないこともあります。
ですが、決して諦めないで下さい。

信じて下さい。

罵倒しても、胸ぐらを掴んでもいいです。

それでも市民を、治安を守るのが仕事です。

「今日もご苦労さま」
なんて言われたら滅茶苦茶喜びます。

顔にはあまり出ないかもしれませんが、
内心テンション上がってます。

貴方は一人じゃない。

頼って下さい。

弱くたって何も悪くない。

俺もそういう時期がありました。

何とか乗り越え、今があります。

だから、どうか、
手遅れになる前に相談して下さい。

何かあったらいつでも言って下さい。

直ぐに駆け付けます。

生きていていく。
それは決して簡単な事じゃない。
とても難しい道のりです。

俺がそうだった様に。

ばあちゃんもそうだった様に。


落とし物一つでいいです。

誰かを思うその気持ちが、
街を守る力になります。

思いやりのある貴方がいて、俺達がいる。

それが平和に繋がります。

どうか明日も良き日であります様に。




田辺康平巡査部長より。



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