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本当の「阿波おどり」あります

「阿波おどり、踊れるんですか?」
徳島県で生まれ育ったと話すと聞かれることがある。
全く踊れないわけではない。小学生の頃は、運動会の演目に阿波おどりがあって、練習して踊ったことがあるし、バイト先の企業連で踊ったこともある。だけど、皆さんが期待するような、美しい踊りは踊れない。
皆さんが知っている阿波おどりは、美しく、華麗で、一糸乱れぬフォーメーション、全身が躍動する、芸術的なあの踊りではないだろうか。
でも阿波おどりはそれだけではない。誰もが踊れる阿波おどりがある。

8月12日の徳島駅前の昼。これから、皆さんを徳島市の阿波おどりに案内しようと思う。
いつもは閑散としている駅前だけど、今日から四日間は、お祭りの空気が流れ、人が溢れる。スーツケースを下げた帰省中の若者、買い物客、それから本番を待ちきれない阿波おどり衣装の踊り子たち。様々な人が行き交う。
桟敷(さじき)と呼ばれる有料演舞場での演舞は午後6時ごろから始まるが、徳島駅近くの文化ホールでは、一足先に有名連が昼の公演を行っている。チケットは争奪戦だけど、できればチケットを取って、エアコンの効いたホールで華麗な阿波おどりを堪能してもらいたい。
公演に出演している踊り子は有名連の精鋭ぞろい。美しい踊り姿に見惚れてしまうに違いない。また、ホールの舞台ならではの演出も、野外の桟敷で見るものとは違って見応え抜群。構成の妙に時間を忘れることだろう。
さて、いよいよ本番開始の午後六時が近づいて来た。まずは、有料演舞場の桟敷券を買ってゆっくり見よう。一番よく見える席は、発売と同時に売り切れるので、これもまた早めの入手が必須だ。
演舞場には、様々な連が踊り込んでくる。名前の知られた有名連をはじめ、企業の連、酔っ払ってどんちゃんしているだけの学生連がいる一方、サークル活動として真剣にやっている高校生や大学生の学生連もいる。それから、県外から来た連、例えば高円寺で踊っている連や関西で結成された連など。また阿波おどりではないけれど、同じ「踊り」の交流ということで、他県や海外の踊りの団体が踊りこんでくることもある。音楽や踊りは世界共通の言語だ。企業連には、その企業のCMに登場する有名芸能人が出場することもある。有名連はすばらしい踊りを披露し、学生はただひたすらに若さを爆発させて踊りまくっている。それもまたいい。

午後8時にもなれば、阿波おどりのボルテージはうなぎのぼり。昼間のように明るい照明の下、歩行者天国となった道路は、浴衣のカップル、家族連れ、観光客、踊り子が入り交じり、肩がぶつかるほど。いたることろに屋台が並び、コンビニの駐車場でもビールを売っている ビール片手に屋台をひやかし、食べたいものを食べ、飲みたいものを飲みながら移動する。歩き疲れたら、新町川のほとりで休憩するのがいい。川風が吹いて、少し涼しい。
お腹が満たされたら、有料演舞場以外のいろんなところで、踊り足りない踊り子たちが踊りを披露しているので見つけに行こう。
踊りの輪は、「見る阿呆」を「踊る阿呆」に変えるパワーがある。きっとあなたも踊りの輪に加わってしまうことだろう。本場での阿波おどりの楽しみは、この小さな踊りの輪にあると思う。

10年ほど前のことだが、夫と阿波おどりを見に行った。
有料演舞場から少し離れた歩行者天国に、盆踊りのようなやぐらが組まれていた。何が始まるのだろうと見ていると、そこに若者のDJが現れた。
「ヤットサー、ヤットサー」
掛け声は変わらない。でもリズムがラップ調になっているではないか! 阿波おどりがラップになるのかと驚いて、しばらく様子を見ていると、一人、また一人と普段着の「見る阿呆」たちが、やぐらの下に集まって、ラップ調の「ヤットサー」に合わせて阿波おどりを踊りながら、やぐらの周りを回り始めた。輪に加わる人がみるみる増え、あっという間にやぐらを中心に巨大な「踊る阿呆」たちの渦が生まれた。
踊りはぜんぜん上手くない。ただただ、右手と右足、左手と左足を同時に出して、阿波おどりのリズムに体を揺すっているだけだ。けれど、踊っている人は我を忘れて楽しんいた。
「ヤットサー、ヤットサー」
ラップのリズムでDJが歌うと、
「ヤットサー! ヤットサー!」
踊りの渦から合いの手が入る。
「ヤットサー、ヤットサー」
「ヤットサー、ヤットサー」
ヤットサーのコール・アンド・レスポンスは、いつ終わるともなく、続いた。そして、かなり長い時間がたって、急に音楽がやむ。同時に踊りの渦も止まった。その次の瞬間、
「ワーーーーーー‼」
大きな歓声と拍手が起こった。

以前、父がケーブルテレビの阿波おどりの生中継をを見て、嘆くように言った。
「阿波おどりは、あんなショーみたいなもんとちゃう。昔はみな自由に踊りたいように、好きなように踊んりょった。ほれが、ほんまの阿波おどりじゃ」
美しく華麗な踊りは、見るものを魅了し、阿波おどりを芸術の域に到達させている。私もそんな有名連の踊りを見るのが大好きだ。でも、本当は、鳴り物の二拍子のリズムに乗せて、手と足を同時に出して踊る。
それが「阿波おどり」なのだ。本当は誰だって「踊る阿呆」になれる。
 やぐらを回る踊りの渦、これが、まさに、父の言っていた「ほんまの阿波おどり」っていうやつだ。でたらめでめちゃくちゃで、美しくも、かっこよくもないけれど、踊る人々のエネルギーを感じる素敵な踊り。テレビやニュースでは見られない、ガイドブックにも載っていない、ここに来た人にしか体験できない、本物の阿波おどり。わずか四日間の徳島の一大イベント。これが終われば、徳島の夏は終わる。
 あなたも阿波おどりの本場徳島で、一緒に「見る阿呆」から「踊る阿呆」になって、ひととき、全てを忘れてみませんか?


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