聴神経腫瘍術後にふらつきが生じる症例
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
2年ほど前に左聴神経腫瘍で手術を施行した。
術前のMRIでは、腫瘍により左小脳を圧迫していた。
2週間のベッド上安静で廃用症候になる。
2ヶ月間休職し、自宅療養であった。
今は、ふらつきがあり、二重課題ができない。
例えば
・立ち上がりながらの方向転換
但し、立ち上がって、その後に方向転換は可能
・支持基底面が狭いとふらつく
・廊下のコーナーで壁にぶつかる
・人が多いところでは片足立ちが難しい
・よそ見をするとふらつく
など
一方向の動作に集中すれば行えるが、二つ以上の動作や行動があるとふらついてしまう。
また、視覚に頼らないとふらつく。
Q) 原因は?
A) 小脳が圧迫されていたことが考えられる。
そこで、座位で姿勢反射を開眼と閉眼で見るが問題なかった。

また、振戦も見られなかった。
他に、小脳とは直接関係ないが、位置覚・運動覚も調べたが問題なかった。
そこで、下肢筋の低下を疑った。
Q) 何筋か?
A) ふらつきを起こす状態である方向転換、歩隔が狭い、片脚立位の共通点は前足部の外側よりの荷重である。
これに必要な筋は、下腿三頭筋などである。
例えば
左下肢を軸に左方向に方向転換する場合、体幹を方向転換したい左に回旋する。
それでは不十分なので、体幹の左回旋を補助するために左股関節を内旋させる。
水平面上部からの略図)

左股関節の内旋は、足底では外側荷重になる。

そこでバランスを取るには、下腿三頭筋による足部の底屈・回外作用で床反力を利用する。

なので、片脚立位で前外側荷重のバランス状態を調べた。
Q) 結果は?
A) 開眼で前方を見た時は対応可能であったが

よそ見をしてもらうとバランスを崩した。

そこで今度は、動きの中ではどうなのか調べた。
Q) 方法は?
A) 足部の前外側荷重を集中して行なわせる方法は、シザース歩行である。
Q) 結果は?
A) 開眼で前方を見る歩行は行えた。

よそ見をした歩行ではバランスを崩した。

閉眼では、バランスの崩し方が最も大きかった。

Q) ここから見えてきたことは?
A) 聴神経(内耳神経)は、蝸牛などの前庭器官を司る。
症例は左聴覚を失っていることから、前庭器官も障害されている。
よって、視覚や意識できない深部感覚などの体性感覚で対応している。
その中で、シザース歩行の現象より、視覚からの情報が大きい。
逆に、体性感覚が視覚より劣っていると捉えることができ、それを上げれば対応出来るのでは?と考えた。
ここで、検査結果から小脳の障害はない。
小脳は意識できない深部感覚を担い、バランスと関係する。
そこで、意識できない深部感覚の感度を上げることで、バランスを向上させられるのではないか?
意識できない深部感覚はゴルジ腱や筋紡錘、すなわち筋収縮である。
筋は鍛えれば、その分、筋力はアップする。
ゴルジ腱や筋紡錘は筋や腱に内在し、筋力がアップすれば、その分、感覚受容器の数が増す、感度が上がる、あるいは脳の活動領域が増える?と考えた。
鍛える筋は、上述した方向転換等で使用する下腿三頭筋と小趾側筋である。
また、評価で上記筋は左側が低下していた。
これは、術前の腫瘍により、同側性支配である左小脳圧迫の影響があるかもしれない。
Q) アプローチの方法は?
A) 足関節内転位で左片脚立位からのつま先立ちを休憩を含め10分間実施した。

Q) 結果は?
A) ふらつきは減り、シザース時の歩隔も増した。
開眼で前方を見た歩行)

よそ見の歩行)

閉眼歩行)

ここから、動作の遂行と姿勢保持という、2つの課題を担うためには十分な筋(力)が必要なことが伺えた。
exを継続して3ヶ月後、ふらつきはないとのこと。

最後までお読み頂きましてありがとうございます。
