航海ログ #28 化石ジジイ
その時だった。
酒場の奥の席から
低い笑い声が聞こえた。
⚫️
「……くだらねぇ。」
空気が
一瞬で変わった。
奥の暗がりに
ひとりの男が座っていた。
腕を組み。
不機嫌そうな顔で。
こちらを見ている。
濁った目。
刻まれたシワ。
時代に取り残されたような
重たい空気。
アテナは静かに言った。

🔵
「時代遅れの化石ジジイ。」
俺はその男を見た。
新しい力が現れるたび
それを笑い。
否定し。
触れようともしない者。
それが
化石ジジイ。
⚫️
「質問する力?」
「組み合わせる力?」
「行動する力?」
「笑わせるな。」
男は椅子にもたれながら
吐き捨てるように言った。
⚫️
「そんなもん
AIなんかに頼ってる時点で終わりだ。」
「人間が頭使わなくなったら
全部終わりなんだよ。」
「楽して答えをもらって
分かった気になってるだけだろ。」
酒場の空気が
少しざわついた。
たしかに
その場にいた何人かは
頷きかけていた。
「なんか分かるかも」
「AIって結局ズルくない?」
「自分で考えない人が増えそう」
そんな声が
小さく広がっていく。
俺は少しだけ
拳を握った。
でも
怒るより先に
気になった。
こいつは本当に
何も知らずに言ってるのか。
それとも。
何かを知った上で
なお否定しているのか。
🔴
「おっさん。」
「AI、使ったことあんのか?」
化石ジジイは
鼻で笑った。
⚫️
「ねぇよ。」
🔴
「触ったことも?」
⚫️
「ねぇ。」
🔴
「仕組みは?」
⚫️
「知らん。」
俺は少し黙った。
そして思った。
やっぱりそうか。
知らない。
触ってない。
試してない。
それで
全部を否定してる。
アテナが静かに
前へ出た。
🔵
「知らないものを
怖がる気持ちは自然です。」
「ですが
知らないまま笑うことは
強さではありません。」
「それはただ
可能性から目をそらしているだけです。」
化石ジジイの眉が
ぴくりと動いた。
⚫️
「可能性だと?」
「そんなもんに頼って
仕事が増えるのか?」
「金が稼げるのか?」
「人生が変わるのか?」
その問いに
俺は少しだけ
息を飲んだ。
たしかに。
そいつの言葉には
嫌な重みがあった。
理屈じゃなく
現実を見ろ。
そう言いたいんだろう。
でも。
だからこそ
俺は言いたかった。
🔴
「変わるかどうかなんて
最初から分かるわけねぇだろ。」
酒場が静まった。
🔴
「でもな。」
「触ってもないのに
否定してたら。」
「試してもないのに
笑ってたら。」
「変わる可能性すら
自分で潰してるのと同じだ。」
化石ジジイは
じっと俺を見た。
その目は鋭かった。
でも俺も
目をそらさなかった。
🔴
「AIがすげぇんじゃねぇ。」
「それをどう使うかだろ。」
「質問して。」
「組み合わせて。」
「動いた奴だけが
次の景色を見るんだ。」
酒場の空気が
少しずつ変わっていくのを感じた。
さっきまで
“なんか怪しい”で止まっていた視線が、
少しだけ
“じゃあ試してみるか”
に変わり始めていた。
化石ジジイは
ゆっくり立ち上がった。
⚫️
「……坊主。」
「口だけなら何とでも言える。」
「だったら見せてみろよ。」
「そのAIとやらで。」
「お前の未来が
本当に変わるってところをな。」
その言葉を残して
化石ジジイは酒場の奥へ消えた。
重たい沈黙。
そしてそのあと。
俺は小さく息を吐いた。
🔴
「アテナ。」
「めちゃくちゃ感じ悪いな、あいつ。」
アテナは少しだけ笑った。
🔵
「ええ。」
「ですが船長。」
「こういう者は
これから何度でも現れます。」
「新しい力を否定する者。」
「変化を怖がる者。」
「そして
挑戦する者を笑う者。」
俺は静かに頷いた。
たぶん
これが最初なんだ。
この海で進むなら。
こういう相手とも
向き合わなきゃいけない。
逃げずに。
言葉でも。
行動でも。
示していかなきゃいけない。
🔴
「だったら見せるしかねぇな。」
「俺たちが
この海をどう進むのか。」
アテナは
静かに頷いた。
🔵
「はい、船長。」
「航海は
ここからです。」
⸻
AI航海は続く。
⸻
次回予告
航海ログ #29
AIを使う者、使われる者の差
同じAIを前にしても
未来が変わる者と
何も変わらない者がいる。
その差は
一体どこで生まれるのか──
⸻
船長
ヤマザル 🏴☠️
#AI海賊記
